先日、埼玉のとある病院に代診に行きました。着くと看護師から、「次に来る先生がいないので、今日で外来は終わりなんです。先生紹介状とかお願いしますね。」と言われました。
初めて行く病院で、初めて診る患者ばかりですが、分厚いカルテをひっくり返して、一人一人問題点を整理し、次の受診先を決め、紹介状を書きました。医師が確保出来ず、一つの診療科を閉めるというのが、これ程切ないものかと思いました。
一番困るのは患者でしょうが、これから医療崩壊が始まり、同様の光景があちこちで見られるようになります。固定観念をもたれている方もいますが、医師は決して楽をしている訳でもなく、医療の高度化に伴う負担増を制度的に支えられなくなってきているのです。一人の患者にかかる労力は、一昔前より雲泥に増しています。
医学が高度化すれば、それだけ鑑別診断も増えるし、検査法も増えます。今まで「原因不明」「調べる手段がない」「治療がないから」と全身管理のみであった疾患も、多くの検査が行われ、いくつもの治療が組み合わされることとなります。医師はそれらの検査、治療のすべての指示を出し、結果を評価します。医学の進歩は労力を増やす方向に働くというのが感覚的にわかると思います。治療にしても、例えばt-PAという治療は、ほぼ24時間医師が一人の患者につきっきりで診察していないといけません。
訴訟の増加は、防衛のための書類を山のように増やします。Informed consentの充実はそれだけでかなりの時間を要します。また、コンビニ感覚での夜間の受診が増えています。旧泰然とした制度で、これらが支えられるとは思いません。
医療崩壊について、多くの医師が警鐘を鳴らしています。日本的な特徴として、夕張市の例をとるまでもなく、問題が顕在化するときは、手遅れになったときです。こうした問題に対するマスコミの報道も貧困なものです。
(参考)
・三重県医師会 日本の医療が崩壊する?!
・新小児科医のつぶやき -春のドミノ-
12月11日は当直でした。翌日は当直明けに症例検討会で発表。世界的に珍しい疾患を発表しました。こうした症例検討会で発表するために、前日英語の論文 30本くらい読んで準備してきたのですが、教授、助教授クラスの質問はやはり厳しいものでした。とはいえ、私のみならず、世界の誰もがわかっていないことなので、いずれにせよ仮説でしか答えられませんが。
症例検討会が終わると、医局の忘年会に行くために駅に向かいました。駅のホームで、愛読紙の東京スポーツを読んでいると、後ろから「いやー、一緒になっちゃったねぇ」との声が。無視して新聞に集中していると、もう一度「いやー、一緒になっちゃったねぇ」。人違いかと思って後ろを向くと、楽器を抱えた教授でした。
電車で一緒に話せるといううれしさと、気付かなかった後ろめたさ。東京スポーツはそそくさと鞄にしまいました。
電車の中では、いろいろな話をしました。
私が、ルツェルンのピカソ美術館で「3人の楽師達」という絵を見たと話すと、教授は「ルツェルンは思い出の街でね。パリでお金がなかったときに、バーゼルで会議があって、『よしっ』と思ってルツェルンに時計を買いに行ったんだ。鳩が出てくるやつ。ラヴェルの家にあったような時計が欲しくてね。パベル橋が燃える前の話だけど・・・」
また、ハンブルクの話、ドイツの綺麗な街の話、演奏家の話など話題は尽きませんでした。
ホテルに着くと、早速練習を始めました。最初は全く呼吸が合わない箇所もありましたが、3回くらい練習して合うようになったのでそのまま本番に挑むことにしました。
練習後、教授は夜景を指さし、「あそこが僕の母校で、池辺晋一郎とか坂本龍一が出身なんだよ」と教えてくださいました。
忘年会は、私が2人の幹事の内1人でしたが、ほとんど仕事せず、同僚に仕事して貰っていました。どうも幹事というのは苦手です。
そして、いよいよ演奏の時間が来ました。曲は「DUO in B, KV 424 (W.A.Mozart)」。
練習ではゆっくりめのテンポで演奏しようと話していたのですが、アルコールが手伝ったこともあり、CD同様のテンポで始まりました。リズム感のある部分の多い曲なので、速いテンポが生きたと思います。教授が「この部分綺麗だね」とおっしゃったころは、お互いの呼吸が一致して、美しく演奏出来たと思います。
直前に 3回合わせただけで本番なので不安はありましたが、大きなミスもなく演奏することが出来ました。教授からも、終了後「楽しかった」と言って頂けて万感の思いでした。
2次会は親しいものだけで飲みに行き、そのうち 3人で 3次会へ。午前 1時過ぎまで飲んで乱れていましたが、さすがに徹夜明けなので睡魔に襲われ帰宅しました。
演奏を聴いていた先輩医師から後日メールを頂きました。嬉しかったので、許可を得て転載させて頂きます。
先生のバイオリンはなかなかのものだと風の便りに耳にしておりましたが、こんなに素晴しいものいだとは予想していませんでした。
いままで聴いた医者の演奏のなかで、初めて「医者の余技だから」と自分を無理に納得をさせる必要なく、楽しんで聴くことができました。もっとも、上杉先生の生の演奏を知らないものだから、バイオリン以外の演奏についてはあまりいいかげんなことはいえないけれど。先生の演奏を聞いただけでも、あまり良くない体調をおして夜の新宿に出かけた甲斐があったというものです。J.S.Bachの無伴奏バイオリンパルティータのあの有名なシャコンヌは、先生弾けるかな?もしできたら、なにかの機会に聴きたいものです。
それにしても、良い演奏を、ありがとう。