爆発

By , 2007年3月25日 4:45 PM

古いニュースになりますが、日大医学部の爆破事件。

日大医学部(東京都板橋区)の学生用準備室でガスボンベを爆発させた上、医学部に脅迫文を送り付けたとして、警視庁捜査一課と板橋署は21日までに、激発物破裂と脅迫の疑いで、日大医学部5年三木基弘容疑者(24)を逮捕した。

捜査1課によると、爆発当時、準備室内は無人でけが人はなく、木製棚などが破損する被害だけだった。「知人に頼まれ、爆発させる道具を組み立て、脅迫文を作成しただけ」と供述しているが、捜査1課は単独犯とみており、詳しい動機などを追及する。

調べでは、三木容疑者は2月14日午前9時ごろ、医学部本館地下1階にある5年生用準備室で、ロッカー内に置いたガスボンベを爆発させ、棚などを破損した疑い。

さらに同17日、医学部あてに「あれはデモンストレーションだ。今度はすごいことになる」などとした脅迫文を郵送し脅した疑い。

三木容疑者は、電気こんろの上にガスボンベ2本を置き、タイマーで自動的に通電させて、ボンベを爆発させる仕組みにしていた。(日刊スポーツ)

被疑者の同級生にメールで情報収集。レスを頂きました。

「おひさしぶりです。遅くなってすみません。彼は,学年一位でまじめな感じでした。。。私もびっくりしるんですけど。。(・・;)」

この行動を予想するのは難しかったと思います。

医学部の受験では面接もあり、よっぽど異常なら排除するでしょう。しかし、短時間の面接で、こうした反社会的行動を行うか判断するのは困難です。つまり、面接には限界があります。高度化した医学を修めるには学力が必要ですので、面接は行うにしても、これまで通り入試は学力で評価でするしかないでしょう。人が人を評価するのに最も客観的な指標の一つですしね。入試で見抜けなかったのは当然にしても、入学後もそうした兆候は見られなかったようです。難しい・・・。

医学部生の中でこうした反社会的な人間が稀なことだけは主張しておきたいです (他の社会同様ゼロではない)。

何にせよスケールの小さい・・・。

(参考)

ssd’s Diary-嘆かわしい医学生-

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タミフルを考える

By , 2007年3月25日 2:51 PM

インフルエンザの治療薬オセルタミビル(商品名;タミフル, 以下タミフル)がマスコミに格好のネタを与えています。特に10歳前後において、タミフル内服後、転落死が相次いでいる問題です。

しかし、科学的検証はなされず、ヒステリックな反応が目立ち、「薬害」を想像させる報道の数々がなされています。

そもそも、我々医師にとって、副作用のない薬はないのであって、どのような薬剤が重篤な副作用を起こしても不思議はありません。薬剤の使用はメリットとデメリットによって決められます。従って、放っておいても治る程度の風邪には、私はほとんど薬を出しません。患者は薬を出す医師が良い医師と考えるでしょうが、医師にとってはそうではありません。

そのため、タミフルのメリットとデメリットを天秤にかける必要がありますし、情報を開示して、患者と医療関係者が選択出来るようにするのが先決だと思います。少なくとも薬剤としては有用ですし、全て禁止にはすべきではありません。

さて、転落死は本当にタミフルのせいなのでしょうか?

タミフルを内服せずに2階から転落した事例があり、患者が助かったため、どのような心理状態だったかの記録が残っています。「何かに追われている気がした」という言葉は、「せん妄」に類するものと言えます。

 西日本で先週末、インフルエンザにかかった男子(14)が、自宅2階から飛び降り、足を骨折していたことがわかった。タミフルは服用していなかった。

主治医によると、この男子は15日、38度の熱があり、翌日いったん熱が下がったものの、17日未明に自宅2階から飛び降りたとみられ、玄関先で倒れているところを発見された。

病院搬送時に熱があり、検査でB型インフルエンザに感染していたことがわかった。男子は「夢の中で何かに追われ、飛び降りた」と話しているという。

タミフル服用後の「飛び降り」事例が相次ぎ、薬との因果関係が疑われているが、服用していない患者の飛び降り例はこれまであまり報告がないという。このケースは来月、厚労省研究班会議で報告される予定。 (http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070323-00000301-yom-soci)

また、インフルエンザ脳症を扱ったサイトでも、インフルエンザ脳症でどのような高次機能障害が起こったか記載されています。

1.両親がわからない、いない人がいると言う(人を正しく認識できない)。
2.自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
3.アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見える、など幻視・幻覚的訴えをする。
4.意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない。
5.おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情
6.急に起こりだす、泣き出す、大声で歌いだす。

問題は、一般的な熱せん妄なのか、インフルエンザ脳症によるせん妄なのか、タミフルによる高次機能障害なのか、それ以外なのかになります。熱せん妄なのか、インフルエンザ脳症によるせん妄かの鑑別は難しそうです。タミフルの影響 (直接せん妄を起こさせる、或いは間接的に熱せん妄の閾値を下げる可能性) については、タミフルを飲んだ群とそうでない群を比較する必要があります。

「インフルエンザ」というマニアックな医学雑誌で「抗インフルエンザ薬の有効性」と題した鼎談が行われていました(抗インフルエンザ薬の有効性. インフルエンザ 7: 263-272. 2006)。

A型インフルエンザの子供にオセルタミビルを投与すると、翌日には少なくとも半分の子供の熱が下がって、その2日後にはほとんど90%以上の子は解熱してしまいます。

(中略)

オセルタミビルは異常行動や幻覚などの問題があると報道されたのですが、基本的に精神神経症状は、オセルタミビル群とプラセボ群で、両方とも同じくらい出ています。これは治験のときのデータです。

また、別にFDAレポートもあり、タミフル内服後の精神症状について詳細に検討しています。しかし、薬剤と異常行動との関係を証明するには至っていないようです。

 タミフル内服後の精神症状の報告は、1999年から 2005年8月29日までに 126例存在し、2005年8月29日から 2006年7月6日までに、129例存在します。既往歴や情報不足などから 26例を除外し、129例の中から 103例について検討しました。103例のうち 95例は日本の報告でした。17歳未満が (67%)、男性が 74%でした。死亡した 3例にはタミフルが影響している可能性がありました。しかし、インフルエンザ脳症との鑑別は困難でした。

これらの検討から、現時点ではインフルエンザに罹患した時点で、タミフル内服の有無に関わらず、異常行動を起こすリスクがあると考えるべきです。

今後、インフルエンザ患者にはザナミビル (商品名;リレンザ, 以下リレンザ) が処方される可能性が高くなり、現に在庫が尽きつつあります。しかし、インフルエンザへの罹患そのものが異常行動のリスクなのであれば、リレンザによる異常行動と報道される事例も増える筈であると予言しておきます。

この記事について、筆者には製薬会社との利害関係はありません。

—-
追記です。アマンタジン(商品名;シンメトレル)という薬剤があり、A型インフルエンザに有効とされています。しかし、耐性化が進んでいるようです。昨年、パーキンソン病治療のためアマンタジンを内服していた老人が大量にA型インフルエンザで入院してきて、大変でした (ちなみに、この薬剤、高齢者だと結構せん妄の原因になるのです)。あまり効きそうにないですね。

後日、同僚の医師からメールが来ました。内容を引用します。

 インフルエンザで高熱を出して、我輩も中学校2年生の時におかしくなりました。
何かが天井から落ちてきて、追いかけられる夢を見て、恐れおののいていました。
その時に、「さかべこ」が来ると言って母親を困らせたそうです。
「さかべこが来るから、早くいかな」と言ったところで、母親が「何言ってんの」
と言い、我にかえりました。自分では、「さかべこ」と言っていた記憶すらありません。
ただ、あの怖い夢だけは覚えています。
ちなみに、当時の一番中の良かった友人は「坂部」君でした。
タミフルが原因でないことは、自分が良くわかります。

(参考)

M. Studahl. Influenza virus and CNS manifestations. J Clin Virol 28: 225-232, 2003

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