ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足
「ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足 (小長谷正明著、中公新書)」を読み終えました。
一般人でも十分読めるように、かみ砕いて書かれています。それでいて、医師から見ても考証がしっかりしています。
本書には、「神経内科からみた20世紀」という副題がついています。著者は私と同じ神経内科医です。
目次
まえがき
震える総統 ヒトラー
言葉を失ったボリシェヴィキ レーニンとスターリン
主席の摺り足 毛沢東
大統領たちの戦死 ウィルソンとフランクリン・ルーズベルト
芸術家、大リーガー、兵士 モーリス・ラヴェル、ルーゲーリック、横井庄一
二〇世紀のファウスト博士 ハーラーフォルデン
映像の中のリーダーたち
あとがき
参考文献
最初はヒトラーについて。彼がパーキンソン病であったことが、様々な証拠から示されます。ヒトラーのパーキンソン病のスコアなども紹介されます。
毛沢東は、筋萎縮性側索硬化症であったそうです。「新たな医療機動班を各都市に作って、中国中から同じ病気の患者を集めて治療し、もっとも効果あるものを主席に応用してみたらどうか」という意見すらあったようです。結局、西洋医学の情報を集めますが、如何なる治療も効果はありませんでした。現代でも難病です。
ハーラーフォルデンは、ハーラーフォルデン・スパッツ病に名前を残していますが、ナチスが虐殺した死体を研究していたそうです。
ナチスの虐殺 (T4計画) は優生学、「生きるに値しない命」という考えを元にしています。一方で、このような考え方はナチスだけでなく、フォスター・ケネディ症候群やレノックス・ガストー症候群に名を残したフォスター・ケネディーやレノックスやガストーにも見られ、彼らが 1942年に発達障害児の安楽死を提唱していたことを知りました。
著者は、あとがきで「医学の進歩や病態の追究を急ぐ余り、倫理観を見失ってはいけない、そう思って、ハーラーフォルデンの事例を検証した」と述べています。
我々も残酷な人体実験で得られた情報を何気なく使っています。例えば、ナチスが実験した「一酸化炭素中毒の脳に及ぼす影響」「氷水中で何分生きられるか」などです。本書で知ったこれらの情報を思い出す度に、虐殺された方々のことを考えそうです。
本書はわかりやすく読むことが出来、それでいて残るものの多い本です。是非お薦めします。