鏡の中の物理学

By , 2007年6月30日 10:52 PM

「鏡の中の物理学 (朝永振一郎著、講談社学術文庫)」を読み終えました。高校時代に、彼の書いた「物理学とは何だろうか」という本を読んだ記憶があり、それ以来です。

この本は、光の「粒子」としての性格と、「波動」としての性格について扱ったものです。特に物理学の知識がなくても読めます。

本のタイトルの「鏡の中の物理学」というのは、自然界の法則が、左右、時間、粒子反粒子を反転させる3枚の鏡に対して対称性であるという意味です。もちろん鏡の表面がゆがんでいなければの話でしょうが。時間を反転させる話については、「カオスから見た時間の矢」という本を思い出しました。

最終章では、波乃光子という被告を扱った「光子の裁判」というユニークな裁判が行われます。光子が2つの窓を同時に入ることが出来るかという、光の性質が描かれます。

物理学に対する彼の思いは、小柴氏と似たところがあります。小柴氏は新聞で「全て、役に立つかどうかで判断すべきではない」という趣旨の発言をしていた記憶がありますが、朝永氏も同様の事を述べています。

 現在、世の中には、物理学にかぎらず科学というものを賛美する人は少なからずいるわけですが、それらの人々にとって、科学とはひじょうにいいものであるという理由は、多くの場合、科学はわれわれの生活を便利にし、より豊かにしてくれる、そういうことが理由になっていると思うのです。けれども、この観点に立つならば、科学がほんとうにわれわれの生活を豊かにしているだろうかという、そういう考えかたもありうるわけで、じっさい、科学がかえってわれわれの生活を悪くしているのではないか、そういう見方もありうるわけです。で、そこに科学の賛成派と反対派ができて、賛成派は、科学はわれわれの生活をより便利に、より豊かにしてくれる、だからそれはいいものだという。ところが反対派は、いや科学のせいでいろいろ公害が出たり、原爆ができたりする、だから科学は悪いものだという。そういうふうな議論ですね、それがはてしなく続く。ところが、科学というものは、そういう観点でいいとか悪いとか論ずることのできない、なにか別の意味を持っているのではなかろうかと、そういう考えかたもありうるわけです。

つまり、科学の本質というのは、生活をよくするとか悪くするとか、そういう次元と別な次元の価値あるいは、少なくとも意味をもっているのではなかろうか、そういう、よくするとか、悪くするとかいう観点とは別の方向にむいているような意味があるのではないかという、そういう問いの出し方があるわけですね。

いま、鏡にうつったのがどうとか、フィルムにうつして逆にまわしたからどうとかいうようなことは、それを研究したところで、ほんとうをいうと、それは人間を幸福にもしないし、不幸にもしないわけです。で、科学をこういう面から見る見かた、第三の見かたですね、これを忘れないでほしいように思うのです。

小柴氏、湯川氏、朝永氏とノーベル物理学賞受賞者の書いた本を色々と読んできた訳ですが、また機会があれば、江崎玲於奈や、ノーベル化学賞受賞者の書いた本も読んでみたいなと思います。

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政治武士道

By , 2007年6月30日 7:28 PM

「政治武士道 (平沼赳夫著、PHP研究所)」を読み終えました。政治家の本は、友人に勧められた、石原慎太郎の「国家なる幻影」以来です。政治の話をここに書くのは初めてでしょうか。

平沼赳夫という政治家は、私の地元の選挙区になります。郵政問題で自民党を離党して、その後自民党に復帰する条件として求められた誓約書を拒否して無所属のままです。他の議員達の変わり身の早さに比べて、筋の通った政治家として、興味を持っていました。

本書を読むと、如何に郵政民営化法案が、民主主義の手続きを無視した決められ方をしたかがわかります。政治は綺麗事ではないかもしれませんが、我々は、小泉人気の影で、ただ浮かれていたのですね。

郵政民営化法案について、自民党総務部会で、原案ではなく、誰も見たことのない修正案が、いきなり持ち出されました。その手続きのおかしさに、31人の委員の19人が採決を拒否し、7人が賛成し、5人が反対したそうです。それが賛成多数となってしまいました。

国会では、郵政民営化特別委員の委員会採決直前に、反対に回る可能性がある委員をすべて賛成派に差し替えて、短兵急に法案を通過させ、本会議に出されました。本会議では威嚇、恫喝、懐柔などを経て、結果として5票差で法案が可決。参議院では否決され、衆議院解散です。

平沼氏の行動は、この手続きに反対したことが大きな理由であったと知りました。また、長銀が国から公的資金をさんざん受けたあげくに、ただ同然の値段で外資に瑕疵担保条項 (債権が不良化したら、日本政府が責任を負う) 付きで売られたことがあり、郵政事業の340兆円が二の舞になる、外資に流れてしまうという危惧もあったようです。長銀を10億円で買ったリップルウッドは、株を上場すると2300億円で売れ、毎年数百億円の利益も得ているとのことです。

彼は憲法改正を初めて選挙に出たときから掲げています。彼の「日本国元首は天皇である」という考え方は、私と異なりますし、いくつか相容れない考え方があります。しかし、本書を通じて、彼は人間的には面白い人であるなと感じました。人間的な魅力のある人は、思想が違っても好感が持てます。

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