(新) 細胞を読む

By , 2007年9月29日 11:04 PM

「(新) 細胞を読む (山科正平著、講談社BLUE BACKS)」を読み終えました。

電子顕微鏡写真を主として紹介した本です。最初に、大まかな体のつくり、電子顕微鏡の原理などを説明し、一般的な細胞モデルを解説した後、個々の細胞を見ていきます。

ブルーバックスで小型サイズなので持ち運びに便利ですし、本の半分は写真などで構成され、見開き 2ページで一つの項目を解説してあるので、非常に読みやすくなっています。

本書の帯に、福岡伸一氏が「これは至高の芸術作品である」と賛辞を寄せています。私も全くの同感です。マクロでの人体の美しさというのは、多くの絵画や彫刻で美しく描かれてきたことからもわかるように、普遍的な概念だと思います。これは、マクロの視点だけではなく、ミクロの世界でも言えることではないかと感じました。それほど、電子顕微鏡でみる世界は魅力的です。

著者の文章は非常に読みやすく、文中至る所に著者の豊富な経験やユーモアを感じます。最後に引用するのは、その例です。

(67) よだれを生み出す半月

粘液は粘性が高いばかりか、水を吸って膨潤するという性質がある。そのため、電顕でも光顕でも、分泌顆粒の内容が非常に明るく、膨れあがって見えるのが特徴だ。前に見た杯細胞はそうした顕著な特徴を示していた。しかし、唾液には粘液だけではなく、消化酵素、免疫グロブリン、抗菌作用を持つ物質なども含まれ、こうした成分は粘液に比してサラサラしていることから漿液と総称されている。前に見た耳下腺は漿液を産生する外分泌腺で、その細胞では分泌顆粒が明瞭な限界膜に包まれ、内容も濃く染まっている。

唾液腺の細胞では、粘液と漿液の産生が明瞭に分業されている。その上、一つの腺房に両者の細胞が混在していることも珍しくはない。ヒトの顎下腺や舌下腺では、こうした混合像がよく目にされる。一つの腺房に両者が混在すると、明るい粘液細胞に、濃染する漿液細胞が半月状にへばりつくという、特徴的な像を呈してくる。発見したイタリア人科学者名を付けてジアヌッチの半月として有名で、古来、教科書に記載されてきた。

ところがこの半月、標本を作製する際に粘液細胞が大量の水を吸って膨潤した結果、漿液細胞が押し出されてやむなく半月状をなすにいたった人工産物で、自然の状態では半月は存在しないことが判明してきた。人工産物ともなれば、お月さんの有り難さもかなり落ちてくる。

ジアヌッチは優秀な医師だったが、不倫をした妻に砒素を飲まされて非業の死を遂げたらしい。そのため、著者が、半月は人工産物だと国際学会で発表したとき、あるイタリア人に「ジアヌッチは二度殺された。二度目に殺したのはあなただ」といわれて、返答に窮したことがある。

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