脳とことば
「脳とことば (岩田誠著、共立出版)」を読み終えました。
本書は、失語症研究の歴史から始まります。紆余曲折を経て、現在の失語症の分類体系があり、これまでの研究の過程を知っておくことは、非常に有用です。また、自分が同時代の人になったような感覚を覚え、次の興味が引き起こされ、引き込まれます。
失語には、全失語、ウェルニッケ失語、ブローカ失語、超皮質性感覚失語、超皮質性運動失語、皮質下性感覚失語、皮質下性運動失語、伝導失語、失名辞失語など多くのタイプがあることが知られていますが、それぞれの責任病巣がどこにあるのかは、議論の余地があります。一般的な教科書的には、○○の部位で△△の失語が起こると書いてあるのですが、例外も列挙されており、それらを総合すると、結局「どこででも起こりうるんじゃないか?」と感じさせられます。でも、本書を読むと、何故そこで起こるのか、例外があるとすれば、どう扱われるべきものか、詳細に検討されており、知識を整理することが出来ました。本書の優れた点は、「○○という報告がある」ことを列挙するのではなく、一つ一つ検討し、それらを全て説明出来る体系を築いていることです。
一つは著者の優れた洞察力があるでしょうし、さらには形態学者として、臨床医としてなど、様々な方向のアプローチが挙げられるでしょう。著者の業績として特筆すべきは、”漢字” と ”かな” の二重回路仮説です。著者は、さまざまな脳血管障害症例を検討し、漢字とかなは別の回路で認識していることを提唱し、証明しました。これは、失語症研究に新たなる方向性を与えました。
医学的な素養が読むのに必要かもしれませんが、高次機能学の勉強をするのに、本書は最も薦めたい本の中の一冊です。