読書
雑誌「東洋経済」の 6月 21日号は、「最強の『読書術』」特集でした。
様々な著名人が、自分の読書術を語るのですが、本に対するスタンスは人それぞれなんだなと興味深く思いました。雑誌に登場する読書人達の、月間の本代は 5-10万円だったのですが、私も同じくらいです。ただ、彼らが一ヶ月に読む本の冊数の多さにはびっくりしました。読むスピードもきっと速いのでしょうね。私の場合は、辞書的に買っている医学書の値段が高いので、多くの冊数を読まなくても、金額が嵩みます。
さて、巷では「速読」というのがもてはやされますが、本の読み方は TPOに応じて変えるべきなのではないかと思います。ハウツー本みたいに、単に情報を得るだけの目的のときには速読も良いですが、小説や歴史書、哲学書を読むときは、ゆっくり妄想に浸りながら、或いは頭の中で議論をしながら、或いは著者の意見と対比して自分の考えを確認しながら読むのが、乙なものです。また、人それぞれ、自分の読書法があって然るべきかなと思います。
読書法に関しては、忘れられない思い出があります。
私は、中学生時代、妹尾与三二氏という作家の私塾で、数学を習っていました。師の自宅に毎週木曜日に伺い、問題を解くのです。竹藪に囲まれた小さな自宅の一部屋に男子生徒が3~4人、もう一部屋に女子生徒が3人、それぞれ机を囲んで問題を解き、最後にみんなで集まって解説を聞くというスタイルです。
妹尾与三二氏は、作家ですので、自分が書いた本をくださったことがありました。中学生だった私は、如何に難しい本をささっと読みこなすかで、大人ぶった振りをしていたところがあり、出来るだけ難しそうな歴史書を買ってきては、読んで偉くなった気がしていたものです。そんな私は、師がくださった「四度目の幸運」という本について問われ、「3時間くらいで読んだんですけど、云々・・・」と誇らしげに答えたのです。
せっかくの本の感想に、そんな返事を貰った、その時の師の悲しげな顔が忘れられません。師は、一言、「もう少し大切に読んで欲しかったな・・・」と仰いました。
本の内容は、ある落ちぶれた老人の話で、富豪だった男が戦後の価値観の変化で、凋落していくストーリーでした。師の家も、もともと富豪で、家には美術品がたくさんあったそうですが、私が師事していた頃に住んでいたのは、竹藪の中の小さな家。もちろん、美術品なんて全然ありませんでした。主人公と師の境遇は驚くほど似ており、自分と重ね合わせ、書き上げた小説だったと思います。彼が、自分の生きた証を刻み込んだような小説でした。
今になって思うと、その作品にかける作家の思いに、如何に失礼な態度だったか、自責の念に駆られます。もう、師も亡くなり、謝ることはできませんけれど。でも、その時のことを思い出す毎に、一冊の本を大切に読まないといけないなと思います。
ま、一方で、そんな気も起きない本もありますけどね。