Ice test
暑い夏にはアイスが食べたくなりますね。とはいっても、だいぶ涼しくなってきましたが。
重症筋無力症に対する「Ice test」についての論文を読んでみました。この検査、何故か神経内科の教科書にはあまり書いてありません。でも、最初に報告されたのは 1979年の Neurologyであるそうです。
重症筋無力症は、神経筋接合部での自己抗体 (抗アセチルコリンレセプター抗体、抗 Musk抗体など) の作用により、神経から筋肉に命令が伝わりにくくなり、筋力低下を主体とする諸症状を起こす疾患です。自己抗体の測定や、電気生理学的検査 (反復刺激試験、single fiber EMG)、テンシロンテスト、筋生検といった方法で診断をつけます。しかし、なかなかクリアカットには診断出来ない症例が存在することが事実です。また、患者の多くが「だるさ」を訴えるため、うつ病などの精神疾患や詐病と鑑別が必要になることがあります。
今回取り上げる Ice testは、眼瞼下垂を訴える重症筋無力症に対する、ごくシンプルな検査です。やり方は、閉眼した眼瞼の上に、袋に入れた氷を2分間置きます。眼瞼下垂が 2mm以上改善すれば陽性とします (文献によって、やり方に多少の違いはあります)。感度 90-95%、特異度 100%とされています (Fisher症候群で陽性を示した報告もあり、実際には特異度100%とはいかないようです)。冷却することによって症状が改善する機序は、おそらくアセチルコリンエステラーゼの機能を阻害するからではないかと考えられています。
Ice testの利点は、何より簡便であり、テンシロンテストと違って副作用がないことです。そして、ある程度の感度・特異度が保証されます。
欠点をあげるとすれば、氷を眼瞼に置くと、患者にわかってしまうため、プラセボが使えないことでしょう。そのため、詐病の患者が演じようと思えば、疑陽性を生み出すことは可能です。一方、テンシロンテストではプラセボと組み合わせたりします。すなわち、詐病の患者だと、生理食塩水などでも効いたようなふりをしてしまうので、詐病を見破れる場合があります。
Ice testは、上記のような欠点はありますが、簡便ですし、他の検査と組み合わせると有用なのかもしれません。
(参考文献)
・Reddy AR, et al. “Ice-on-eyes”, a simple test for myasthenia gravis presenting with ocular symptoms. Pract Neurol 7: 109-111, 2007
・Kubis KC, et al. The ice test versus the rest test in myathenia gravis. Ophthalmology 107: 1995-1998, 2000
・Golnik KC, et al. An ice test for the diagnosis of myasthenia gravis. Ophthalmology 106: 1282-1286, 1999
・Reid JM, et al. Positive “ice-on-eyes” test in Miller Fisher syndrome. Pract Neurol 8: 193-194, 2008