ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ

By , 2009年4月22日 8:06 AM

最近、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのCDを聴いていて、久々にお気に入りの録音に出会いました。

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタについては50人くらいの演奏家の録音を持っています。古典的名盤としては Adolf Busch / Rudolf Serkin の録音が有名です。

味のある録音では、Fritz Kreisler / Franz Rupp の演奏は奔放な中に曲の本質を殊更に強調し、妙に心が揺さぶられます。

私が一番最も好きなのは、Nathan Milstein / Artur Balsam の1953年のライブ録音です。第5番「春」が演奏されているのですが、独特の緊張感の高まりが好きです。どんな曲であっても、テンションの高まりがないとベートーヴェンではないし、それを自然に表現することは難しいと思うのです。ただ盛り上がるだけなら2流音楽家でも可能ですが、主題の対比構造、執拗に繰り返される非常に短い単位での Dominant→Tonicという和声進行など、ベートーヴェンを構成する要素を表現することで音楽を高めていくのはかなり困難なことです。

とはいっても、私がベートーヴェンの録音を評価するときに重視するのは、音楽が流れているかどうかです。いわゆる巨匠たちの録音を聴いても、もったないことに音楽が停滞しているものが多く聴かれます。流れが妨げられてしまうと、ベートーヴェンらしさが半減してしまいます。微細な表情をつけながら、全体の構成を考え、かつ音楽が流れないといけないと思うと、それだけ、ベートーヴェンの演奏は難しいのだなと実感します。

最近聴いた Josef Fuchs / Artur Balsam の録音は、味があり、音楽が流れていきます。音楽的に非常に自然で聴きやすい、お勧めの一枚です。

その他に面白い録音といえば、寺神戸亮 / ボヤン・ヴォデニチャロフによる古楽器での録音です。初期のヴァイオリン・ソナタでは素晴らしい演奏効果があるのですが、第9番「クロイツェル」以降はパワー不足が否めず、おそらくこの頃にはベートーヴェンはモダンな弓での演奏を想定していたのではないかと、一人思っています。古楽器での全曲録音という点では、非常に価値のある録音です。

ちなみに全 10作の彼のソナタの中で私が一番好きなのは、第 10番第 4楽章です。彼の後期弦楽四重奏のように、音楽の方向性が内面に向かっていく落ちついいた名曲です。それでも様々な趣向が凝らしてあります。この曲が変奏曲であると気付かなかった私は、レッスンで指摘されてビックリしたのでした。

・Menuhin & Kempff – Beethoven Violin Sonata no.10 (IV) – Poco Allegretto

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