StaGen情報解析研究所長の鎌谷直之先生の講演を聞きました。SNP (single nucleotide polymorphism) に関する話が主体でした。
以前、「遺伝子解析超基本講座」のエントリーで紹介しましたが、次世代シークエンサはゲノム・リーディングの速度が飛躍的に上昇していて、フル・ゲノムを読むことが現実的になりました。こうしたゲノム・リーディングが簡単にできるようになり、それらの遺伝子を比較することで新たな知見を得られるようになりました(人のフル・ゲノムは、30万塩基対あるとはいっても、iPodに入るくらいの情報量らしいです)。
これまでの臨床研究では、大規模研究が最も信頼される研究手法であった面はあると思います。しかし、関節リウマチで大規模スタディを組んだとしても、バリアンスの問題で、患者の 3%くらいしかデザインにマッチしないというような問題がありました。そして、選ばれた患者が全患者を代表しているかどうかは不明でした。そうしたスタディで知見が得られても、目の前の患者にそれが当てはまるかはわかりません。
そこで注目を集めているのが、SNPです。SNPはどんな患者でも調べることができます。それは目の前の患者個人の情報です。上記の大規模スタディの問題点を克服していると言えます。
そして、一塩基多型で薬の効果はかなり違うことがわかってきました。つまり、SNPを調べれば、それに応じた薬の使い方ができるので、テーラーメイド医療が可能になるということです。また、高尿酸血症にSNPが関与していることなど、病気の発症に関する情報も得られるケースが出てきました。研究のトピックスでもあって、Pubmedで「single nucleotide polymorphism」というキーワードと何らかの疾患のキーワードで検索すると、かなりの件数がヒットしますね。
これからの時代は、ゲノム・リーディングをして SNPの情報を得て、それに応じた薬の選択がなされるようになるのではないかと思います。
ただ、SNPで病因がわかるわけではないので、従来の研究手法も重要で、研究のオプションが一つ加わったと解釈するのが良いのではないかと思います。
「Ludwig van Beethoven SPRING & KREUTZER SONATAS (ANDaNTE great composers)」を聴きました。
この 3枚組の CDはベートーヴェンのスプリング・ソナタとクロイツェル・ソナタを何人かの演奏家が演奏し、録音したものです。1935~41年の録音なのですが、巨匠達がずらり。
Ludwig van Beethoven SPRING & KREUTZER SONATAS
CD.1 Violin Sonata No.5 “Spring”
Kreisler / Rupp
Goldberg / Kraus
Milstein / Balsam
CD.2 Violin Sonata No.9 “Kreutzer”
Kreisler / Rupp
Kulenkampff / Kempff
CD.3 Violin Sonata No.9 “Kreutzer”
Szigeti / Bartok
Busch / Serkin
みんな、巨匠としての地位を確立している演奏家ばかりで、誰の演奏が良いかというのは、好みの問題でしかないと思います。個人的にはミルシタインが好きですけれど、みんな好きです。
何人か簡単に触れておくと、クライスラーはヴァイオリニストとして以外に、作曲家としても有名で、さらに軍医でもあったことが知られています。ブッシュ/ゼルキンは、ベートーヴェン演奏の古典的な名演として今でも語られますね。シゲティは「ベートーヴェンのヴァイオリン作品集 演奏家と聴衆のために」という本を書いていますが、作曲家のバルトークと組んで演奏しているのが興味深いです。バルトーク演奏のベートーヴェンも味があります。ちなみにバルトークは慢性骨髄性白血病で亡くなりましたが、現在ではグリベックという分子標的治療薬が開発され、治療成績が大幅に向上しています。
これらの個々の録音はそれぞれ販売されていますが、まとめて聞き比べができるのが、この CDの良いところです。機会があったら聴いてみてください。
「棋士羽生善治(弦巻勝、双葉社)」を読みました。写真集なので眺めたという方が適切かもしれませんが、対談や寄稿など文字情報が非常に多く、「読んだ」という印象です。
巻頭の辞は米長邦雄氏。現将棋連盟会長ですが、羽生善治氏と「人生、惚れてこそ」という対談集を出版されたことがあります。その対談集では、「羽生善治氏をお手本にして49歳で名人位を取ること事が出来た」と米長氏が述べていたのを読んだ記憶があります。
渡辺淳一氏との異質の対談も収載されていて、何故か「性」をテーマに深い話をされています。
梅田望夫氏は本書に「現代版・考える人」というタイトルで寄稿しています。氏は「ウェブ進化論」という本が有名ですが、将棋のタイトル戦(竜王戦)などでの観戦記には、高い評価があります。
最後は団鬼六氏による将棋随筆。団鬼六氏は官能小説で有名な方のようですが、将棋にも造詣が深く、六段の腕前を持っています。「真剣師 小池重明」という将棋小説を書いていますが、「今回を最後に、将棋については書かない」と宣言しました。
そんな彼の文章で、笑ったのが団氏が羽生善治名人につけてもらった指導対局の逸話。上手く負けてもらったそうですが、升田幸三氏だとそうはいかない。升田氏との指導対局(飛車落ち)について書かれています。
名人今昔
これが升田式講評だと私は将棋雑誌に発表したことがある。
団「どうも最近、私も年の故か、ミスが多いんです。どこが悪かったんでしょう」
升田「いや、序盤はあんたの方が絶対的優勢じゃった」
団「へえぇ、どの辺りですか」
升田「駒を並べた所ですな。あんたには飛車があるのにワシの方には飛車がない。すでに飛車損になっておる」
団「?」
升田「ワッハハハ」
団「敗因はどこらあたりですか」
升田「あんたが駒を動かしたのが敗因ということになります」
団「?」
小児期から現在までの羽生善治名人の「進化」の過程が写真で楽しめますし、掲載されている文章も読み応えがありますので、是非読んでみてください。
7月3日0時26分配信 時事通信
厚生労働省は2日、大阪府内に住む新型インフルエンザ患者から、抗インフルエンザ治療薬「タミフル」に耐性を示すウイルスを検出したと発表した。新型インフルエンザで耐性ウイルスが明らかとなったのは国内で初めてで、世界2例目。同省は「重篤度に直接影響を及ぼすものではない」としている。
同省や大阪府によると、耐性ウイルスが見つかったのは、5月29日に新型インフルエンザに感染していると診断され、現在は回復した患者。
府公衆衛生研究所でウイルスの遺伝子配列を調べたところ、6月18日にタミフル耐性を示す遺伝子の変異が確認された。
時間の問題ではありましたが、タミフル耐性の新型インフルエンザウイルスが国内で検出されました。リレンザの耐性ウイルスが発見される日も近いでしょう。
この冬の大流行は不可避でしょうが、感染者数が多くなりすぎると新型かどうかは検査できなくなるかもしれません。通常のインフルエンザと同様の対応をすれば良いという意見もありますが、致死率が上がっているとの意見もあり、もう少し情報が欲しいところです。致死率が上がったというのは、ウイルスが変異して毒性が強くなったのからでしょうか、それとも重篤化した症例しか検査しなくなったので見かけ上致死率が高く見えただけなのでしょうか?
30-50歳台を中心とした約 2%の症例が急速進行性に予後の悪い肺炎を合併しているという知見を聞くと、免疫がしっかりした若者にもタミフルを処方せざるを得ないのかなぁという気もするし、そうするとますますウイルスの耐性化に拍車がかかる気がしています。
「認知症診療のこれまでとこれから(長谷川和夫著、永井書店)」を読みました。
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6月22日23時50分配信 毎日新聞
さいたま市立病院(同市緑区)は22日、臨床研修医の女性(24)が新型インフルエンザに感染したと発表した。海外渡航歴はなく、既に判明している感染者との接触もなかったが、18日夕~19日朝、救急外来の当直を担当した際、簡易検査でA型陽性が出た女性患者を診察していた。村山晃院長は「診察時に感染した可能性がある」と話している。埼玉県内の感染者は17人目。
研修医は20日からのどが痛み始め、21日午後に39度の発熱があった。22日夜に遺伝子検査で感染が確認され、入院した。研修医は20、21日に計3回、担当する内科の入院患者計6人を回診している。病院は、研修医と接触したとみられる職員と患者計24人に予防的にタミフルを投与した。A型陽性だった女性患者も追跡調査している。
勤務医は病棟担当医でありつつ外来や当直をしているので、インフルエンザに罹患してしまうと病棟中に広めるリスクがあります。かといって、日常診療をしないわけにはいかないですし、難しいですね。
この冬には新型インフルエンザ流行がほぼ確実視されています。医療従事者の感染や、感染した患者家族の面会を考えると、院内感染を防ぐのは甚だ困難な気がします。潜伏期間があるので、初期には隔離できないですからね。
その時にどんな論調で報道されるかに、興味があります。
メイショウの名を冠する馬がいます。松本好雄氏の所有馬です。ダービー馬のメイショウサムソンなどが有名と言えましょうか。オーナーはなかなか男気のある方のようです。
大牧場出身の良血馬に席巻されている日本競馬界の中で、松本は中小規模の牧場との交流や繋がりを重視し、持ち馬の殆どがそれらの牧場出身の良血とは言い難い安価な馬というのが特徴である。松本自身が馬を見て選ぶことはせず、調教師や牧場が薦めた馬を安く買っている。また、現役時代に所有していた馬の産駒も多く、メイショウホムラとその産駒メイショウバトラーは父子二代で重賞勝ち馬となった。中小規模の牧場で働く人々からは、尊敬と親しみを込めて「メイショウさん」と呼ばれている。競走馬として活躍できなかった牡馬でも、誘導馬に転向させる事も多い。
(略)
座右の銘は「人がいて、馬がいて、そしてまた人がいる」。
実は、この方は将棋六段なのだそうです。そして女流棋戦「きしろ杯争奪関西女流メイショウ戦」のスポンサーなのですね。ビックリしました。
高次脳機能を専門としている先生が、研修医向けに Dementia (いわゆる認知症) の講義をしてくださっていたのですが、非常にまとまっていたので、紹介しておくことにします。たまにはこんな話もしておかないとね。
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