東京スポーツ

By , 2009年10月2日 7:16 AM

10月 2日付けの東京スポーツに、「難病 パーキンソン病 専門医が解説」という記事がありました。直井伸夫という記者の署名記事です。

香川県立中央病院神経内科主任部長の山本光利先生の話を聞いて記事にしています。山本先生は、業界でも名前の知られた先生です。ただ、記事の内容が・・・orz

 パーキンソン病の4大症状

①手足のしびれ
②手足のこわばり
③動作が緩慢に
④転びやすい

思いっきり間違えているではないですか!

医学生がこんな解答したら落第します (^^;
山本先生が間違ったことを話したことは、絶対にないと思います。おそらく記者の勘違いなのでしょうね。

ちなみに、パーキンソン病の 4大症状は、Wikipediaに正しく載っているので、転載します。

 Wikipedia -パーキンソン病-

・安静時振戦 (ふるえ resting tremor)
指にみられることが多いが、上肢全体や下肢、顎などにもみられる。安静にしているときにふるえが起こることが本症の特徴である。精神的な緊張で増強する。動かそうとすると、少なくとも一瞬は止まる。書字困難もみられる。指先のふるえは親指が他の指に対してリズミカルに動くのが特徴的であり、薬を包んだ紙を丸める動作に似ていることからpill rolling signとも呼ばれる。

・筋強剛(筋固縮) (rigidity)
力を抜いた状態で関節を他動させた際に抵抗がみられる現象。強剛(固縮)には一定の抵抗が持続する鉛管様強剛(鉛管様固縮、lead pipe rigidity)と抵抗が断続する歯車様強剛(歯車様固縮、cogwheel rigidity)があるが、本疾患では歯車様強剛が特徴的に現れ、とくに手関節(手首)で認めやすい。純粋なパーキンソン病では錐体路障害がないことが特徴である。すなわち四肢の麻痺やバビンスキー反射などは認められないのが普通である。

・無動、寡動 (akinesia, bradykinesia)
動作の開始が困難となる。また動作が全体にゆっくりとして、小さくなる。仮面様顔貌(瞬目(まばたき)が少なく大きく見開いた眼や、表情に乏しい顔貌)、すくみ足(歩行開始時に第一歩を踏み出せない)、小刻み歩行、前傾姿勢、小字症、小声症などが特徴的である。ただし床に目印となる線などを引き、それを目標にして歩かせたり、障害物をまたがせたりすると、普通に大またで歩くことが可能である (kinésie paradoxale、逆説性歩行、矛盾性運動)。

・姿勢保持反射障害 (postural instability)
バランスを崩しそうになったときに倒れないようにするための反射が弱くなる。加速歩行など。進行すると起き上がることもできなくなる。

さらに、記事中は、「黒質」が「黒室」と記載されていました。

新聞社自身が「東スポの記事を信用する人間はいない」と主張する東スポだから・・・という話もありますが、他の新聞でも似たような誤りを時々見かけます。この手の記事を書くときは、医師のチェックを受けて誤りを正すべきだと、こうした記事を見るたびに思います。

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第1回ニューロフォーラム東京

By , 2009年10月2日 7:05 AM

10月 1日にニューロフォーラム東京に参加してきました。特別講演は内容が私のツボで、とても面白かったです。私は変性疾患における小胞体ストレス、特にシャペロンやユビキチン・プロテアソーム、オートファジーに興味を持っていて、いくつかの本や論文を読んで勉強中です。p62なども、今年の春先に医局の抄読会で紹介したばかりでした。まさに、ドンピシャの内容でした。

 特別講演

「オートファジーと神経変性疾患」
東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 田中啓二先生

田中先生らのグループは、Natureや Cellといった雑誌に多くの論文を投稿し、私が蛋白質についての教科書で読んだいくつかの重要な事柄は、彼らが発見したものでした。

細胞内に不良品の蛋白質が出来ると、それを分解するシステムがあります。また、良品であっても、細胞内飢餓に陥ると、蛋白質を分解してエネルギーを確保します。これらの蛋白質分解系には、大きくユビキチン・プロテアソーム系と、オートファジー・リソソームシステムがあります。

オートファジーはこれまで非選択的な分解システムとされてきましたが、オートーファジーの中でもユビキチン化された蛋白を選択的に分解するシステムがあることがわかってきました。それに重要な役割を果たしているのが、p62で、ユビキチン化した蛋白を選択的にオートファジーに取り込むのではないかと言われています。p62は、オートファジーの概念に大きな変化を与え、最近のトピックスになっています。

もう一つの話題は、Parkinson病に関するもので、これまで多くの遺伝子が同定されてきましたが、機能がわかっていませんでした。

Parkin (Park 2) はユビキチンリガーゼであり、PINK 1 (Park 6) はセリン・スレオニンキナーゼで、遺伝的にリンクしているのではないかということが言われ始め、これらはミトコンドリアの dynamicsに関係があると考えられています。

いくつかの実験を経た結論は、「Parkinは傷害されたミトコンドリアに選択的に運ばれ、オートファジーが誘導される。PINK 1は Parkinがミトコンドリアに移行するのに働く」というものです。そのため、Parkinに異常があっても、PINK 1に異常があってもミトコンドリア機能不全が生じ、パーキンソン病を発症するのではないかという仮説が立てられています。

ミトコンドリアは元々分裂と融合を繰り返していて、機能的でないものは排除されるメカニズムがあります。ミトコンドリアの 80%が異常でも大丈夫で、自分で回復できると言われています。したがって、ミトコンドリア機能をサポートする薬剤が開発できれば、パーキンソン病の有力な治療薬になるのではないかと考えられています。

講演で爆笑が起こったのは、週間少年ジャンプに連載中の「トリコ」という漫画の話。漫画の中で、「オートファジー(自食作用) 栄養飢餓状態に陥った生物が自らの細胞内のたんぱく質を アミノ酸に分解し一時的にエネルギーを得る仕組みである 」という表現がでてくるのですが、田中先生曰く、「100点満点の解答です。私がこんなに難しいことを言っているのに、この作者は1週間で250万人にオートファジーを広めることに成功しました」とユーモアたっぷりに話していました。

講演後の懇親会で、田中先生と話す機会があり、20分くらい語り合ってしまいました。田中先生は、他の先生達と話すときは距離を取って話していたのに、私と話すときは顔を密着させんばかりに近づかれ、非常に話も噛み合って盛り上がりました。例として、私が常々疑問に思っていた話で、「ユビキチン・プロテアソーム系というのは蛋白質の品質管理で重要な役割を果たしていると思いますが、多発性骨髄腫の治療薬でプロテアソーム阻害薬というのがありますね。プロテアソームが阻害されても変性疾患が増えた話を聞かないし、プロテアソームよりもそれらをバックアップする系、例えば p62などの方が重要と言えるのでしょうか?ユビキチン化された蛋白質は、プロテアソームで分解されないかわりに、p62を介してオートファジーされているのでしょうか?」と質問してみました。田中先生の答えは「あの薬剤の開発にも少し関与していますが、どうやらプロテアソームの 30%くらいしか阻害しないようなのです。多発性骨髄腫の細胞は IgGなどをたくさん産生していますから、小胞体に非常にストレスがかかっています。だから 30%程度プロテアソームが阻害されただけで細胞がバタバタ死んでいくんじゃないかと思ってるんですよ。色んな事を言っている先生はいますが・・・」というものでした。一事が万事こんな感じで、非常に話が面白く、今度研究室を見学させてくださいと御願いすると、快諾してくださいました。

非常に為になる研究会でした。

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