コンピュータ VS プロ棋士
「コンピュータ VS プロ棋士 名人に勝つ日はいつか (岡嶋裕史著、PHP新書)」を読み終えました。
本書は渡辺竜王と将棋ソフト「ボナンザ」の対局風景から始まります。コンピューターが強さを発揮する筈の終盤で竜王に読み負け、89手目に勝ち手順 (正着は▲2七香、以後△2六金▲同香△2七歩▲3八金打△2八歩成▲同馬の展開が予想される) を逃して負けたシーンです。一応、棋譜へのリンクを貼っておきます。
この勝負は、コンピュータが苦手とする序中盤で竜王と互角に渡うという成果を見せた一方で、得意とする終盤でコンピュータが読み負けたという、予想を裏切る対局でした。ちなみに、将棋世界 2011年 3月号 165ページによると、最終盤に竜王が指した△3九龍 (96手目) の妙手を、あれから 4年進化したコンピュータソフトでもまだ見つけることが出来ないそうです。まだ人間もそう簡単にはソフトに土俵を割る状況にないようです。
第2章は「ディープブルーが勝利した日」です。様々なボードゲームをコンピューターで解析する試みが行われていますが、「人間のチャンピオンに勝つ」のと「ゲームを完全に解明する」のは違います。「ゲームを完全に解明する」というのは、全ての指し手の分岐を明らかにすることで、必勝法を知ることです。ちなみに、6×6マスのオセロでは後手勝ち (それより大きな盤では未解明)、チェッカーでは引き分けになることが解明されているそうです。
1997年 5月にチェスのチャンピオンであるカスパロフにコンピューター「ディープブルー」が 2勝 1敗 3引き分けで勝利しましたが、チェスにおいてもまだ「完全解明」は行われていません。このカスパロフとディープブルーの対戦にも後日談があり、IBMが対決直後にディープブルーを解体して再戦できなくしてしまったり、対局には人間が干渉する余地もあったことにカスパロフ自身が、疑問を呈していたそうです。それでも、カスパロフが負けたから人間がコンピューターにチェスで勝てなくなった事実はなく、あれから10年以上経っても人間とコンピューター両者の実力は拮抗しているようです。
その後、チェスでは、アドバンスド・チェスという、人間がコンピューターを使って対戦する楽しみ方が生まれました。コンピューターと人間がお互いに補う戦い方で、面白いことに、「アマチュア+パソコン」のペアが「グランドマスター+パソコン」を破ることもあるのだそうです。ソフトにも人間が補うべき弱点があり、それに精通することが非常に大事なのですね。
第 3章は「将棋ソフトが進歩してきた道」です。弱くて変な手ばかり指す時代から、どうやって進化してきたかが述べられています。初期のソフトでは強くするためのノウハウがわからず、色々試行錯誤が行われていました。爆笑したのが、「格言通りに指させる」というプログラムです。「玉飛接近するべからず」を守って、飛車を 1八に、玉を 9一に囲おうとして、飛車を 1筋に置いたまま玉が 8六に出たところを無惨に詰まされたソフトがあったそうです。その局面の図が本書に載っており、見た瞬間爆笑してしまいました。続く第 4章、第 5章では、強くするための技術的方法が述べられています。
第 6章では、清水市代女流王将と「あから 2010」の対局が扱われていました。実際の棋譜を振り返りながら、局面の解説をしています。さらに、その局面でのコンピューターの評価、どのような経緯を経てその指し手を選択したかについても詳しい解説をしています。棋譜からはわからないことを知ることが出来て非常に興味深かったです。
第 7章は「名人に勝つ日」です。コンピュータ将棋の課題、今後期待される方法などが述べられています。
本書はコンピュータ将棋の歴史や現状を俯瞰するのに適した本で、将棋好きの方には是非お勧めです。