ALS患者の 6塩基リピート – GGGGCC
9月 24日に上司からメールが届き、Neuron誌に驚くべき論文が掲載されることを知りました。2011年 10月 20日の Neuron誌に載るようですが、オンラインでは一足早く紹介されています。
ONLINE EARLY: New Gene Identified as Major Cause of Familial ALS and FTD
Two independent groups have identified a repeat expansion in C9ORF72 as the underlying genetic defect on chromosome 9p21 responsible for frontotemporal dementia (FTD) and amyotrophic lateral sclerosis (ALS).
上記二本の論文の内容ですが、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 及び前頭側頭型認知症 (FTD) に関係する遺伝子が同定されました。それは C9ORF72という遺伝子のイントロンでの、GGGGCC 6塩基反復配列です。2つのグループから独立に報告されているので、かなり信頼性がありそうです。
Rentonらの論文を読んだので、簡単に紹介します。要旨は下記。
・過去に報告されていた chromosome 9p21に locusを持つ ALS-FTD家系を調べたところ、C9ORF72の第1 exonの 63塩基セントロメア側に GGGGCC 6塩基反復配列を同定した。
・フィンランドの 402名の ALS患者、478名のコントロール群を用いた解析では、ALS患者 113名 (28.1%), コントロール群 2名 (0.4%) で、この反復配列を認めた。ALS患者でみると、家族性 ALS患者の46.4%, 孤発性 ALS患者の 21.0%にこの反復配列を認めた。
・6塩基リピート数は、ALS群で平均 53 (30-71), コントロール群で 2 (0-22) だった。
・北アメリカ 198名、ドイツ 41名、イタリア 29名の家族性 ALS患者についても調べたが、この遺伝子異常は 102名 (38.1%) に見られた。
・FTD患者 75名についても調べた。進行性非流暢性失語症 6名、行動障害型認知症 16名、合計 22名 (29.3%) でこの変異が見られた。22名中 8名にはALSの家族歴があった。
・C9ORF72の RNAは脊髄や小脳など神経系に広く検出された。ALS患者と健常者の前頭葉皮質の組織での RNA発現量は同程度であった。
6塩基リピートというと、神経内科医が思い浮かべる疾患があります。トリプレット・リピート病と呼ばれる、3塩基リピートを来す疾患群です。しかし、同じリピート病といいながら、C9ORF72の場合は 6塩基リピートというのが興味深いです。
ALSの病因研究に関して大きく一歩進んだ印象ですが、未解決の問題は山ほどあります。例えば、元々 chromosome 9p21に locusを持つ ALS患者で同定された C9ORF72ですが、この haplotypeを持たない ALS患者でも C9ORF72の異常が見つかっているのは何故なのかは、わかっていません。また、表現促進現象 (anticipation) があるのかないのかもわかっていません。C9ORF72の RNA発現量が各神経組織でそれほど変わらないのに何故 ALSでは運動野の神経細胞を中心に脱落するのかも謎のままです。
未解決の問題が一つずつクリアされ、一日も早く治療法が開発される日が来ることを願っています。