石巻災害医療の全記録
「石巻災害医療の全記録 (石井正著、講談社)」を読み終えました。著者は石巻赤十字病院で陣頭指揮を執った外科医です。
本書を読むと、石巻赤十字病院が修羅場のような被災地で如何に大きな存在であったかがわかります。しかし、これは周到な準備と、優れた指揮官、医療従事者や他業種の方々の尽力によるものでした。彼をサポートした災害医療の専門家達の力も大きかったようです。
もともと、震災が高確率で起こると予想されていた宮城県では、いくつもの対策がなされました。例えば、2006年5月に内陸部に移転した石巻赤十字病院は、免震構造であり、ヘリポートや被災者診療用の広いスペースを備えていました。石巻市では、2010年 1月 22日に石巻地域災害医療実務担当者ネットワーク協議会が立ち上がりました。さらに 2011年 2月 12日に著者の石井正先生が宮城県で 6人目となる「宮城県災害医療コーディネーター」に委託され、震災対策を次々と進めていました。こうした準備が、被災後に生きました。
本書には、震災に対する準備、発災直後の対応、トリアージタグ・疾患名・患者数の内訳など貴重なデータが満載です。また、「想定外」が多発したときにどのように対応していったかの詳細な記録が残されています。私は「自分だったらどうしていたか」をシュミレーションしながら読みましたが、考えさせられるところが多かったです。
本書は堅い話ばかりではなく、こんなイイ話もありました。著者には酒飲み友達のネットワークというものがあり、震災直後に NTTドコモショップ石巻店の店長が衛星携帯電話 2台、それらに優先的につながる携帯電話 10台を病院に持ってきてくれ、頼むとすぐに中継局を病院に作ってくれたそうです。積水ハウス仙台支店は被災後速やかにテントを病院の玄関前に設置してくれたとのことでした。
また、それ以外にも医療関係者以外の支援が大きかったことを感じさせるエピソードがありました。Googleの幹部クラスが病院を訪れてきて、何か出来ることはないかと言われ、結果として、避難所データの閲覧・検索ソフトを作ってくださったそうです。それも「Googleは社会貢献を旨としている会社です。支援活動で金を稼ごうなんて考えていません。金は別のところで稼げと社長にも言われていますし、それが社の理念でもありますから、ご心配なく」という言葉を残して、無料で。そして、Google社員のこの言葉に感銘を受けました。
どんな情報でも構いませんから、とにかく集めることができる情報はすべて集めてください。『これは必要ではないな』と思う情報でも構いませんし、『何が必要か』などと気にする必要もまったくありません。集まった情報を ”料理” するのはわれわれ専門家の仕事ですので、ありとあらゆる情報を集め、あとはおまかせください
石井正先生の母校の東北大学も石巻赤十字病院を支えました。石井先生は、東北大学病院の病院長から次のようなメールを受け取ったそうです。
石巻日赤からの大学病院への入院受け取りについては、従来通り対策本部一括で受け取ります。これまで同様にどのような疾患の患者が何人いるかを連絡していただければ、各科に個別に交渉する必要はありません。割り振りはこちらで行います。日赤の負担をできるだけ少なくすることが、今、大学病院にできる最大の貢献であるとの認識で一致していますから、どうぞ遠慮なく困ったときは一報入れてください。
実際、東北大学は専門に関係なく多数の患者を受け入れ、肺炎患者を泌尿器科で診ることもあったそうです。
いくつもの感動的なエピソードに、読んでいて何度も涙ぐみました。医学的知識が全く無くて読める本ですので、医療関係者はもとより、それ以外の方にも是非読んで頂きたい一冊です。