C9orf72
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) における C9orf72遺伝子イントロン領域の GGGGCC 6塩基リピートについて以前紹介しましたが、Lancet Neurlogy 2012年4月号に興味深い論文が出ていました。
C9orf72遺伝子変異にはかなり人種差があるようで、フィンランド人 (Finnish) では孤発性 ALSの 21.1%を占めますが、その他ヨーロッパや米国の白人では 7%, ヒスパニックでは 8%, 黒人では 4%程度に変異がみられるそうです。一方で、米国原住民、アジア人の孤発性 ALSにはこれらの変異は見つかりませんでした。家族性 ALSについては日本人で 1例遺伝子変異が同定された症例があるようです。
ハプロタイプ解析の結果から、どうやらこの遺伝子変異には約 1500年前 (おそらく 100世代前) に共通の祖先が存在することが明らかになりました。
この遺伝子変異の浸透率は、35歳以下ではほぼ 0%, 58歳では約 50%, 80歳ではほぼ 100%と年齢依存性があるようです。原因は不明ですが、論文中では「年齢依存性の遺伝子座のメチル化」「何らかの遺伝因子」を推測しています。
C90rf72遺伝子キャリアの臨床像としては、やや女性に多く、家族性で、球麻痺型が多いようです。
この論文の limitationとしては、いくつかの地域でサンプルサイズが小さいこと、今回調べた症例で染色体 9p21以外のハプロタイプも見つかる可能性があること、浸透率を過大評価した可能性があること、家族性と孤発性の判断が問診によること、などが挙げられます。
今回の論文で、日本人にはこの遺伝子異常が少ないと推測されます。日本人における孤発性 ALSの原因探しの道程は、まだ長そうです。また、研究が遺伝子解析先行なので、分子レベルでの疾患メカニズムの解明も待たれます。
ちなみに、同じく Lancet neurology 2012年4月号の “Comment” で、この論文を扱っていました。
C9orf72 repeat expansions in patients with ALS and FTD
注目を集めている分野であることは間違いないと思います。
(今回のブログ記事では、同じ遺伝子変異が原因となる前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia; FTD) については触れませんでした。興味のある方は、論文本文を読んで頂ければと思います)