BLOWIN’
川崎病の原因について、非常に面白い論文が、2011年11月に出ました。
Association of Kawasaki disease with tropospheric wind patterns
論文の Figure 4が凄いと思うのですが、日本での中央アジアからの北西の風、あるいはサンディエゴやハワイでの東西風 (pacific zonal wind) の強さと川崎病の発生率が綺麗に相関しているのです。風に乗って何らかの病原体が運ばれてきて、それに対する免疫応答で川崎病を発症するのではないかという推測が成り立ちます。
それに関連して、Nature 2012年4月5日号の News Featureに興味深い記事が掲載されました。
Infectious disease: Blowing in the wind
この記事の本題は病原体が何なのかの犯人探しです。
2011年3月上旬、汚染を防ぐための防護服を装着したスペインのエンジニアが、Barcelonaの Rondoのラボで作られたフィルターを乗せて飛行機で飛び立ちました。飛行機はリアルタイムの風データを用いて進路を取りました。飛行機が戻ってきた時にサンプルはドライアイスに梱包され、コロンビアにある Lipkinのラボに送られました。Lipkinはフィルターに引っかかった DNAを網羅的に解析しました (metagenomics)。
タイミング的にはある意味幸運でした。なぜなら、サンプル回収のため飛行機が飛んだルートは福島を横切っており、もし 1週間遅ければ福島の原発事故があり、風に放射能が紛れてしまっただろうからです。
コロンビアでの解析はゆっくりと進んでいます。高高度の大気中で採取された DNAは極めて微量だからです。まだ論文になっていないため Lipkinは詳細を語りませんが、既に Kawasaki病の原因候補がいくつか見つかってきており、今後は免疫学的検定が行われるのではないかと考えられています。候補 DNAへの抗体を作成し、川崎病患者の血清に加えて、もしコントロールより強く免疫応答が起これば、候補 DNAの信憑性が高くなります。次のステップは、患者からの血液サンプル中に、air filterから見つかったのと同じ DNAを探すことです。
このように川崎病の犯人探しはかなり容疑者が絞られてきているようです。もう少し捜査が進めば犯人が捕まるかもしれません。
記事の最後には、インフルエンザウイルスなど、他にもこのように風で運ばれてくる病原体があるのではないかという台湾の研究者のコメントを載せています。