学会の見解
「脳過敏症候群」といった聞き慣れない名前が世の中で広まっているそうです。「私、”脳過敏症候群” かもしれません」という患者さんが、上司の外来を受診したと聞きました。
日本頭痛学会は、看過できないとして、見解を発表しました。
最近、マスコミで「脳過敏症候群」が何回か取り上げられましたが、その際に、「頭痛」と関連してまちがった情報が視聴者に伝わり、また医療現場でも混乱が生じました。日本頭痛学会理事会も、この状況を放置できないと憂慮しています。
ことの発端は、清水俊彦医師が、「耳鳴り・頭鳴りは脳過敏症候群によることが多く、脳波をとれば診断がつき、抗けいれん薬を飲めば治る。片頭痛などの慢性頭痛を適切な処置なしに放置したことによって発症するので、日本頭痛学会のホーム・ページに掲載されている頭痛専門医を受診すると良い。」という趣旨をテレビで繰り返し主張したことにあります。
この説は多くの視聴者に期待を持たせたようです。しかし、「脳過敏症候群」なる説を信じている日本頭痛学会の専門医はほとんどいません。「現時点では科学的根拠のない、個人的な考え」とみなされています。清水医師が強調する脳波の所見は正常人に日常的に見られる脳波である、と多くの研究者が考えています。また、過去に片頭痛のあった人が頑固な耳鳴りを起こしやすい、という説にも根拠がありません。
「脳過敏症候群」は清水医師により日本頭痛学会学術総会に報告され、議論されています。ただ、研究者の多くが清水医師の考えは科学的根拠に乏しいと指摘しているのが現状です。その点、一部のテレビ番組での「日本頭痛学会の会員の多くが認めている学説」とのコメントは正しくありません。日本頭痛学会が清水医師の治療法を「信憑性のあるもの」として是認しているかの誤解が、国民の皆様に伝わり、医療情報の混乱を招いたことは極めて遺憾です。
学問の進歩は日進月歩であり、頭痛関連の分野でも新たな研究成果と治療法の開発が強く望まれています。日本頭痛学会では、引き続き、頭痛について幅広く、また科学的な議論を会員全体で推進します。今後も正しい医学情報を社会に提供し、常に国民の皆様の健康増進に貢献する努力を続けてまいります。
私もこの疾患概念には否定的な意見を持っています。そのことは置くとして、一番の問題は、一部の医師が思いついた疾患概念を ”学問的なコンセンサスがないまま” マスコミに垂れ流し、マスコミもよく裏を取らないで報道したことにあります。医学は、「言ったもの勝ち」「声が大きい方が勝つ」というのではいけません。
似たようなことで、「新型うつ」も話題先行ですが、こちらの日本うつ病学会のサイトが参考になります。
Q4.新型うつ病が増えていると聞きます。新型うつ病とはどのようなものでしょうか? (PDF)
【追記 (2012.9.8)】
学会声明文が削除されてしまったようです。コンセンサスのないことがマスコミ越しに話題になって現場に混乱を与えているのは事実ですし、学会がきちんと発した声が、理由の記載なく削除になったのは残念なことです。
「脳過敏症候群」に関する頭痛学会コメント後日譚