ALSの原因遺伝子 profilin1

By , 2012年9月1日 12:09 PM

2012年 7月 15日の Nature誌に筋萎縮性側索硬化症 (amyotriphic lateral sclerosis; ALS) の新規遺伝子の論文が掲載されました。興味深い内容だったので、論文の内容を紹介します。

Mutation in the profilin 1 gene cause familial amyotrophic lateral sclerosis

ALSの約 10%が家族性で、そのうち約半数は遺伝子が未同定です。著者らは、優性遺伝を示し、既知の ALS原因遺伝子に変異のない、白人とセファルディムの家族性 ALS家系をそれぞれエキソーム解析で調べました。その結果、白人家系で PFN1 (Profilin 1), XPOT (Exportin-T; tRNA exportin) 変異を、セファルディム家系で FMO2 (Dimethylaniline monooxygenase 2), KIF1C (Kinesin-like protein KIF1C), PFN1変異を同定しました。両者の家系で PFN1変異が共通しており、白人家系での変異は C71G、セファルディム家系での変異は M114Tでした。

次に、一般的な ALS原因遺伝子変異が除外されている 272家系の家族性 ALSで、この PFN1変異があるか調べました。 すると 5家系に PFN1変異を認めました。5家系の変異の内訳は、C71Gが 2家系、M114Tが 1家系、G118Vが 1家系、E117Gが 1家系でした。ハプロタイプ解析の結果、C71G家系は共通の祖先を持つらしいことがわかりました。ちなみに PFN1の C71, M114 G118, E117は進化的に保存されています。PFN1変異 (22例) の臨床的特徴としては、発症が 44.7± 7.4歳で、全て limb onsetで、球麻痺型は 1例もいませんでした。

これらの変異が良性の多型ではないことを確認するため、7560例の正常対照群で調べたところ、C71G, M114T, G118V変異は見つかりませんでした。しかし、E117G変異は 3例見つかりました。E117Gが病的かどうかは議論が残りますが、残る 3つは病的な変異と言えます。

続いて、培養細胞に変異を導入して解析を行いました。C71G, M114T, G118V変異を導入された Neuro-2A細胞では、PFN1は NP-40で不溶性画分優位でした。一方で、PFN1 E117G及び wild typeでは可溶性画分優位でした。この SDS抵抗性不溶性画分は PFN1 oligomerであると推測されます。

さらに、Neuro-2A細胞に変異を導入して免疫染色を行ったところ、E117Gを含む全ての変異で細胞質内凝集体が検出されました。これらの凝集体はユビキチン化されていました。Primary motor neuronでは、E117Gでユビキチン化は検出できなかったものの、他の 3つの変異体ではユビキチン化が確認できました。

Primary motor neuronに PFN1変異を導入して形成された凝集体に、他の ALS原因遺伝子産物 FUS, TDP-43及び、脊髄性筋萎縮症関連蛋白 (Spinal muscular atrophy-related protein) SMNが含まれるかも解析しました。凝集体には、FUS及び SMN (※ SMNは PFN1結合能があることが過去に報告されている) は検出されませんでしたが、30~40%の細胞で細胞質に TDP-43陽性 PFN1凝集体が検出されました。TDP-43病理を示した孤発性 ALSの脊髄では、PFN1の異常病理を示さなかったことから、TDP-43の凝集が PFN1の凝集を誘導しているわけではなさそうです。

PFN1はアクチン結合タンパク質なので、アクチン結合能のない変異体 PFN1 H120Eを病的コントロールとして、様々な解析を追加しました。HEK293細胞に PFN1変異を導入したところ、PFN1 C71G, M114T, G118V, H120Eでアクチン結合能が失われているのが確認できました。また、primary motor neuronに変異を導入したところ、C71G, M114T, G118V, H120Eで神経突起及び軸索の伸長が阻害されました。E117Gでも軸索の伸長は阻害されましたが、wild typeとの統計学的な有意差はありませんでした。

軸索の伸長にとって、成長円錐における actin dynamicsの制御は重要であることが知られています。そこで成長円錐に注目してみると、PFN1変異を導入された primary motor neuronでは成長円錐のサイズが約半分になっていました。さらに F actin (fibrous actin: アクチポリマー) と G actin (globular actin: アクチンモノマー) の比を調べたところ、C71Gでは F/G actin比が wild typeの 24.4%まで減少していました。このことから、成長円錐における G-actinから F-actinへの変換の抑制が、PFN1変異での形態学的異常に影響していることが示唆されました。

最後に、他の profilinについても調べました。PFN1は筋肉以外に ubiquitousに発現しています。一方で、PFN2は脳と神経細胞に発現し、PFN3は精巣に発現しています。274例の家族性 ALSについて調べたところ、PFN2, PFN3変異は見つかりませんでした。

まとめです。著者らは ALSの新規遺伝子 PFN1を同定し、変異遺伝子を導入した培養細胞における凝集体について解析し、変異体では軸索の伸長が抑制され成長円錐のサイズが減少することを突き止めました。 これらの知見は、細胞骨格経路の障害が、ALS発症において重要であることを示しています。

プロフィリンは 140アミノ酸からなり、G-アクチンへの結合を介して、F-アクチンの伸長制御に関係しています。もう少し詳しく説明するために、「タンパク質科学イラストレイテッド (竹縄忠臣編、羊土社)」から、プロフィリンに関する部分を抜粋します。

プロフィリン、チモシンβ4は細胞中でアクチンモノマーのプールを作る。プロフィリンは分子量 15000ほどでアクチンの ADP-ATP交換活性ももち、脱重合した ADP-Gアクチンを ATP-Gアクチンに変換することにより重合しやすくする働きももつと考えられている。プロフィリン-Gアクチン複合体は膜のリン脂質 PIP2によって解離されるとされている。酵母から動植物にいたるまで存在する。

これを読むと、プロフィリンの障害により、アクチンが重合しにくくなるのが理解できます。細胞骨格であるアクチンが重合できないと、当然軸索も伸長できません。今回の論文は、「PFN1は ubiquitousに発現しているのに、何故 motor neuronのみを侵す ALSを発症するのか?」という疑問には答えていませんが、PFN1が ALS研究において重要な役者であることは確かなようです。PFN1は VCP, MSN, Huntingtinと直接相互作用することが知られているので、ALSのみならず変性疾患という大きな枠組でも注目を集めることになるかもしれません。

驚くべきことに、PFN1と協調して働く分子が、ALSの治療ターゲットとして 8月26日に報告されました。その論文に関しては、また後日触れたいと思います。

【補足】 C71Gは、71番目の C (システイン) が G (グリシン)  に変異したことを示します。他の変異も、同様に記載しています。これらの記載法が理解できない方は、「変異遺伝子の記述法」から「II. タンパク質レベルでの記載法」をご覧ください。また、アミノ酸の一文字表記については「アミノ酸の名称と略記法」を御覧ください。

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