研究費

By , 2012年10月30日 7:30 AM

いつの時代も、研究費は研究者の悩みですが、第一次大戦後のドイツ科学界を資金面で支えた日本人が、ショートショートで有名な星新一氏の父親、星一氏だったことを初めて知りました。

星一の国際貢献 ドイツ科学界を救った日本人

2012.10.20 09:02
星一が創立した星薬科大学(星薬科大学HPから)星一が創立した星薬科大学(星薬科大学HPから)

この度の山中伸弥氏に対するノーベル医学・生理学賞決定の朗報は、基礎研究に携わる研究者の悪戦苦闘に世間の関心が向けられた点からもまことに意義深い。そこで当欄では、かつてノーベル賞受賞者を輩出したドイツ科学界に惜しみない支援を続けた一人の日本人を紹介しておく。

その人の名は星一(ほし・はじめ)、「ショート・ショート」と呼ばれる掌編小説のジャンルを確立した作家、星新一氏の実父である。彼は若き日に渡米、苦学してコロンビア大学を卒業し、明治38年に31歳で帰国して製薬会社や薬科大学を創設。一方で後藤新平と親しかったため、後藤の政敵から仕組まれたさまざまな妨害と戦いながら、激動の時代を果敢に生き抜いた快男児である。

その彼が後藤から、第一次世界大戦に敗北したドイツの科学界が実験用のモルモット一匹を買う金にも難儀しているとの話を聞く。この時である。星はこれまでドイツ科学界から日本が受けた恩恵に報いようと、自分が援助する旨を申し出る。金額は200万マルク、この破格の支援金は横浜正金銀行を通じてドイツに送金された。

ドイツでは星の援助を有効に活用すべく、「日本委員会(星委員会)」を設立、委員長にフリッツ・ハーバー、委員にはマックス・プランクなど錚々(そうそう)たるノーベル賞受賞者が就任。かくて、風前の灯(ともしび)だったドイツ科学界は再建される。当時、世界から冷淡視されていたドイツの学者たちが東方の国からの格別の援助に感極まった様子が目に浮かぶ。

大正11年のこと、星はドイツ政府から招待を受ける。エーベルト大統領は晩餐(ばんさん)に招いて記念品を贈った。さらには星に名誉市民権を与えて謝意を表した。まさに国賓(こくひん)に準ずる待遇を受けたが、個人的な見返りは断っている。

星はさらなる援助の必要を感じ、インフレに影響されない邦貨で以後3年間にわたって追加支援した。以上、その推計総額は現在の邦貨で20億円を超える。

世界の進運に寄与する学問がいかに貴いものか。その学問の危機を国境を超えて救った日本人がいたことは、わが国の誇りとして後世に伝えたいものである。(中村学園大学教授 占部賢志)

ドイツの研究者たちの喜びようが目に浮かぶようです。

ちなみに、星新一氏の母方の祖父は、東京帝国大学医学部教授の小金井良精です。かの有名なワルダイヤーに認められていた方ですね。小金井良精は森鴎外の妹、喜美子と結婚し、星新一氏の母「せい」を産みました。このように、星新一氏の祖先を調べてみると、出てくる名前が一々凄すぎます。

星新一氏が父や祖父のことを伝記に書いているようなので、時間を見つけて読んでみようと思います。

明治・父・アメリカ (新潮文庫)

人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)

祖父・小金井良精の記 上 (河出文庫)

祖父・小金井良精の記 下 (河出文庫)

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脳からみた心

By , 2012年10月27日 11:24 AM

「悩からみた心 (山鳥重著、NHKブックス)」をアメリカ旅行中に読み終えました。山鳥重先生は、神経心理学の権威です。

本書は「言葉の世界」「知覚の世界」「記憶の世界」「心のかたち」の四部構成からなっています。Aさんから Zさんまで、脳損傷によってある機能が失われた患者さんを分析することで、脳の働きを掘り下げていきます。非常に詳細な専門的分析をしているにも関わらず、平易な文章で、解剖学用語もほぼ登場しません。音楽家の原口隆一・麗子氏が著書「歌を忘れてカナリヤが」の中で本書を紹介していたことからわかるように、医療関係者以外の方にも読みやすい本なのではないかと思います。また、ソシュール記号論なんかも登場するので、文学や哲学が好きな方が読んだら面白いかもしれません。

内容が少しでも伝わるように、目次を紹介しておきます。

目次

はじめに-脳と心の関係

I 言葉の世界

(1)言葉は意味の裾野をもつ

言葉に対するでたらめともいえない反応の仕方 言葉は意味の骨格のまわりに広い裾野をもっている

(2)語の成立基盤

名前と物が重ならない ソシュールの理論を裏づける

(3)語は範疇化機能をもつ

一つの物にしか名前をいえない 人間は物の一般的属性を切り出す能力をもつ

(4)「意味野」の構造

物の名前を言えない 語は意味野の部分である

(5)「語」から「文」への意味転換

語はわかるが「文」が理解できない 「文」は語の単純加算ではない

(6)自動的な言葉と意識的な言葉

日常的な言葉は壊れにくい 注意を集中すると言葉が理解できない

(7)言語理解における能動的な心の構え

文脈を理解していて内容を理解していない 言葉の受動的理解から能動的理解へ

(8)状況と密着した言葉

目的意識をもつとうまくいえない 言葉は習慣性の高い自動的な能力

(9)言葉はかってに走りだす

とりとめのない言葉が延々と続く 言葉は常に内容を伴うとはかぎらない

(10)過去の言葉が顔を出す

意図に反して同じ言葉がでてしまう 過去が過剰に持続する

(11)言葉の反響現象

意味の理解を伴わない言葉の自動的繰り返し 状況が大枠で適切な言葉を引きだす

(12)言葉の世界は有機体-まとめ

II 知覚の世界

(1)知覚の背景-「注意」ということ

注意を維持できない 正確な知覚には注意機能が必要

(2)注意の方向性

左側の空間に気づかない 注意がその方向に向いて知覚が成立する

(3)「見えない」のに「見えている」ということ

見えていないはずの光源の方向が分かる 「見える」、「見えない」が視覚のすべてではない

(4)「かたち」を見ること-その一

かたちの区別がつけられない 視覚的要素が「かたち」に転化する

(5)「かたち」を見ること-そのニ

文字は読めるが顔は分からない 顔が分かるには線の知覚が重要

(6)「かたち」の意味

触ると分かるが見ると分からない 知覚された形と意味が結びつく段階

(7)二つの形を同時に見ること

二つのものが同時に見えない まとまりのあるものを見ようとする過程

(8)「対象を見る」とは何か

対象が消えても眼前にありありと再現する 神経活動の過程を「見て」いる

(9)視覚イメージの分類過程

見えない視野に出現するまぼろし 視覚情報は基本パターンに分類される

(10)対象を掴む

眼前の物を掴めない 「形」ではなく「関係」の知覚能力が必要

(11)私はどこにいるのか?

方角がわからない 動かない空間を基準に自己の動きを見ること

(12)知覚の世界は宇宙空間-まとめ

III 記憶の世界

(1)刹那に生きる

昨日、今日のことを覚えていない 記憶のない行動は恐い

(2)短期記憶から長期記憶へ

新しい出来事を覚えられない 短期記憶を長期記憶へ移していく特別の機構

(3)長期記憶が作られる過程

過去へ遡る記憶の消滅 じょじょに長期記憶として固められていく

(4)記憶の意味カテゴリー

時間性を失った記憶 記憶の歴史性と状況性

(5)記憶と感情の関わり

記憶が自分のものでないように思える 感情と記憶の濃淡が時間体験の背景

(6)短期記憶はなぜ必要か

数字の復唱ができない その場の一時的な働きを支える短期記憶

(7)記憶の世界の広大な拡がり-まとめ

IV 心のかたち

(1)言語と音楽能力は関係あるか

強い言語障害でもすばらしい曲を作る 音楽的世界は言語世界から自立している

(2)言語と絵画能力は関係あるか

強い言語障害でもすばらしい絵をかく 絵画的能力と言語能力は別でありうる

(3)左大脳半球と言語 左右大脳半球を分離する-その一

右手は正しいが左手は不正確 言語機能は左大脳半球に偏っている

(4)右大脳半球の世界 左右大脳半球を分離する-そのニ

脳梁全切断患者への画期的な実験 右大脳半球は視知覚能力がすぐれる

(5)人は複数の心をもつ

複数の心の同時並列的な関係 意識が心の一つを選びとる

(6)心のかたち

参考・引用文献

あとがき

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iPS論文不正

By , 2012年10月26日 12:55 AM

森口尚文という研究者が、iPS細胞から作った心筋細胞を、アメリカで重症心不全患者に移植する手術を行ったことが虚偽であったという話で、世間が賑わっています。読売新聞が見事に釣られ、スクープとして報道して大混乱になりました。Yajiuma1遺伝子を過剰発現している私としては、この話題を放っておくわけにはいけません。

この事件は、経歴詐称疑惑、論文捏造疑惑、マスコミの問題など、さまざまな要素をはらんでいます。

【経歴詐称疑惑】

Wikipediaで、彼の経歴が纏められています。

Wikipedia-森口尚史

  • 1989年4月 – 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科看護学専攻入学[6]
  • 1993年3月 – 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科看護学専攻卒業、同年看護士(現在は看護師)の資格を取得[7]
  • 1995年 – 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科総合保健看護学専攻博士前期課程修了、修士号(保健)[5]取得[3][8]。修士論文の題目は「健康診断における異常所見の評価とその予後に関する考察〜超音波エコーによる胆のうポリープの自然経過の検討」[7]
  • 1995年 ~ 1999年 – 財団法人医療経済研究機構主任研究員・調査部長、ハーバード大学メディカルスクールマサチューセッツ総合病院客員研究員[9]
  • 1997年 – 東京医科歯科大学医学部保健衛生学科非常勤講師(国際看護保健学、健康情報データベースと統計分析など担当)(2009年迄)[10][7]
  • 1999年8月 – 東京大学先端科学技術研究センター研究員(知的財産権大部門)(非常勤)[11][9]
  • 1999年11月 ~ 2000年1月 – マサチューセッツ総合病院胃腸科客員研究員[12][13]
  • 2000年10月 – 東京大学先端科学技術研究センター客員助教授(非常勤)[11][9]
  • 2002年4月[3] – 東京大学先端科学技術研究センター特任助教授(次世代的知的財産戦略研究ユニット、先端医療システム研究)(常勤)[11][9]
  • 2006年 – 東京大学先端科学技術研究センター特任教授(システム生物医学)(非常勤)(2009年3月迄)[11][14][15]
  • 2007年9月 – 東京大学大学院より、博士号(学術)取得。博士論文題目は「ファーマコゲノミクス利用の難治性C型慢性肝炎治療の最適化」、主査は児玉龍彦東京大学先端科学技術研究センター教授[16]
  • 2010年 – 東京医科歯科大学教授・薬品メーカーと共同でC型肝炎の予防および治療に有用な特許を発明者として提出し、2012年特許公開
  • 2010年 – 東京大学医学部附属病院客員研究員[11](助成金から人件費として月45万円以上が森口氏に支払われていた。[17])、東京大学先端科学技術研究センター交流研究員(無給)[13]
  • 2012年3月~8月 – 東京大学医学部附属病院形成外科美容外科技術補佐員[18] (非常勤)[5]
  • 2012年9月 – 同病院同科で有期契約の特任研究員(常勤)[5]として所属、研究テーマは「過冷却(細胞)臓器凍結保存技術開発の補助」[18]
  • 2012年10月 – iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施したと発表。当初6例実施としていたがそのうち5例は希望で1例は実際に行ったと訂正。
  • 2012年10月 – 東京大学医学部附属病院から懲戒解雇処分を受ける。

森口氏は、iPS細胞を使った治療を自ら所属するハーバード大学及びマサチューセッツ総合病院 (MGH) でおこなったとしたものの、病院側は所属を否定しました。病院側が否定しているので、経歴詐称の可能性が濃厚です。

彼は東京大学先端科学技術研究センター特任助教授を経て、2006年に同特任教授になったようですが、何故かその後 2007年に博士号を取得 (学位論文はこちら) しています。博士号がなくても東大の教授になれることがあるのですね。 一応、2002年の東京大学先端科学技術研究センター特任助教授というのが本当かと思って調べたら、東京大学の紹介ページのキャッシュが残っていました。しかしその後、2012年3~8月が、東京大学医学部附属病院形成外科・美容外科技術補佐員。普通は、教授から技術補佐員 (テクニシャン) になるというのは考えにくいです。なかなか謎のある経歴です。

【倫理委員会】

森口氏は、ハーバード 大学及び MGHでおこなった臨床試験を「倫理委員会の暫定承認を得ておこなった」と主張しています。しかし、ハーバード大学側は倫理委員会の承認を否定しています。臨床試験がでっち上げだったとする見方がある一方で、森口氏は少なくとも一件は手術を行ったと主張しているので、もしそれが本当なら、倫理委員会の承認を得ずに行われた人体実験です。

また、彼が Scientific reportsに投稿した論文について、東京大学も倫理委員会の承認を否定しました。

iPS臨床問題:東大「倫理委承認は虚偽」 英誌の2論文

毎日新聞 2012年10月16日 12時07分(最終更新 10月16日 12時10分)

人工多能性幹細胞(iPS細胞)の臨床研究問題で、東京大医学部付属病院は15日夜の記者会見で、所属する森口尚史(ひさし)氏(48)が英科学誌に今年発表した2本の論文で、「東京大の倫理委員会の承認を経た」と虚偽の記載をしていたことを明らかにした。

論文はネイチャー・パブリッシング・グループが発行する科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。それぞれ肝臓がんの細胞に化学物質を加えて性質を変える手法と、卵巣の凍結保存技術に関する内容で、両方とも東京大と米ハーバード大などの倫理委員会で承認されたと書かれていた。実際には東大の倫理委に申請していなかった。

両論文は同病院の三原誠助教らとの共著だが、病院側は「(三原氏は)最終的な原稿に目を通したことはないと思う」と説明した。 科学誌の発行元は既に調査を始めている。【八田浩輔、斎藤有香】

この研究が倫理委員会の承認なく実際に行われたとすると、重大な倫理違反にあたるでしょうね。

【研究の真偽】

彼は看護学科出身なので、医師免許を保持せず、直接治療は出来ないはずですが、米国での心臓手術で協力したという医師を明かしていません。怪しすぎます。

森口氏「研究者やめる」…iPS移植虚偽発表

(略)

水色のシャツにグレーのジャケット姿で現れた森口氏は当初、落ち着いた口調で報道陣の質問に答えていた。しかし、会見が始まって1時間近くたってから、米国内でiPS細胞を使った心筋移植を6件行ったとした研究発表のうち5件について、手術の事実がなかったと認め、予定していた手術だなどと弁明した。

一方、昨年6月に行ったと主張した1件の手術については、自分のものだとするパスポートの出入国記録の欄を示し、当時、米国にいたので事実だったと主張した。

しかし、執刀医や患者の名前などを示すよう求められると、「名前を出してくれるなと言われている」「それを出せないから、本当に困っている」などと繰り返した。

読売新聞は、森口氏の今回の心筋移植に関する発表について、ハーバード大や、論文の「共同執筆者」とされた研究者への取材などから、既に虚偽と判断している。

(2012年10月14日18時14分  読売新聞)

(※その後、医師名を明かしたようですが、やはり虚偽であったことが明らかになりました。10月26日付読売新聞から “森口氏は「iPS心筋移植」の手術6件中5件をウソと認めた後も、1件は実施したと主張。検証取材に「米ハーバード大近くの病院で行った」と述べ、初めて病院名と執刀医名を明かしたが、この病院には手術記録がなく、同名の執刀医もいないため、改めて虚偽説明と断定した。記者は、医師国家資格のない森口氏を医師と思い込んでいた。“)

論文の捏造疑惑については、@JuuichiJigen氏が Twitterで次々と明らかにしたのを始め、ネットで様々な情報が出まわっています。

Successful cryopreservation of human ovarian cortex tissues using supercooling

Fig. 1 oocyteは webで拾ってきた画像を加工したもの

Fig.2 右列の上から2段目(KIT)、3段目(YBX2)、4段目(NOBOX)、5段目(LHX8)の4つのバンド画像が同一画像右列の上から1段目(DDX4)と、6段目(GDF9)が同一画像。左列の上から1段目(DDX4)と、右列の上から7段目(ZP1)と8段目(ZP2)の画像も同一画像ZP3の左列画像と右列画像が同一画像。また、同様にβ-actinも左と右で同一画像

ちなみに、この論文、resultが 10行前後なんですよね・・・。

【報道】

これまで、読売新聞が彼の研究を率先して報道してきましたが、取れるはずの裏を取らなかったことで批判されているようです。例えば、彼が医師免許を持っているかどうかは簡単に確認できますし、もし医師免許を持っていないことが明らかになれば、何故このような研究を主導できているかに疑問が生じます。

結局、誤報で叩かれた読売新聞は、この研究者を徹底的に悪者として報道することで、自らを被害者として批判の矛先をそらせようとしました。しかし、その過程で使った「簡易論文」という造語で研究者を混乱に陥れました。BioMedサーカス.comは、このことについて痛烈に批判しています。

責任逃れのために簡易論文という造語を用意した読売新聞科学部(2012年10月23日更新)

お話にならない。読売新聞社は素人並みの知識しかないような記者に科学技術に関する記事を書かせているのだろうか?また、それにゴーサインを出した上司は部下の文章の何を見ているのだろうか?先の誤報の責任は読売新聞社にはありませんよ、と主張することで頭がイッパイだったのだろうか?

神戸大学の岩田健太郎氏は、「読売新聞は被害者だったのか」というタイトルのブログ記事で、今回のような誤報が起こる構造的な問題を指摘しました。一読の価値があります。

【雑誌社の反応】

Nature, Science誌も、早速この問題を取り上げ始めました。興味のある方はどうぞ。

NatureとScienceは森口氏iPS細胞移植治療虚偽疑惑をどう報じたか(記事紹介)

【ネタ】

今回の読売新聞の誤報について、虚構新聞が早速記事にしていました。この記事は秀逸すぎます。読売新聞の記事そのまま書くことがネタ記事になっているとは!

虚構新聞:iPS細胞利用で心筋移植、世界初の臨床応用

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プレゼン

By , 2012年10月25日 8:05 AM

現在のラボが今月いっぱいなので、追い込みの時期で、ブログ更新の時間がほとんど取れていません。更新がないと、死んだんじゃないかと心配してくれる人がいるかもしれませんが、無事生きていますのでご心配なく。

これまで、学会で散々発表してきましたが、Power Pointを使ったプレゼンテーションをするときに大学でよく言われたのが、「1枚のスライドに 10行まで」の制約でした。学会発表を見ていて、確かに busyなスライドは見にくいですね。

最近、プレゼンテーションについて、面白いサイトを見つけたので紹介します。

しょぼいプレゼンをパワポのせいにするな!

プレゼンテーションのやり方を解説するプレゼンテーションが素晴らしいです。

そういえば、先日ノーベル賞を受賞した山中教授は、プレゼンテーションが上手なことで有名です。

ノーベル賞・山中教授から学ぶプレゼンテーションの秘訣

その能力は、研究費を取るにも役立ったようです。「下手なイラスト」と言いながら、私より全然上手 (^^;

教授の「下手な」イラスト、研究進める決め手に

山中教授が自作したイラスト。ES細胞が直面している課題を「涙を流す胚」(上)、「腫瘍ができて涙を流すマウス」(下)で表現した(山中教授提供)

ノーベル生理学・医学賞の受賞決定から一夜明けた9日朝、山中伸弥・京都大教授(50)はいつも通り研究室に顔を出した後、夫妻で記者会見に臨んだ。

研究者として最高の栄誉に浴する喜びを語りつつ、世界の期待に応える重責への決意もにじませた。授賞理由となったiPS細胞(新型万能細胞)の研究を飛躍させた原動力は、研究の重要性を粘り強くアピールする山中教授自身の「プレゼンテーションの力」。自分で作成した個性的なイラストが、約3億円(5年分)という巨額の研究費を獲得するきっかけとなった。

山中教授は2003年8月、iPS細胞の基礎研究に手応えを感じ、国の大型研究費を申請した。しかし、当時は本人の強い自負とは裏腹に、iPS細胞研究はまだ模索の段階だった。そこで、研究費配分の審査では、世界的に研究が先行していたES細胞(胚性幹細胞)の問題点をイラストにまとめ、「ES細胞に代わる新たな細胞を作る必要がある」と訴えた。

イラストの図柄は、人の胚(受精卵が成長したもの)や腫瘍のできたマウスが涙を流す様子を描いていた。ES細胞の研究では、人間への応用を考えた場合、母胎で赤ちゃんに育つ胚を壊し、作らなければならないという倫理的な難問が立ちはだかっていた。移植した時に腫瘍ができやすい弱点もあり、それらが分かりやすく伝わった。

山中教授は「今考えたら、よくこんな下手なイラストをお見せしたものだと冷や汗が出ます」と苦笑するが、審査担当だった岸本忠三・元大阪大学長は「イラストを使った説明には(説得する)迫力があった。(iPS細胞は)できるわけがないとは思ったが、『百に一つも当たればいい。こういう人から何か出てくるかもしれん。よし、応援したれ』という気になった」と高く評価した。

(2012年10月9日14時42分  読売新聞)
 ※朝まで酒を飲んでその勢いのままプレゼンテーションしようとするとか、そうしようとして二日酔いでプレゼンテーションの 3分前までトイレに閉じこもって吐き続けているとかいうのは論外です。「こいつがトイレから出てこなかったらオレがやらなきゃ・・・」と焦らせた指導医の先生、すみませんでした。

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ルバイヤート

By , 2012年10月21日 12:01 PM

「ルバイヤート (オマル・ハイヤーム作、小川亮作訳、岩波文庫)」を読み終えました。ペルシア語で四行詩を「ルバーイイ」といい、ルバイヤートは、日本語に直訳すると「四行詩集」となります。

オマル・ハイヤームは、1040年頃ペルシアに生まれました。詩人としてのみならず、優れた数学者、天文学者であったことが知られています。彼はイラン=イスラム文化を代表する詩人でありましたが、イスラム教を信仰していませんでした。本書のあとがきにそのことが記されています。

そもそもイスラム教は異民族たるアラビア人の宗教であって、オマルのこの宗教に対する反感は、彼の哲学思想たる唯物論・無神論の当然の帰結であるばかりでなく、イラン人としての彼の民族的感情をも交えた人間性の深所からの叫びであった。(略)

要するにオマル・ハイヤームはイスラム文化史上ユニークな地位を占める唯物主義哲学者であり、無神論的反逆をイスラム教に向け、烈々たる批判的精神によって固陋な宗教的束縛から人間性を解放し、あらゆる人間的な悩みを哲学的ペシミズムの純粋さにまで濾過し、感情と理性、詩と哲学との渾成になる独自の美の境地を開発したヒューマニスト思想家であった。

さて、この詩集では、人生の無常などが詠われていますが、酒に関する記述が非常に多いのが特徴です。イスラム教は酒を禁じていましたが、彼はそれに猛然と反発しています。

わが宗旨はうんと酒のんでたのしむこと、

わが信条は正信と邪教の争いをはなれること。

久遠の花嫁に欲しい形見は何かときいたら、

答えて言ったよ-君が心のよろこびをと。

さらに、オマル・ハイヤームはイスラム教を信仰しなかったばかりでなく、仏教徒やゾロアスター教徒も皮肉ってます。

いつまで水の上に瓦を積んでおれようや!

仏教徒や拝火教徒の説にはもう飽きはてた。

またの世に地獄があるなどと言うのは誰か?

誰か地獄から帰って来たとでも言うのか?

宗教はともかく、次のように酒を詠んだ詩は、酒飲みにはぐっときますね。

愛しい友よ、いつかまた相会うことがあってくれ、

酌み交わす酒にはおれを偲んでくれ。

おれのいた座にもし盃がめぐって来たら、

地に傾けてその酒をおれに注いでくれ。

さて、岩波文庫版「ルバイヤート」は、小川亮作氏がペルシャ語の原典から訳したものですが、いくつかの翻訳が存在します。まず、この「ルバイヤート」を世界に広めたのは、イギリス人のフィツジェラルドによる翻訳版です。フィツジェラルドによる翻訳は読みませんでしが、ジャスティン・ハントリー・マッカーシーが英訳したものを、片野文吾氏が日本語訳した本がちくま学芸文庫から出版されていたので、同じ詩を岩波文庫版と比較してみました。

岩波文庫版

墓の中から酒の香が立ちのぼるほど、

そして墓場へやって来る酒のみがあっても

その香に酔痴れて倒れるほど、

ああ、そんなにも酒をのみたいもの!

ちくま学芸文庫版

願わしきは心ゆくまで飲まんことなり、心ゆくまで飲める酒の芳香、我眠れる土の辺りにただよひ居て、昨宵の酒宴の為に尚眩暈みつつ我墓を訪ふ者の、我墓の香気の為のみにて酔ひ倒れるることあるまで、さばかり痛く酔はんかな。

この二つの翻訳、私は最初はちくま学芸文庫版の方が、文学っぽくて良いのかなと思ったのですが、岩波文庫版の方を読むと、その翻訳には深い理由があったようで、感銘を受けました。長いですが、岩波文庫版からの解説を引用します。

ルバーイイはもと民衆的な起源を有するもので、人々が愛誦した民謡の形式であった。だから今日でもこの詩形を別にタラーネ (歌) と呼ぶ人さえある。それは、普通は、シナ詩の絶句体のような、起承転結の表現様式と押韻形式 (aabaの脚韻) とをとり、またたまには全詩脚同一韻の aaaaの形式をもとる一連四行の詩形で、各行は、日本語のような音の数や英詩のような音の強弱の原理ではなくて、古典ギリシア詩のような、音の長短の原理に基づき組み合わされた独特のリズム構成を有する三つ半の詩脚から成り、その最後はいずれも半分の詩脚で終わっている。だから四行を通じて見れば、完全な詩脚が一二と半分のものが四つあるわけである。各詩脚はいずれも長音歩三単位の長さに等しく (長音歩一つは短音歩二つの長さに等しい、以下長音歩を単位音歩、短音歩を半音歩とも称する)、その長短の組み合わせには、長長短短、長短長短、長長長の三通りがあり、また最後の詩脚は長音歩一つまたは一つ半の長さである。したがってこれらの詩脚の種々の配置によって、各行には長音歩十単位のものが一二、十単位半のものが一二、合計二四の構成様式が可能なわけである。(※文章にするとわかりにくいが、本書解説の図を見ると理解しやすい)

ルバイヤートはリズム構成が大事で、岩波文庫版の翻訳は、すべてリズム構成をルバーイイに合わせてあったのですね。それを知って読むと、より深く楽しむ事ができました。

さて、この詩集を読み終えて、イスラム文化について Wikipediaでお勉強していた私は、リンク先を辿るうちに、「Wikipedia-イスラーム世界の性文化」という興味深いサイトに辿り着いたのでした。←ルバイヤート関係ないし (爆)


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どうして弾けなくなるの? <音楽家のジストニア>の正しい知識のために

By , 2012年10月19日 8:15 AM

紹介が遅くなりましたが、9月中旬に「どうして弾けなくなるの? 音楽家の<ジストニア>の正しい知識のために (ジャウメ・ロセー・リョベー、シルビア・ファブレガス・イ・モラス編、平孝臣・堀内正浩監修、NPO法人ジストニア友の会)」を読み終えました。

ジストニアは運動障害の一種で、筋緊張の異常のため、異常姿勢をとったり、さまざまな運動のコントロールが困難になります。ある種の熟練者に見られる特殊なジストニアもあり、音楽家に生じるものを “musician’s dystonia” と呼びます。

音楽家のジストニアで最も有名な患者は、ロベルト・シューマンでしょう。過去にロベルト・シューマンの手に関する論文を少し紹介しました (シューマンの手<1>, <2>) が、その後、シューマンはジストニアであったという説が最も有力になっています。つまり、ロベルト・シューマンは、ジストニアのために演奏家を諦め、作曲家を目指したらしいのです。シューマン以外にも多くの演奏家がその道を諦めています。どのくらい多いかというと、音楽家のジストニアはプロの音楽家の 5%に見られ、その半数で音楽家の道を諦めなければいけない事実が、本書の序文に記されています。

音楽家のジストニアは、ヴァイオリニストやピアニスト、ギタリストの手に見られるだけではなく、声楽家の喉、管楽器奏者の口などにもみられます。こうしたジストニアの診療には、楽器演奏に対するある程度の知識がないと難しいようです。例えば、演奏家の手にジストニアが生じ、第 III指が屈曲した形になると、第 II指が伸展して第 III指の屈曲を代償しようとします。このとき、患指がどの指か見極めないといけません。そして、代償のため伸展した第 II指を患指と誤りボツリヌス治療をすると、第 III指の屈曲はますますひどいものになります。

また、”musician’s dystonia” は、診た瞬間診断が確定するわけではなく、ジストニアと紛らわしい他の疾患 (末梢神経障害など) の除外をしないといけません。ジストニアがある疾患に続発しておこる場合があるので、その基礎疾患 (神経変性疾患など) を見逃さないことも重要です。

これらの事を考えると、音楽家のジストニアの診療には、ある程度楽器の演奏に精通した神経内科医に求められる部分が大きい気がします。実は私の知り合いの先生が、こうした診療をしている医師を紹介してくれるとおっしゃってくださったので、折を見て勉強しに行こうか模索しています。音楽家のジストニアの専門的な治療が出来る医師は極めて少ないので、ヴァイオリンを弾く神経内科医として、少しでも力になれればと思います。

さて、音楽家の側から見て、演奏していて楽器を扱う部位に違和感を感じた時、それを克服するために無理をすると、ジストニアを発症ないし増悪させる可能性があります。一旦安静をとり、改善がないようなら、音楽家のジストニア診療に精通した医師の診断を受ける必要があると思います。音楽家生命に関わる疾患であり、適切な対処が求められる疾患でもあるので、もっと広くこの疾患の事が知られることを望みます。

[目次]
本書の必要性

第1章  音楽家のジストニアとは何か?
書痙と同じ疾患か?
音楽家のジストニアはいつ頃から知られていたか?

第2章  音楽家のジストニアとは
初期症状
もっとも特徴的な症状
どのような音楽家が発症するか?
どのような種類の楽器で発症するか?
発症しやすい身体部位はどこか?
症状が現れたときに音楽家はどのように対処したか?
感覚トリック
手のジストニアの特徴
楽器の種類による症状の特徴はあるか?
口唇(アンブシュア)ジストニアの特徴
声楽ジストニアの特徴
どのように進行するのか?
他の動作と副楽器演奏への症状の拡大
ジストニアの進行を防ぐことは可能か?

第3章  どのように診断するか?
病歴
診察所見
楽器演奏中の症状の評価
ジストニアの患指と代償指の診断
除外すべき疾患は?
その他の特発性ジストニアとの鑑別診断
偽性ジストニア
口唇ジストニアの鑑別診断における注意点
喉頭ジストニアの鑑別診断における注意点
どのような補足検査が必要か?

第4章  ジストニアの原因は何か?
精度の高い定型的反復動作、困難と動機づけ、基本的要素
なぜ一部の熟練した音楽家だけがジストニアになるのか?
発見された変化

第5章  ジストニアの心理学的側面
ジストニアの発症を促す心理学的要素は存在するか?
音楽家のジストニアへの対処法は?
ジストニアは心理的な問題を引き起こすか?
心理的な要因によりジストニアの回復が難しくなるか?
周囲の人々はジストニアを理解しているか?
ジストニアが回復すると、感情のバランスも安定するか?

第6章  予防対策

第7章  ジストニアの症状が出たときに何をすべきか?
ジストニアを改善させるための一般的な注意
内服薬
ボツリヌス毒素
神経リハビリテーション
興奮性の調整
外科手術

付録1 私のジストニア闘病記
マルコ・デ・ビアージ:ギタリスト
ジャンニ・ヴィエロ:オーボエ奏者
ジュリアーノ・ダイウト:ギタリスト
フランシスコ・サン・エメテリオ・サントス:ピアニスト

付録2 ジストニアをとりまく法律および労働に関する状況

あとがき
文献
一覧
索引

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旅行記の宿題完了

By , 2012年10月16日 7:58 AM

数年間放置してきた、旅行記を書き上げました。2008年大晦日にウィーンに行った時と、2010年に北欧を旅行したときです。

2012年ノーベル賞は昨日 10月 15日で全部門の発表が終わりましたが、2010年の旅行ではノーベル賞関連施設をいくつか訪れました。それ以外に、ヨーテボリの医学史博物館が面白く、写真を纏めたパワーポイントファイルをアップしてあります。ヨーテボリの医学史博物館は北欧を旅行することがあったら、是非お勧めです。

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祝!ノーベル医学生理学賞

By , 2012年10月10日 8:23 AM

10月8日、ラボでノーベル賞のサイトを見ていて、山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことを知りました。彼の業績については今更説明の必要はないでしょう。

ノーベル賞のサイトの Press releaseを見ると、key publicationsは、この論文になっています。雑誌の購読契約をしていなくても、無料でアクセス出来るみたいですね。

 Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors

Youtubeでは、 2010年に NIHで山中先生が行った講義を見ることができます。当初、APOBEC1の研究をされていたみたいです。それから ES細胞の研究をされていたと話しています。ES細胞の研究の後は、奈良先端科学技術大学院大学での iPS細胞の研究の話です。

・Induction of Pluripotency by Defined Factors

ギャグが面白いですね。英語が苦手で、ヒヤリング全くダメな私でも、引きこまれて聞いてしまいました。例として、前半部分のギャグを挙げると・・・

①当時はもっと髪がありました (6:00)

②テクニシャンが言ってきたのです。マウスが妊娠している。でも、オスのマウスなんだ!(8:35)

③APOBEC1が癌遺伝子だとわかった。だからこの遺伝子は遺伝子治療に使えない。(9:30) (※妊娠したと思っていたのは腫瘍化した肝臓だった)

④(3つのことがわかった) 一番重要なこと、「ボスの仮説を信じちゃいけない」 (10:15)

⑤日本に戻って、 私は PADっていう心の病気になりました。PADというのは私が名付けた病気で、”Post America Depression (アメリカ後鬱)” です。 (16:16) (※このあと、金もテクニシャンもなく、自分で数百匹のマウスを世話していたことを語る)

といった感じです。

47分10秒からの、「iPS細胞バンクを作る資金を獲得しようとしたけど、新しい政権 (民主党) は、我々に friendlyじゃない」っていうトークには笑いました。多分、「京大・山中教授「希望奪わないで」事業仕分けの科学予算削減で」とか「最先端研究:支援プログラムの配分額 18~50億円に減」っていう記事と関係がありますね。

さて、体細胞を一気に多能性幹細胞まで戻せる “山中の 4因子” ですが、化学物質を使うことで、4因子の数を減らす試みがされています。我々神経内科医にとってお馴染みのバルプロ酸という抗てんかん薬を使えば、Oct4遺伝子とSox2遺伝子だけで iPS細胞が作れるらしいです。資本が集中投資されているだけあって、凄い勢いで研究が進んでいます。

一方で、この技術、悪用しようと思うと色々できちゃいます。早速色々妄想してる方々がいらっしゃいます (^^;

(追記)

下記のサイトから、山中伸弥教授に寄付が続々と寄せられているようです。

JustGivingJapan

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帰国

By , 2012年10月8日 12:28 AM

10月6日に帰国し、10月7日は秋田で当直して過ごしました。

移動時間を使って、旅行記を更新しました。勢いに乗って、過去の旅行記の宿題を少し片づけました。

旅行記は http://www.miguchi.net/travel をご参照ください。

旅行記での残りは、2010年の北欧旅行と 2008年末のウィーン旅行の本文、それと 2004~ 2006年旅行の写真ですね。暇を見つけて頑張ります。

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