第九

By , 2012年12月15日 12:49 PM

年末は “第九” (ベートーヴェン作曲、交響曲第九番) のシーズンです。「年末といえば第九」という風潮に賛否両論ありますが、個人的には少しでも多くの人がこの名曲に触れるきっかけになれば良いのではないかと思っています。ちなみに私はこの曲が大好きで、一年中聴いています。

最近、Youtubeで 1979年のカラヤン来日の時の第九が聴けることに気付きました。多少音にバラつきはありますが、生き生きとした、なかなかの名演です。カラヤンといえば、「カラヤンはなぜ目を閉じるのか」だったという本が出版されるくらい、ナルシシズムに満ちていて自己の見せ方にこだわった人だったそうです。しかし、この録音はFM放送なので視覚効果を演出することはできませんし、生放送なので編集して音に手をいれる訳にもいきません。生に近いカラヤンに触れられる貴重な録音だと思います。

・ベートーベン交響曲第9番「合唱」(生放送)

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論文の競売

By , 2012年12月13日 7:38 AM

研究者が研究内容を発表する最も重要な場が科学雑誌です。少しでも Impact factor (IF) の高い雑誌に掲載されるように、皆鎬を削っています。しかし、雑誌社が「掲載しない」と言えば、いくら優れた内容の論文であっても日の目を見ることはありません。そのため、雑誌社は研究者に対して強い立場にあります。

最近、ある研究者が面白い方法を取り、話題となっています。なんと、自分の論文を競売に掛け、掲載する雑誌社を募集したらしいのです。

Richard Smith: Why not auction your paper? (BMJ blog)

論文をオークションにかけよ(ブログ紹介) (日本語記事)

著者が Twitterで論文を競売にかけることを tweetしたところ、8時間後に 4件の応募があり、Journal of Royal Society of Medicine (2011年 IF 1.1411) が落札しました。かなり特殊な例ですが、面白いことを考える人もいるものですね。

(参考)

インパクトファクターから見たジャーナルの地殻変動

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脳の探求者ラモニ・カハール スペインの輝ける星

By , 2012年12月10日 8:16 AM

「脳の探求者ラモニ・カハール スペインの輝ける星 (萬年甫著、中公新書)」を読み終えました。ラモニ・カハールについては、「神経学の源流 2 ラモニ・カハール」で説明したばかりですね。

本書はカハールについての伝記です。手の付けられない悪童が改心して研究者になり、義憤にかられてキューバ遠征に行くもマラリアにかかり散々な目にあって帰国し、以後研究に没頭してニューロン説を確立するまでの話が豊富な資料を元に書かれています。出版が中公新書ということからわかるように、専門家以外の方でも読める内容になっています。200ページくらいの薄い本なので、あっという間に読めますね。

印象に深かったことは物凄くたくさんありましたが、触れておきたい逸話があります。カハールが突起を発見できず、「第三要素」と呼んだ細胞群がありました。弟子オルテガが、師のカハールに「第三要素に突起がある」と告げた時、カハールは複雑だったようです。明らかに弟子が正しかったのですが、カハールを以ってしても、歳下の学者に自分の学説の間違いをストレートに指摘されると素直になれなかったようです。師弟という点では異なりますが、ゴルジがカハールに間違いを指摘された時の不愉快さも似たようなものであったのではないかと感じました。

以下は、備忘録。

Continue reading '脳の探求者ラモニ・カハール スペインの輝ける星'»

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携帯電話紛失騒動

By , 2012年12月9日 11:36 AM

12月7日は六本木で研究会でした。研究会が終わった後、ロマンチックにライトアップされた街並みを眺めるカップル達を羨ましそうに見ながら、日付が変わるまで軽いヤケ酒を飲みました。タクシーで自宅に着いて、コンビニで締めの料理を買って温めている間に携帯 (sim-free iPhone 4S, Docomo) を見ようと思ったら・・・なんと無いのです。タクシーを降りるまでは確かにあった筈。

自宅に戻って、iCloudを使って位置確認をしたら、自宅前で反応がありました。しかし、遠隔操作でアラームを鳴らして外に出て探しても見つからず。やがて電池が切れたのか、誰かに電源を切られたのか、位置確認にも反応しなくなりました。

12月8日出勤前に再度探してもなくて、練馬警察署にも行ってみましたが、やはりありませんでした。レシートを頼りに、タクシー会社にも電話してみましたが、私が乗った車両番号の車に携帯は落ちていないとのことでした。その日はそのまま日当直に出かけました。

当直を終えて、12月9日昼前に練馬警察署に出頭するを訪れると、なんと iPhoneが届けられていました。

重症の患者さんを担当していて、いつ急変の連絡が来るかもわからない状況だったので、早く見つかった良かったです。3ヶ月分の定期券もくっつけていたので、二重に助かりました。どなたかわかりませんが、警察に届け出てくださった方に深謝いたします。

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神経学の源流 2 ラモニ・カハール

By , 2012年12月7日 8:21 AM

「神経学の源流2 ラモニ・カハール (萬年甫編訳、東京大学出版会)」を読み終えました。カハールはニューロン説の礎を築き、ノーベル賞を受賞した研究者です。

第一章は著者の神経解剖学の「研究の端緒」で、カハール研究所を訪れ、その標本を見るところから始まります。第二章は「神経解剖学の方法・その史的発展」と題し、神経解剖学の研究の歴史を簡単に紹介しています。

第三章「ニューロン説の原典」が、カハールの論文の翻訳です。カハールはゴルジ法 (黒い染色) を用いて研究を始めた訳ですが、同じ方法を用いて同じものを見たゴルジが網状説 (神経は網目状に吻合している) を唱え、カハールがニューロン説 (各神経は独立した単位であり、接触により刺激が伝導する) を唱えたのは興味深いことです。凄いことに、カハールは詳細に形態を観察することで、神経の機能、刺激の伝導の方向まで明らかにしてしまいます。1892年に行われた「神経中枢の組織学に関する新見解」という講演は、次のように結ばれています。この結びを読むと、彼が唱えたニューロン説の概要がわかります。

以上取り急ぎ申し上げた諸事実を総括し、いくつかの考察を行なってこの講演を終わることにしたい。

1) 中枢細胞の形態学について、一般的な結論を下すならば、それは神経細胞、上皮性細胞ならびに神経膠細胞の突起の間には物質的な連続性がないということである。神経細胞は正真正銘の単一細胞であり、Waldeyerの表現によればノイロン (neuronas) である。

2) 物質的な連続性がないのであるから、興奮が 1つの細胞から他の細胞へ伝わる場合、あたかも 2本の電話線の接合点におけるがごとく、接近ないし接触 (por contiguidad o por contacto) によって行なわれねばならない。このような接触は一方は軸索の終末分枝あるいは枝側と、他方は細胞体ならびに原形質突起 (※樹状突起のこと) との間に行われるのである。網膜の神経膠細胞、脊髄神経節の単極細胞ならびに無脊椎動物の単極細胞のごとく、原形質突起のない場合には、細胞体の表面が神経性分枝の付着する唯一の場所となるのである。

3) 2種類の突起をもつ細胞のなかで神経興奮の伝わる方向として考えられるのは、原形質突起のなかでは求心性、軸索のなかでは遠細胞性ということである。(略)

4) 双極性細胞 (聴神経、嗅神経、網膜、Lenhossekと Retziusによれば蠕虫の知覚性双極細胞、魚の脊髄神経節の知覚性双極細胞など) では、末梢性突起は太くて興奮 (求細胞性の興奮) を受け入れる役をなし、原形質性のものとみなすべきである。(略)

5) 原形質突起は、Golgiならびにその一派が考えているように毛細管から放出される血漿を吸う細根のごとき単なる栄養装置ではなく、軸索と同じように伝導を行なっているのである。(略)

6) 原形質突起茎のあるもの (大脳の錐体細胞、Purkinje細胞など) がきわめて長いことや、側方および基底部からでる原形質突起が豊富なのは、多数の神経性分枝と連絡を確保し、その興奮を集める必要があるからであろう。多くの原形質突起分枝に見られる表面の粗いことや、棘の間の切り込みはおそらく神経線維終末の作用や接触が行われることを示しているのであろう。

第四章は、「網状説とニューロン説」です。「ストックホルムの壇上にて」という副題が付いています。ゴルジとカハールは同時にノーベル医学生理学賞を受賞し、それぞれ講演を行いました。ゴルジの講演は 1906年 12月 11日、カハールの講演は同 12月12日でした。それぞれの講演の全容が記されています。読むと互いにかなり意識していることがわかります。ゴルジのと比べ、カハールの講演の方が、理路整然としていて、説得力があります。

第五章は「カハール以後」です。著者達が如何にして研究を進めていったかが解説されています。地道な作業の連続に、研究とは忍耐なのだと感じさせられます。一方で、著者の行った工夫にも感嘆します。最終章は「ゴルジ法発見から 100年」と題されていて、”黒い染色” 記念シンポジウムです。著者がゴルジの住んでいた家を訪ねたり、ゴルジが作った標本を観察したことが記されています。

さて、カハールの論文を読んでいて、どうしてもわからない部分がありました。下記のくだりです。

後根はそれぞれ、遠心性線維と求心性ないしは知覚性線維から成っている。

遠心性のものは (Lenhossekとわれわれが同時に証明したように)、前角の細胞から出て、途中分枝したり枝分かれしたりすることなしに後根および脊髄神経節に入る。

大多数を占める求心性のものは、、後索に入って斜にその深部に進み、Y字状に分枝して上行枝と下行枝に分かれ、それぞれ縦走して後索の線維となる。これらの枝は白質に沿って何センチも走った後灰白質に侵入するらしい。そして遂には後角の細胞の間で遊離の樹上分枝として終わる。

この中で、「遠心性のもの」が何を示しているのかわからなかったのです。先日、岩田誠先生に会う機会があったので、質問してみました。すると、「それが Lenhossek (レンホセック) 細胞だよ」とのことでした。

通常、運動ニューロンは直接脳幹ないし脊髄の前方から出てきますが、レンホセック型のニューロンは一旦脳幹ないし脊髄の後ろ側に回って、側方よりの前方から出てきます。この手の細胞は、やや原始的なもので、運動成分のみならず自律神経成分を含むとされています。脳神経にはいくつかあり、顔面神経などがそれにあたります (リンク先 17から出る線維の走行参照)。

レンホセック細胞は呉建先生がかなり精力的に仕事をなさっていて、犬の後根を離断し、二次変性を起こすニューロンと起こさないニューロンがあることを突き止め、片方が前角由来の自律神経線維ではないかと提唱されていたそうです。それが、上記の「遠心性のもの」に当たるのではないかと考えられます。

余談ですが、カハールはレンホセックより先に「レンホセック細胞」を見つけていたのですが、発表に慎重になっていたところ、レンホセックに先に報告されてしまい、随分悔しがったという逸話が残っているそうです。

岩田先生、レンホセック細胞についてよくご存知だったなと思って聞いてみたら、「カハールが書いた教科書 (※分厚い本 2冊) にかなり詳しく書いてあったよ。僕はスペイン語じゃなくてフランス語翻訳で読んだけどね」とのことでした。たかだか 300ページくらいの日本語の本書を 2ヶ月かけて読んだ身としては、能力の違いをまざまざと知らされました。

(参考)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (1)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (2)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (3)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (4)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (5)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (6)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (6)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (7)

神経学の源流 2 ラモニ・カハール 冒頭部引用

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発熱

By , 2012年12月5日 6:30 PM

発熱してしまいました。

夏からエアコンが壊れているため、暖房もなく、ガタガタ震えています。

あまりに寒いので、とりあえず、エアコン修理の依頼をしてみました。とはいっても、エアコンが直るのは当分先でしょうね。

悲しいことに、明日と明後日が外来、明々後日が救急当直です。代わりはいません (´;ω;`)ブワッ

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素人でも訓練によりプロ棋士と同じ直観的思考回路を持てる

By , 2012年12月4日 6:53 AM

将棋を使った脳研究について、以前お伝えしました。続報です。

プロ棋士の直感、素人でも 理化学研など「回路」解明

 【田中誠士】素人でも訓練すれば、プロ棋士のような思考回路になれる――。そんな研究結果を、理化学研究所や電気通信大などが発表した。訓練を重ねることで素人の脳内でも、プロが直感的に「次の一手」を導き出すときに使う神経回路と同じ部分が発達したという。研究チームは、将棋の素人20人(20~22歳、男性)に対し、計4カ月にわたり、縦横5マスの盤上で6種類の駒だけを使う簡略化した「5五将棋」で訓練した。訓練の前後で20人の脳が活性化する箇所を機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)で測定したところ、訓練後には、プロが直感的な一手で使うのと同じ神経回路が発達し、思考能力が向上したことがわかった。ただ、上達の程度にはばらつきがあり、訓練者の興味や真剣さによって回路の発達に違いが生じた可能性があるという。

チームは「素人でも一定期間集中的に訓練すれば、プロと同じ直感的思考の神経回路を発達させられる」と分析。その上で、プロの直感的な思考は特別なものではなく、地道な訓練によって養われたものと、結論づけた。

結果は11月28日付の米科学誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」に掲載された。

直感的思考が基底核を通る回路によることは前回の研究で明らかになっていましたが、それが後天的なトレーニングで得られるものだということを証明した研究だったようです。

このように私の趣味である将棋で脳研究が勧められているのを見て嬉しく思います。

個人的には、尾状核に異常を呈する病気を持った患者さんで、このような直感的思考が実際に障害されるのかということに興味があります。

 論文:Developing Intuition: Neural Correlates of Cognitive-Skill Learning in Caudate Nucleus

 プレスリリース:素人でも訓練によりプロ棋士と同じ直観的思考回路を持てる  (簡易版 60秒でわかるプレスリリース)

上記論文を見ると、5×5将棋の図が載っています (Figure 1)。論文にあるのと同じ 5×5将棋を遊べるサイトがありますので、紹介しておきます。

ssj55 (5五将棋)

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誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方

By , 2012年12月2日 12:42 PM

誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方 (岡田定著、医学書院)」を読み終えました。薄い本なので数時間で読めます。

血液内科の領域は、学生時代に勉強してからかなり知識が抜けている部分があるのですが、再度整理することができました。

本書は血液内科専門医が実際に経験したファインプレーやエラーの実例が読めるのも貴重ですね。

岩田健太郎先生も絶賛の本です。

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誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた

By , 2012年12月1日 7:39 PM

誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた (岸田直樹著、医学書院)」を読み終えました。

これまで風邪の患者さんは数え切れないくらい診てきたけれど、本書のように体系だってまとめたものを読むのは初めてです。あまりに、面白くて 1日で読了しました。

ある部分では「俺が感じていたのと同じこと言っている」と親近感が湧きましたし、ある部分では「へー、初めて聞いた」と勉強になりました。

風邪の患者さんを診療しない医者はほとんどいないと思うので、読んでおきたい一冊です。

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