ACP日本支部年次総会 2013

By , 2013年5月30日 4:07 PM

ACP日本支部年次総会 2013に行って来ました。製薬会社が一切タッチしない手作りの学会運営で、内容も素晴らしく、とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。

 

5月24日 (金)

外来を終えて京都へ。22時頃 methyl先生と合流してまず京都国際ホテルにチェックイン。オステリア・エ・バールに食事に出かけました。深夜まで空いていたので助かりました。

5月25日 (土)

「臨床推論ケースカンファレンス~~綜合内科医の思考プロセスを探る~」 徳田安春

症例は、化膿性関節炎→敗血症性ショック+DKA→意識消失→交通外傷。小出しに集まる情報を元に、小グループでディスカッションしながら診断を進めていきました。小グループに学生がいて、学生の頃から勉強に来て意識が高いなと思いました。といいつつ、一緒のグループの研修医が可愛かったことが私にとっての一番の関心事だったのですが・・・ (^^;

Tipsとして、最近では糖尿病ベースの group G streptococcus感染症を診断することが多い、関節炎は 6Kと覚えると良い・・・というのがありました。

急性の 3K:化膿性 (細菌、ウイルス、真菌)、結晶誘発性 (痛風、偽痛風), 血腫 (関節内骨折、血友病などの出血傾向)

慢性の 3K:膠原病 (SLE), 関節リウマチ, 血清反応陰性 (ライター症候群、強直性脊椎炎、ベーチェット病、炎症性腸疾患)

講義が終わった後、桿状核球、分葉核球を知らない高齢の先生に、隣の席の医師が丁寧に教えてあげていて、アットホームな雰囲気を感じました。

 

“Snap diagnosis” Hiroshi Sudo

全て英語での講演。最初に、”The art of medicine is observation” というオスラーの言葉が紹介されました。爪についての話が多かったです。爪については、「爪 -基礎から臨床まで」という本が詳しいそうです。

1. Spoon nail: iron deficient anemia

2. Terry’s nail: hepatic cirrhosis, “Ground glass” like nail bed, no lunula

3. Lidsay nail: chronic kidney disease

4. Bean’s line: severe systemic disease (severe infection, myocardiac infarction), history of chemotherapy

5. Osler’s node, Roth spot, petechia, Janeway lesion, etc: peripheral stigma of endocarditis

6. Palmar crease pallor: shock vital

7. conjunctival rim pallor: anemia, sensitivity 10%, specificity 99%, LR +16.7

8. severe anemia looks like icterus.

9. asterixis: ≒metabolic encephalitis, CO2上昇でも出現しうる。baseline PaCO2 + 15 torr以上の CO2貯留で出現しうる。

10. Look at Jugular veneous wave: クラシカルには胸骨前面 (angle of Louis) より頸静脈を 5 cm挙上して怒張しているかどうか

11. Tachycardia: 鎖骨上部で拍動が見える (NEJM, 1998)

12. Goiter/Hyperthyroidemia: 喉を横から見て、正常では線状、goiterがあると前方に凸。

13. Hypothyroid speech:「 調子の悪い酔った人が風邪にかかり口の中にスモモを含んでの声を調子の悪い蓄音機で聴くような・・・」

14. Delayed ankle reflex (hypo thyroid, sensitive), Brisk ankle reflex (hyper thyroid, specific)

15. 血糖値チェックの針跡: endocarditisの peripheral stigmaと間違えないように

16. Auscultatory percussion of the bladder

17. Visible peristalsis: small bowel obstruction

18. “Sippu” indication most painful area: 湿布は患者さんが最も痛い場所を教えてくれる

19. ズボン膝部が破れている/汚れている: sudden loss of consciousness→cardiac syncope

20. 尿の色 (確か、ダ・ヴィンチのカルテに載っていたような尿の色調からの鑑別)

須藤先生の turning pointは、”on the bedside teaching” という論文だったそうです。あと、Sapiraの「身体診察のアートとサイエンス」はお薦めです。

 

「綜合内科医が知っておくべき膠原病診療のピットフォール~身体診察から鑑別疾患まで」 高杉潔

高杉先生の講談のように “聞かせる” 講演。関節所見の取り方は、高杉先生が作った DVDが入手可能なので、中外製薬の MRに聞くと良いそうです。Tocilizumabの治験で、診察所見の標準化をする時に作ったもの。以下、個々の関節について。

1. 頚椎: 口の中に指を入れて、硬口蓋に沿って示指先を伸ばせば自然に環椎の前結節に突き当たる筈。ただし患者さんにやるときは要マウスピース (噛まれないように)

2. 顎関節: 顎関節発症 RAは非常に稀。でもとても痛い。

3. 輪状披裂関節

4. 肩関節: 肩峰下・三角筋下滑液包の炎症が多い。hanging down stretchが有用。またbiceps long headの腱鞘炎も多い。

5. 肘関節: ① dimpleの触診大事。②肘頭滑液包炎, ③olecranon bursitisは肘をつくと起こる。関節との交通はない。④テニス肘、ゴルフ肘はステロイドを使わなくても、手で強く圧迫すると良くなる。阻血性?

6. 手関節: ①de Quervain diseaseは APL/EPBの腱鞘炎, ②MCP/PIP関節の腫脹は視診で確認可能なことが多い。

7. 股関節: 内旋運動が障害される

8. 膝関節: ①鵞足炎 (Anserine Bursitisは盲点になりやすい), ②膝窩部も診る, ③ Hamstringsの拘縮で歩容がおかしくなることがあり、ストレッチすると良くなる

9. 足関節:①Chopart’s joint, Lisfranc jointは部位を知っていれば正面から触れる, ②MTP 罹患頻度が極めて高い

次いで、岸本暢将先生、萩野昇先生による症例提示。サルコイドーシス、PANと紛らわしかった結核性動脈瘤, PMR (PMRの 15%は赤沈正常), 掌蹠膿疱症など。

血管炎の国際分類が変わったことなども話題にのぼりました (2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides)。

講演が終わってから、夜のレセプションまで京都大学周辺を散策しました。レセプションでは、研修医時代にお世話になった先生 (今ではすっかり大御所) に会うことが出来て話し込みました。終わってからは、6名くらいで佳久に移動して飲み直しました。ACP日本支部年次総会で講演される先生が何名かいて、濃い飲み会でした。

5月26日(日)

「臨床研究デザインの指標~研究デザイン 7つのステップ~」 栗田宜明, 福間真悟, 渡邉 崇

臨床研究の道標(みちしるべ)―7つのステップで学ぶ研究デザイン」という本とほぼ同じ内容。小グループでリサーチクエスチョンを実際に研究デザインしてみて、やってみるといかに難しいかよく分かりました。知識より、それが収穫でした。

 

 「膠原病の検査の見方~乱れ打ちは今日からやめよう!~」 萩野昇, 岸本暢将

流れるような講義でした。いくつか備忘録としてメモしたのが下記。でも、一覧表をさっと示された時とかメモが取れませんでした。やっぱり乱れ打ちはしちゃいそうです (-_-;)

・抗核抗体の検査法としては Immunofluorescenceが最も優れている。EIAは勧められない。

・抗核抗体のパターンによって、対応する疾患が異なる

・中年女性の 1/4が抗核抗体陽性になる (健常人で 1:40が 32%, 1:80が 13%, 1:320が 3%)

・抗核抗体陽性のときは、抗ds-DNA抗体、抗RNP抗体, 抗Sm抗体, 抗SS-A抗体, 抗SS-B抗体をチェック。

・抗核抗体陰性のときは、抗 ds-DNA抗体は必ず陰性。抗SS-A抗体, 抗SS-B抗体陽性は時として存在する。

・抗Sm抗体はだいたい抗 U1-RNP抗体と共に陽性となる、抗SS-B抗体はだいたい抗 SS-A抗体と共に陽性となる。

・1987年の関節リウマチ (RA) 分類基準では、早期関節リウマチの 13%しか陽性にならない。そこで ACR/EULAR 2010 Criteria for RAが出来たが、適応するには明らかな滑膜炎の存在、他の疾患によらない・・・というのが前提。

・リウマチ因子を測定する時は、RF定量を選ぶ。IgG-リウマトイド因子は選ばない。

・リウマチ因子の陽性率は、RA発症 3ヶ月 33%, 4-12ヶ月 70~80%, Sjogren 90%, 健常人 (60歳以上) 24%・・・であり、特異度が問題になる。

・リウマチ因子は疾患活動性の指標。ただし、リウマチ性血管炎では別。

・抗CCP抗体は、感度は RFと同じだが、特異度が高い。でも他の collagen diseaseや結核などで陽性になることもある。

・急性 B型肝炎の前黄疸期に関節炎をきたすことがある。

・血管炎での ANCAの陽性率は、GPA (旧 Wagner症候群) 90%, EGPA 40~50%, MPA 70%くらい。

・免疫抑制剤を使う前は Tbの家族歴を聞く。

・赤沈の基準値 (上限) は、男性 年齢/2, 女性 (年齢 + 10)/2

・ヘパリン、経口避妊薬で赤沈が上がることがある。

・赤沈高値、CRP低値では、高ガンマグロブリン血症 (多発性骨髄腫、クリオグロブリン血症、IgG4関連疾患)、SLE, Sjogren症候群などを考える。

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鼻の先から尻尾まで

By , 2013年5月28日 8:00 AM

鼻の先から尻尾まで 神経内科医の生物学 (岩田誠著、中山書店)」を読み終えました。

「チンパンジーとヒトの嚥下の違い」とか、「4億年前のケファラスピス (Cephalaspis) からヒトの頭はどのように進化を遂げたか」という視点で人体を考えたことがなかった私にとっては非常に衝撃的な内容でした。様々な表現型が提示されながら、ゲーテが言う所の『』が解き明かされていくのを読みながら、感動を覚えました。こういう眼でヒトが見られれば、日々の臨床がもっと楽しくなることは間違いないと思います。

著者が主張するのは観察すること、体験することの重要性です。

私がこんなお遊びのようなことを教室で行ったのは、自分の身体機能の観察こそが臨床観察の基本だということを、学生たちに知ってほしかったからであり、患者さんの診察に入る前に、まずは自分の体はどうなっているのか、自分の体の働きはどうなっているかを、とことん観察する習慣を持ってほしいと思ったからである。物事をじっと観察すると、いくらでも面白い事実に気づくことが出来る。教科書に書かれている知識としてではなく、自らが体験した事実としての知識を身につけるような教育を行わなくては、良医は育てられないというのが、私の教育の信条だ。

本書は各項数ページの読みやすいエッセイ集です。多少の医学的、生物学的知識は必要ですが、理解できる範囲で読んでも、楽しめると思います。読むと「神経内科ってこんな面白いものを見ているんだ」と感じて頂けると思います。お薦めの一冊です。

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成田達輝リサイタル

By , 2013年5月24日 8:23 AM

某医師とともに御招待いただき、成田達輝氏のヴァイオリン・リサイタルを聴いてきました。

ベートーヴェン:ヴァオイリン・ソナタ第 8番 ト長調 Op.30-3

フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第 2番 ホ短調 Op.108

シマノフスキ:<神話>Op.30より <アレトゥーサの泉>

フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調

成田達輝 (Vn) / テオ・フシュヌレ (Pf)

2013年 5月 10日 19:00開演 トッパンホール

ベートーヴェンは、現代風の演奏。淀むところなく、駆け抜けていきました。こういうスタイルには好感が持てます。ただし、フランス音楽を聴いているような軽さが少しだけ気になりました。

フォーレ、シマノフスキ、フランクの演奏は、聴いていて何も不満な点はなく、ただただ音楽に浸って楽しみました。成田氏の演奏は、意図が伝わってくるので、聴いていて面白いです。また、卓越した技術があり、安心して聴くことができます。

私がこの日一番衝撃を受けたのは、アンコール曲、サン=サーンス作曲「序奏とロンド・カプリチオーソ (通称ロン・カプ)」です。中学校 2年生の時、この曲を発表会で弾いて一時ヴァイオリンをやめたので、私にとって思い出の曲です。成田氏の演奏は私の持っていた曲のイメージを良い意味で覆しました。この曲としては、私が過去に聴いた中で最も素晴らしい演奏だったと思います。

そんな成田達輝氏がファースト・アルバムを出すことになりました。何と、ロン・カプが収録されています。これは絶対「買い」ですね。

成田達輝 CD

成田達輝 CD

発売日の 9月 21日まで待てない方、エリザベート・コンクールの記念 CDに、成田達輝氏の演奏が収録されています。こちらを楽しみましょう。

2012年エリザベート王妃国際コンクール・ヴァイオリン部門 (Queen Elisabeth Competition of Belgium – violin) (3CD+bonus CD) [輸入盤] [CD]

(関連記事)

ポリーニ・パースペクティヴ 2012
YAKINIKU

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医学統計ライブスタイル

By , 2013年5月23日 7:37 AM

医学統計ライブスタイル (山崎力著、SCICUS)」を読み終えました。

山崎力先生の講演は以前一度聴いたことがあり、過去のブログでも紹介したことがあります。

よく製薬会社のパンフレットで見かけるような臨床試験が批判的に吟味されており、「こうやって解釈するのか」というのがすごく勉強になりました。

臨床試験は医師の判断に大きな影響を与えるため、その結果の解釈は非常に大事です。臨床医必読の本だと思います。

最後に、個人的経験談から。現在悪い意味で話題の JIKEI HEART Studyですが、数年前、ノバルティス社の医薬情報担当者 (MR) に、「JIKEI HEART Studyは途中で primary end point変えているし、実薬/プラセボどっち飲んでいるか知っていてエンドイントが入院だから、ちょっと信用出来ないんじゃないの?」と聞いたことがあります。その時、MRが自信満々に「○○という理由です。これ以上は、当社の統計解析の専門家が説明できますけど、機会をセッティングしますか?」と答えました。私はそこまで確信を持って質問したわけではなく、統計解析の専門家と議論しても丸め込まれるだけなので断りましたが、本書ではかなり厳しく批判されており、当時本書を読んでいればもう少し自信を持って主張出来たのになぁと思いました。

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生命科学の明日はどっちだ

By , 2013年5月21日 8:00 AM

「生命科学の明日はどっちだ」というサイトを知りました。大阪大学教授で、生物の模様のパターン形成などを研究されている方のサイトのようです。

生命科学の明日はどっちだ

いずれの記事も面白いですが、特に面白かったのが下記。

小ネタ:波紋使いの百面相マウスから学ぶ超画期的ハゲ治療法
第一回:研究論文や申請書におけるジンクピリチオン効果について
吾輩はキリンである.模様はひび割れている
第十五回:科学者はみのもんたに勝てるのだろうか?

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ゴールデンウィーク2013

By , 2013年5月18日 10:15 PM

恒例のゴールデンウィーク日記。

4月27日 (土)

23時過ぎまで実験をして、最後に結果を見るために顕微鏡室に行ったら顕微鏡が壊れていて、実験が全て無駄になってしまいました orz

4月28日 (日)

久々に体を休めました。目覚ましをセットせずに起床したら昼の 12時。録画した NHK杯将棋トーナメントを見て、競馬中継を見て、ヴァイオリンの練習をしてから将棋 Barに遊びに行きました。

4月29日 (月)

大学の日当直でした。空き時間に、論文を読んだりしてました。

4月30日 (火)

通常勤務で、仕事が終わってから将棋 Barに遊びに行きました。3段くらいの棋力の方 2人に、良い内容で連勝でした。

5月1日 (水)

仕事が終わってから、自宅でヴァイオリンの練習。買ってきたばかりの Oliveの A線がいまいちで、違う弦に張り替えたら解決しました。不良品だったのかな???

5月2日 (木)

午前中は外来。木曜日午後はいつも実験用に時間をとってるのですが、この日はたまたま実験がなかったので、一人上野へ出かけました。まずは東京都美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチ展に行ったのですが、観光客でいっぱいで、あまりじっくりと見ることができませんでした。その後、近くの国立西洋美術館のラファエロ展へ行きました。ラファエロの絵は、綺麗は綺麗なのですが、影とか奥行きとかがあまりなくて、私の好みではありませんでした。そういう技法が発達する前の時代の絵ですから当然かもしれません。一方で、女性と赤ちゃんを描いた絵がいくつかあり、これは面白かったです。神経内科医にとっては、Babinski反射が出ているかどうか、自然と赤ちゃんの足の親指に目がいくのです。ラファエロ展を見た後は、国立西洋美術館の常設展に入りました。ルノワール、マネ、モネ、ピサロ、セザンヌ、ゴーガン・・・かなりのラインナップでした。その中でも、シャイム・スーティンの「狂女」は、前傾で身をすくめた老女が眼を見開いており、びまん性レヴィー小体病で幻視を見ている可能性はないのかなぁ・・・などとあれこれ妄想を楽しみました。

5月3日(金)

大学の日当直でした。ゴーデンウィークのせいか、救急部はすごく忙しそうにしていました。

5月4日(土)

一度帰宅して、羽田空港から岡山空港へ。そこで小学生の頃からの友人の馬券オヤジ氏の車に乗り込み、香川県高松市に旅行に行きました。地元の病院の先生に教えて頂いた店がこちら。

りき家

おいで

凛と

寿司中川

この中から、りき家のコース料理を選びました。香川の地酒がたくさんあって、料理も凝っていて美味しかったです。ただ、男性には量が少し物足りなかったので、五右衛門うどんでしめてホテルに戻りました。

5月5日(日)

朝、高松市内でうどんを食べてから、しまなみ海道に向かいました。今治市と尾道市を結ぶ海道です。途中因島にある本因坊秀策囲碁記念館に寄りました。漫画「ヒカルの碁」でも取り上げられた本因坊秀策は、ここが出身地だったんですね。全然関係ありませんが、近くには、「ここは海抜2.5mです。6.9m以上のところに避難してください」との看板があり、南海大地震への対策が垣間見えました。

ドライブを楽しんで実家に帰り、妹の赤ちゃんと初めて対面しました。生まれてから 1ヶ月くらいの赤ちゃんでしたが、Babinski反射や Moro反射を診たのは、医者としての御約束です。この日はずっとぐずっていたのですが、モーツァルトを聴かせると泣き止んで、音楽家の素質があるんじゃないかと喜んでいたのは、親馬鹿ならぬ叔父馬鹿です。面白いことに、Mozartの K.159だと直ぐ泣き止むのに、他の作曲家だとダメ。Mozart effectなのかなと考えましたが、サンプル数が足りないので、もっと実験する必要があります。

夜は、海の幸と地酒を堪能しました。私がネットで買った酒と共に、妹の夫も地酒を送ってくれていたので、ずらりと並んだのが「会津娘」、「奈良萬」、「龍力 上松」、「伯楽星」、「田酒」、「獺祭磨き2割3分」、「開運」、「作」、「写楽」、「昇竜蓬莱」・・・。さすがに飲みきれませんでした (^^;

5月6日(月)

日本酒の続きを飲んでから、岡山空港に送ってもらい、東京に戻って来ました。

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CMT1BとGadd34

By , 2013年5月16日 7:59 AM

遺伝性末梢神経障害にはなかなか有効な治療法がありませんが、、2013年4月1日の Journal Experimental Medicine誌に興味深い論文が掲載されていました。

Resetting translational homeostasis restores myelination in Charcot-Marie-Tooth disease type 1B mice

Maurizio D’Antonio1, Nicolò Musner1, Cristina Scapin1, Daniela Ungaro2, Ubaldo Del Carro2, David Ron3,4, M. Laura Feltri1, and Lawrence Wrabetz1

P0 glycoprotein is an abundant product of terminal differentiation in myelinating Schwann cells. The mutant P0S63del causes Charcot-Marie-Tooth 1B neuropathy in humans, and a very similar demyelinating neuropathy in transgenic mice. P0S63del is retained in the endoplasmic reticulum of Schwann cells, where it promotes unfolded protein stress and elicits an unfolded protein response (UPR) associated with translational attenuation. Ablation of Chop, a UPR mediator, from S63del mice completely rescues their motor deficit and reduces active demyelination by half. Here, we show that Gadd34 is a detrimental effector of CHOP that reactivates translation too aggressively in myelinating Schwann cells. Genetic or pharmacological limitation of Gadd34 function moderates translational reactivation, improves myelination in S63del nerves, and reduces accumulation of P0S63del in the ER. Resetting translational homeostasis may provide a therapeutic strategy in tissues impaired by misfolded proteins that are synthesized during terminal differentiation.

Charcot-Marie-Tooth病 (CMT) は遺伝性末梢神経障害です。遺伝形式、障害のタイプ (軸索型/脱髄型) によりいくつかの subtypeに分類されます。人種差はありますが、一般的には常染色体優性遺伝の脱髄型である CMT1Aの頻度が最も高いことが知られています。今回の論文で取り上げられているのは、同じく常染色体遺伝の脱髄型である CMT1Bです。

CMT1Bは Myelin protein zero (MPZ; P0) の異常で発症します。P0はミエリンを形成するシュワン細胞の最終分化の間に合成される蛋白質です。ミエリン蛋白の 20~50%を占めます。膜同士の密着化、機能維持に関与するとされています。

著者らは P0の 63番目のセリンを欠失させた S63delマウスを用いた実験を行いました。S63del変異は、脱髄型ニューロパチーである CMT1Bの原因となります。変異マウスでは、P0 S63delがミエリン鞘で検出されず、小胞体に留まり、そこで凝集して小胞体ストレス応答 (UPR) の原因となっていました。これは、この変異が “toxic gain of function” であることを示唆しています。小胞体ストレス応答のメディエーターである Chop遺伝子を欠損させると、S63delマウスの運動機能が完全に回復し、脱髄も改善します

著者らは、小胞体ストレス応答と CHOPが果たす役割を調べるため、生後 28日の時点で、Chopノックアウトマウスに対して tunicamycin (UPRの activator) 投与後の転写解析を行い、CHOPの標的遺伝子として最終的に Gadd34を同定しました。小胞体ストレス応答が起こると、eIF2αがリン酸化され、mRNA翻訳が低下しますが、Gadd34は eIF2αを逆に脱リン酸化して翻訳の低下を防ぐ役割をしています (Gadd34は PP1-phosphatase複合体の活性化サブユニット)。

Chop遺伝子を欠失させると S63delマウスの運動機能が回復することはわかっていましたが、Gadd34をノックアウトしても同じようにS63delマウスの表現型が回復することが、神経伝導検査や病理学的評価で確認されました。また、Gadd34による eIF2αの脱リン酸化を阻害する Salubrinalという小分子が、S63delマウス胎児由来の後根神経節培養細胞の脱髄を抑制し、S63delマウスの表現型を回復することもわかりました。eIF2αのリン酸化は misfolded protein (うまく折りたたまれず、きちんとした 三次構造がとれない蛋白質) に関連したニューロパチーの治療ターゲットになりそうです。

ちなみに、Saxenaらが筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のモデルマウスに対して Salubarinalを用いた実験を行った際、それなりの効果が認められたそうです。一方で、Morenoらは、Gadd34の過剰発現はプリオンによる神経変性に保護効果を示し、salubrinal処理をしたマウスでは神経の生存に悪影響がでることを報告しています。また、eIF2αの脱リン酸化をターゲットとした薬剤では、salubrinalより guanabenzのような薬剤の方が毒性が少ないかもしれないとも言われているそうです。

この論文は、有効な治療法が存在しない遺伝性ニューロパチーにおいて、ごく一部ではありますが治療法が開発できる可能性があることを示した意味で意義のあるものだと思います。CMT1B以外の末梢神経障害において、salubrinalや guanabenzによる神経保護効果が見られるのかも興味があります。

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失われた世界

By , 2013年5月11日 9:48 PM

失われた世界 -脳損傷者の手記- (A.R.ルリヤ著, 杉下守弘・堀口健治訳, 海鳴社)」を読み終えました。ルリヤの本は、以前「偉大な記憶力の物語」を紹介したことがありましたね。

この本は、ドイツ軍との戦争で銃弾によって優位半球の頭頂葉を中心に破壊されてしまった男性及びその日記を扱っています。彼には視野障害、失語、左右失認、失算などの後遺症が残存しました。しかし彼は想像を絶する努力をして忘れたことを再学習し、直ぐに消えてしまう単語を探しながら少しずつ日記を付けました。彼が失った能力は多かったものの、おそらく前頭葉に損傷がなかったため人間らしさが失われることはありませんでした。ルリヤは次のように記しています。

負傷によって彼の脳は回復しえない損害をこうむった。彼の記憶力はことごとく抹殺された。彼の知識は無数の断片に細分されてしまった。治療によって、また時の経過によって、彼の生活を取り戻し、そして彼は無数の断片を集めて、ある記憶をとり戻す仕事を始めた。「忘れられた世界」と自分で呼んでいた彼一人の世界に彼は置かれていたが、彼は今までの生活をとり戻し、社会にとっても有益な人間にもどろうと、不変の希望をもって仕事を続けた。

しかし負傷は思いがけない結果ももっていた。それは、彼が体験してきた世界はこわされずにそのまま残されているということであり、彼の熱心さも失われず、彼の人間として市民としての個性を保持させていたことである。

彼は「忘れられた世界」 (物忘れする世界) から自分をとり戻すべく闘った。前進することはときおりきわめて困難であり、自分の無力さを感じることもあった。しかし彼には想像力が残されていた。幼年時代のときと同じように、彼は森も湖もその像を描くことができる。

これは、脳の他の機能は完全に破壊されたが、ある種の機能がそのまま残ったゆえになしえた例であった。

その結果、簡単な会話や、多くの文法構造については理解できないが、彼の歩んできた人生の驚くほど正確な記述を私達に残したのである。この日記を一ページ書くことは、彼にとっては超人的な努力を要することであるが、彼はそれを何千ページも書いたのである。彼は基本的な問題に対処することはできなかったが、自分の過去を生き生きと記述することができたのである。さらに、彼は強力な想像力、つまりきわ立った空想力や感情移入の能力を持っていた。

(略)

彼の内部にある力は完全に保持されているといえよう。この人を特色づける、道徳的な個性、生き生きとした想像力といったものは今も十分に価値があり、精彩をはなっている。それは、けがによってもなくならなかった。

この人の脳には、未だわれわれの器官では見分けることのできない、驚くべきものがある。一方の脳の部分は徹底的に破壊されながら、精神的な生活は残っている。弾の破片は他の部分を破壊せずに残し、彼が今までもっていた可能性は完全に保持させている。

この力が残っていたことが、彼に、理解できなくなってしまった世界に取り組む闘いを可能にし、精神的な強い個性を彼に与えたのであった。

ロシア語が元なので、日本語に訳した結果わかりにくくなってしまった部分はありますが、比較的読みやすい本です。訳者はあとがきを「本書は、軽度の失語症患者の音読練習の資料としても使用できるように、翻訳は平易になるように努め、また読みやすくするため行間を若干広くとった」と結んでいます。専門家にとって失語症の患者さん残した貴重な資料であることは勿論ですが、彼と同じように高次脳機能障害と戦う患者さんにも勧められる本です (少し難しいかもしれないけれど・・・)。

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鮠乃薬品

By , 2013年5月10日 7:01 AM

精神神経疾患治療薬を愛でたり語ったり擬人化するブログの存在を知りました。

 ハヤノヤクヒン

なかなか面白いです。

神経内科でよく使う薬についてのエントリーはこちら。

テグレトール

デパケン

リボトリール

マイスリー

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おもしろ遺伝子の氏名と使命

By , 2013年5月8日 4:00 AM

おもしろ遺伝子の氏名と使命 (島田祥輔著、オーム社)」 を読み終えました。遺伝子には変な名前がついたものがあり、命名の由来を紹介した本です。勉強になることに、全て元文献が記されており、遺伝子の機能も概説してあります。

下記のリンク先に書評があります。私はこれを読んで購入を決めました。届いてから読み終えるまで、あっという間でした。お薦めの本です。

『おもしろ遺伝子の氏名と使命』 新刊超速レビュー

ちなみに、この本には載っていない遺伝子名のトリビアを一つ。

『回り回っても,一途に挑む事』

当時,日常的に細胞癌化アッセイ(Focus formation assay)を行っていたが,ある日たまたまアッセイ用細胞が余ったので,この遺伝子を導入してみた。2週間後驚いた事に,廃棄予定遺伝子が,繊維芽細胞の癌化を著しく促進した。自らの腕を疑ったわけではないが,実験が一番上手だった女子学生に,先入観を与えないために何の情報も教えず同じ実験を行ってもらった。彼女も,全く同じ結果を出した。この時は,廃棄ゴミの中から宝物を探し出した気分だった。その遺伝子は,脳,精巣,心臓で発現が高かったが,癌化促進機構は理解できなかった。しかしながら新規遺伝子であった事から,簡単なレポートを投稿する事にした。
新規遺伝子の場合,論文投稿前に,話しやすく,他人にも印象深い名前を登録する必要があった。そこで,当時この実験に従事していた大学院生Daisuke君とJunkoさん二人に敬意を込め二人の頭文字をとり「DJ-1」と名付けた。実は漫才コンビ名に触発されこの名前が思い浮かんだ。

この通り、パーキンソン病の原因遺伝子の一つ “DJ-1” は、Daisuke & Junkoの頭文字から命名されました。

DJ-1が初めて報告された論文の筆頭著者は Daisuke Nagakubo氏。ところが論文では著者名、本文中、どこにも Junkoさんの名前は出て来ません。Junkoさん、遺伝子に名前を貸してあげたのに表に名前が出ないのが、ちょっと可哀想・・・ 。いや、むしろ遺伝子に名前が残ったから、これで良いとすべきか?

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