第6回上肢の神経機能回復セミナー
2013年6月21~22日に開催された第 6回上肢の神経機能回復セミナーに参加してきました。
脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科や、機械工学の専門家などが集まり、科の垣根を越えて活発な議論が行われました。田舎の一都市で開かれた小さな会にも関わらず、例年通り米国脳卒中学会の理事 Goldestein先生 (DUKE大学教授)、日本脳卒中学会の前会長篠原幸人など錚々たるメンバーが集まりました。
6月21日 (金) の演題で個人的に興味深かったのは、塚本浩先生が講演された「上肢の末梢神経エコー」でした。末梢神経エコーは一昔前にブームがあったのですが、いつしか下火になっています。しかし、ここ 10年くらいで probeが改良され、腕神経叢や神経根まではっきりと見ることができるそうです。交通外傷での引き抜き損傷なども非常に評価がしやすいとのことでした。私は過去に、往診で診療していた関節リウマチ末期の患者さんが正中神経領域の感覚障害/筋力低下・筋萎縮を呈した症例を経験しました。診察所見上も神経伝導検査からも典型的な手根管症候群だと思ったのですが、レントゲンを撮ってみると、手関節の亜脱臼による正中神経圧迫でビックリしました。末梢神経エコーだと、こういう症例も一発で見抜けるのでしょうね。川平和美先生の「促通反復療法の併用療法による麻痺改善促進」も面白い講演でした。いわゆる川平法に電気刺激や経頭蓋磁気刺激を併用し、素晴らしい成績を残しておられました。
この日の夜の打ち上げでは、この会恒例となった Everlyの演奏が聴けました。最近では、川平慈英氏や V6? というメンバーの誰か (芸能情報疎くてすみません) でやっているミュージカルなどとジョイントして活躍しているそうです。
その後少人数で飲んだ時、隣の席が福島県立医大の宇川義一教授でした。気さくに話してくださって、オフレコトークを散々楽しみました。震災の話題も結構しました。寝たきりの患者さんを大勢転送しなければならないときに、途中で誰が誰だかわからなくなってしまう可能性があるそうです。そういうときに、トライアスロンで使用するペンで患者さんに名前やカルテ番号を書いておけば、皮膚が欠損しない限りは取り違えがないという話を聞いて、なるほどと思いました。
最後に、ホテルで某先生と飲みました。彼はローマの 1000床くらいの病院に留学中で、イタリアの医療について色々と教えてくれました。
・イタリア人はとにかくずさん。Infection control doctor以外、病院で感染防護の手洗いを励行している職員を見たことがない。医療の内容も結構アバウト。
・何をしているかわからない職員がかなりいる。食堂に入るためのネームカードを発行してもらいに事務所に行くと、10:00~12:00しか開いていない。10時に行ってみたけれど開いていない。11時 30分くらいに行ってみると開いていたけれど、そのままコーヒーを飲みに出かけるところだったそう。
・患者さんがカルテコピーを持って自分の健康情報を管理している。
・医療費は高くないが、金を惜しむ人が多い。検査をしているときに、「検査する神経を一本減らしてくれ」と言ってきたり、「レポートを作ってもらう金がないから、口頭で所見を教えてくれ」なんて言ってくることもあるそう。
・研究目的の検査はタダなので、基本的にみんな喜んで受ける。研究で検査がしたくなったら、医者が患者宅に電話すると、断られることはほとんどないらしい。
6月22日 (土) は前日と会場が変わっていたのを把握していなくて、前日の会場に行って、少し遅刻してしまいました。最初は宇川義一先生の「QPS (quadripulse stimulation)」でした。QPSは、 4台の刺激装置を用いて、4連発の単相性磁気刺激を一単位とし、これを 5秒間隔で 30分行うものです。5 ms間隔での 4連発 QPS5, 50 ms間隔での4連発 QPS50では、運動野に与える効果がかなり違い、彼らはこれを用いて脳の可塑性を調べる研究を精力的に行なっていました。また、とある神経疾患で、治療薬投与後では QPS後の LTP/LTDが改善したデータを提示され、興味深く拝見しました。QPS50に因んで、48 ms間隔で 4連発刺激をする QPS48という名前のユニット (AKB48風) を組んで売り出したら、磁気刺激の知名度も上がるのではないかというアホなことを思いついたのですが、口に出すと関係者から殴られそうなので、ここだけのネタにしておきます (^^;
大島秀規先生は「神経機能障害に対する神経刺激療法:その現状とリハビリテーションへの応用の試み」という講演をされました。Spinal cord stimulation (SCS) による難治性疼痛の治療などの話が興味深かったです。講演が終わって、パーキンソン病のジストニアについて質問すると、「neuromodulationで腰曲がりは良くなるけれど、首下がりと Pisa症候群は良くならない」という返事でした。
Goldstein先生は、「Update on Reperfusion Therapy for Acute Ischemic Stroke」と題して、rt-PA及び血管内治療について講演されました。SYNTHESIS Expantion Trial, IMS-III,MR-RESCUEの結果から見ると、急性期の血管内治療はなかなか思わしい成績ではないようです。
知り合いの医師達が最もインパクトを受けていたのは岸拓弥先生の「脳をターゲットにした循環器治療」という講演でした。彼らは本来の圧受容器反射と同様に機能するバイオニック圧受容器システムを組み込むことで圧受容器不全ラットの圧受容器機能を代替し、ラットの起立性低血圧を改善しました (何と、ラットに tilt試験!)。また、ラットの頸動脈洞を隔離し、頸動脈洞圧に定常圧を入力することで圧受容器反射異常モデルを作り上げ、圧受容器反射が左心房の容量不耐性に大きく関与していることを突き止めました。圧受容器が具体的にどのように生体に影響を与えているかはよく知らなかったのですが、この発表を聞いて唸らされました。
この日の打ち上げが終わった後、東京医科歯科大学血管内治療学分野の根本繁教授、日本大学の大島秀規先生達と飲みに行きました。脳卒中の話などを中心に、グデングデンに酔っ払うまで語り合って楽しかったです。また来年のこの会が楽しみです☆
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(参考)
・上肢の機能回復セミナー1 (2009年)
・上肢の機能回復セミナー2 (2009年)
・上肢の機能回復セミナー3 (2009年)
・第3回上肢の機能回復セミナー1 (2010年)
・第3回上肢の機能回復セミナー2 (2010年)
・第4回上肢の機能回復セミナー (2011年)
・第5回上肢の機能回復セミナー (2012年)
症例報告
昔のボスから「症例報告は医者の義務」と言われ、報告すべき症例は出来るだけ論文にするようにしています。EBM最盛期の時代、メタ解析や RCTが重宝がられますが、これらは万能ではありません。例えば、稀な疾患だったりすると大規模研究が出来なかったりします。こうしたとき、症例報告には大変お世話になります。日本神経学会が発行する邦文誌が症例報告主体なのは、特に神経疾患において稀な疾患が多いことが関係しているのかもしれません。
この度、「ケースレポート(症例報告)を書くためのコツを教えるウェブセミナー」がオンラインで見られるようになりました。英語なのでうまく聴き取れず、大部分私は寝落ちしてしまいましたが (汗)、英語のヒヤリングが苦にならない方には勉強になるのではないかと思いますので、紹介しておきます。
ケースレポート(症例報告)を書くためのコツを教えるウェブセミナー 【無料動画配信中】
まだ1万人
「感染症診療の原則 -歴史に残る暴言 もしくは 救いの言葉か-」で知ったのですが、厚生労働大臣から「風疹はまだ 1万人」との言葉が発せられたそうです。
ことしの風疹患者数、1万102人に 厚労相は財政支援に否定的
国立感染症研究所は18日午前、2013年に入ってからの風疹の患者数が、あわせて1万102人に達したと発表した。
ワクチン接種に、国の財政支援を求める声が上がる中、田村厚生労働相が18日朝、財政支援に否定的な考えを示した。
国立感染症研究所によると、風疹患者数は、2013年に入り、あわせて1万102人に達した。
患者数のおよそ8割は男性で、その多くを20~40代が占める状況は変わらない。
こうした中、17日夕方、妊娠中に風疹にかかり、子どもに障害が出た母親らが厚生労働省に要望書を提出した。
「先天性風疹症候群」の子どもを持つ西村 麻依子さんは「風疹の流行を食い止め赤ちゃんを守るために、国の積極的な対応を求めます」と話した。
要望では、風疹を予防接種法に基づき、国などが費用を負担する「臨時接種」の対象とすることや、必要なワクチンの量の確保などを求めている。
理化学研究所の加藤茂孝氏は「1万人も患者を出したということを世界から危惧されていて、(拡大防止には)集団接種、つまり臨時接種以外にはあり得ない」と話した。
要望に対し、18日朝、田村厚生労働相は「(臨時接種とは)緊急時のパンデミック(世界的大流行)のおそれがあるものに対してという話で、なかなか風疹がそのような状況ではない。なかなか財政的措置をして、ほかの予防接種疾病と(比べ)、特別な対応ということころまでは来ていない。風疹は、まだ1万人ということでございますので」と述べた。
また、このままいけば、ワクチンが不足する可能性があるが、その場合、厚生労働省は、妊娠を予定している女性や、その同居人などを優先的な予防接種の対象にする方針。
先天性風疹症候群とは
免疫のない女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染して、出生児に先天性風疹症候群 (CRS)と総称される障がいを引き起こすことがある。(略)
母親が顕性感染した妊娠月別のCRS の発生頻度は、妊娠1 カ月で50%以上、2カ月で35%、3カ月で18%、4カ月で8%程度である。成人でも15%程度不顕性感染があるので、母親が無症状であってもCRS は発生し得る。(略)臨床症状
CRS の3 大症状は先天性心疾患、難聴、白内障(図3)である。このうち、先天性心疾患と白内障は妊娠初期3 カ月以内の母親の感染で発生するが、難聴は初期3 カ月のみならず、次の3 カ月の感染でも出現する。しかも、高度難聴であることが多い。3 大症状以外には、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐にわたる。
蜂窩織炎
6月13日 (木) の深夜に実験を終えて帰宅すると右大腿に軽い違和感。その日はそのまま寝たのですが、翌日 かなり炎症が強くなっていました。我慢して、「触ると温かくて気持ちいい~」とか言いながら、放置していたのですが、悪化する一方 (←医者の不養生という)。
6月15日 (土) には歩いたり力を入れると痛むようになりました。Facebookに写真をアップしたころ、多くの優秀な医師たちが知恵を出しあって白熱した議論が行われました。
A医師「Debridmentは必要無さそうですが、抗菌薬の全身投与はやりたくなりますね…」
B医師「Empiricにはブドウ球菌(黄色ないし表皮)か溶連菌を狙うことになるので,第1世代セフェムの内服を選択して下さい.ベストはLケフレックス顆粒1g(力価500mg)×1日2回×5-7日間かと。ケフラールはbioavailabilityが下がりますが,ケフレックスがなければやむを得ないですね.」「あ,大事なことを言い忘れました.横切開5cm×縦切開8cmぐらいが必要です.局麻はたぶん効かないので直接メスでザックリやっちゃうのが早いですね.深さは10mm以上は入れて下さい.」
A医師「了解しました。局麻なしでクーパーでしたね。」
B医師「はい,クーパーでザクザクでもいいと思います.あるいはメッツェンバウムで鋭く乱切するのもいいですね.」「あとクーパーで好きなところ切り落としてもいいよ.世の女性の平和のためにも.」
C医師「とりあえず持続icingしたほうがいいよ。大腿根部に向かって赤くなってるけど、蜂窩織炎+静脈炎じゃないの??内服より点滴抗生剤がいいと思う。あと、外来にアクリノールあったらガーゼ浸して貼っておいたほうがいいよ」「アクリノールのガーゼ(湿る程度でもok)当てた上に、油紙を引いてテープでとめて、さらにその上からガーゼあてるんだよ。そして包帯でグルグルと。その上からicingすれば完璧。」
D医師「セファメジンあたり点滴したほうが早く効きそうな気がしますが」「Virchowの5徴もありそうですから、NSAIDsも是非」
E医師「あー先生、コレはデブリですわ。」
F医師「傷口に塩というくらいですから、塩を練り込みましょう!」
B医師「アンプタ。(※切断の意味)」
心温あたたまる多くのコメントに胸熱でした・・・って微妙なコメント多すぎだしw 冗談が出るだけ軽症ということでしょうが。
ということで、6月15日に秋田で当直先の病院を受診し、別の医師からケフラールを処方してもらいました。写真はこちら。
救急外来のナースから「疲れが溜まってるんだよ、ゆっくり休んでくださいね」と優しい言葉も頂きましたが、6月17日大学病院当直、6月19日医局の飲み会、6月20日の深夜までの実験に加えて、今週中に仕上げなければいけない研究発表スライド作成 (まだ半分くらいの完成度) があり、大学外来週 5コマ (デフォ) を抱える身では休めない日々は続くところで、安静は望むべくはありません (ブログ更新が滞っている時は、忙しいのではないかと察してやってください、下手したら死んでる可能性もあるかもしれないけどw)。
とりあえず飲み薬を続けて、改善がなければ勤務先の大学病院の皮膚科を受診してみます。初診料が高いので大学病院は極力避けたいのだけど、仕事があるから他の病院に行く暇がないんですよね。ということで、後期研修医を脅して「彼氏がいなくて、性格が良くて、美人の皮膚科の先生」を聞いておかないと (違
風疹予防接種啓発動画
少し前から、風疹の流行がニュースになっています。特に妊婦が感染すると、胎児が多奇形を伴う先天性風疹症候群に罹患するリスクがあります。
プライマリ・ケア連合学会が、風疹予防接種啓発動画を作成しました。演者は、秋田での当直などプライマリ・ケアを中心とした場面で私が普段から色々相談させて頂いてる守屋章成先生です。現在ホットな話題ですので是非御覧ください。微妙な関西訛りが良い味出しています (^^;
日本プライマリ・ケア連合学会
ワクチンに関するワーキンググループ
風疹予防接種啓発動画 前半 後半
※この動画は医療従事者向けです。
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2013.6.21追記
この動画の発表と同じタイミングで、ワクチン不足が明らかになったそうです。
風疹ワクチン、夏に不足の可能性…流行が影響
妊婦がかかると胎児に障害が出る恐れのある風疹が流行している中、厚生労働省は14日、風疹のワクチンが夏に不足する可能性があるとして、妊婦の周りの人や妊娠希望者らが優先して接種を受けられるよう、全国の自治体に通知した。
大人が受ける風疹の任意接種の接種者数は、例年は年にのべ約30万人だが、流行を受けて今年5月は1か月でのべ約32万人に上った。同省は、現在の在庫数やメーカーの出荷計画などから今後の在庫数を推計した。
その結果、6~9月に月にのべ35万人が接種した場合、1人の接種回数を一定程度の免疫を獲得できるとされる1回とすると、8月末に3万1700人分、9月末に1万8200人分が不足するとみられた。
(2013年6月15日 読売新聞)
ということで、プラクティスを変える必要があります。岩田健太郎先生が書かれているブログが参考になります。当面はこのような方法をとるしかないのではないかと思います。
(今なら)MRワクチンは1回だけでよい
風疹ワクチン不足については、こちらの記事も御参照ください。
平成のワクチン行政、最大のピンチの夜(という電報、いやメールが)
まさか
2011年4月23日のブログで、「弦が切れたとき」という話を書きましたが、第 5回仙台音楽国際コンクールの入賞者記念ガラ・コンサートで、成田達輝氏の弦が切れるハプニングがありました。Youtubeで動画が見られます。
・NARITA Tatsuki, Violin Section Prizewinners’ Gala Concert of the 5th SIMC
動画の 10分くらいのところで弦が切れます。彼は爽やかに「3分ください」と言い残し、弦を張り替えるため楽屋に消えました。
SIMC 仙台国際音楽コンクールボランティアブログにこの時の話が載っています。
入賞者記念ガラコンサート
成田さんの演奏中、弦が切れるアクシデントが・・・・・・・・。
3分後、ステージに戻ってきた彼は少しも慌てず、恩師の言葉でフォローしました。
「人生、上り坂と下り坂。そして、もうひとつ “まさか” があります。」
うーん、大物!これからが楽しみな逸材です。
成田さんはその言葉を指揮者のヴェロさんにも説明していました。
ヴェロさんは理解したのでしょうか・・・・・・・・余計なお世話ですが・・・・・・・・・。
「人生、上り坂と下り坂。そして、もうひとつ “まさか” があります」というセリフは、残念ながら Youtube動画ではカットされていました。7月に、成田達輝氏と会う予定があるので、この話は聞いてみたいと思います。
Find the perfect journal for your article
科学雑誌を出版する Elsevier社が無料の新サービスを始めました。論文のタイトルと要約を入力すると、投稿に適した雑誌を教えてくれるそうです。
Find the perfect journal for your article
結果は一覧表で出力され、Impact factorとかも載っていて使いやすいです。周囲の医師たちの評判も上々です。
最近アクセプトされた自分の論文で試してみたところ、名前も聞いたことのない雑誌と共に Molecular Cellとか超 1流誌も出ていて、「いくらなんでもそれは無理だろ~」と思いました。参考程度に使うのが良さそうです。
こうしたサービスは確かに素晴らしいものですが、Elsevierが過去にやろうとしていたことを考えると、この会社に対するネガティブなイメージはなかなか払拭できません。
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(参考)
仙台国際コンクール
第 5回仙台国際コンクールのヴァイオリン部門が終わりました。
第5回仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門の入賞者が決まりました。
第1位 16 リチャード・リン Richard LIN 男 アメリカ/台湾
第2位 21 成田 達輝 NARITA Tatsuki 男 日本
第3位 33 富井 ちえり TOMII Chieri 女 日本
第4位 26 アンナ・サフキナ Anna SAVKINA 女 ロシア
第5位 10 キム・ボムソリ KIM Bomsori 女 韓国
第6位 32 スリマン・テカッリ Suliman TEKALLI 男 アメリカ聴衆賞
1日目 16 リチャード・リン Richard LIN 男 アメリカ/台湾
2日目 26 アンナ・サフキナ Anna SAVKINA 女 ロシア
3日目 10 キム・ボムソリ KIM Bomsori 女 韓国審査員特別賞
15 リ・ゼユ・ヴィクター LI Zeyu Victor 男 中国
応援していた成田達輝氏が優勝を逃して残念です。でも、彼くらいの実力なら、コンクールのお墨付きは必要ないでしょう。お疲れ様でしたと伝えたいです。
嬉しいことに、このコンクール、Youtubeで演奏を聴くことが出来ます。
コンクール動画 YouTube 配信
成田達輝氏、特に予選でのヴァイオリン協奏曲(モーツァルト)、ロマンス(ベートーヴェン)は素晴らしい出来栄えでした。このコンクールに出場した、ほとんどの演奏家を聴きましたが、個人的には成田氏の演奏が一番好きです。
ページの作りを見ると、ガラ・コンサートも動画がアップされそうな雰囲気ですね。今から楽しみにしています。
ALS trio
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) で話題になっていた論文を医局の抄読会で読みました。
Exome sequencing to identify de novo mutations in sporadic ALS trios
Nature Neuroscience (2013) doi:10.1038/nn.3412
Received 05 March 2013 Accepted 01 May 2013 Published online 26 May 2013Chesi A, Staahl BT, Jovičić A, Couthouis J, Fasolino M, Raphael AR, Yamazaki T, Elias L, Polak M, Kelly C, Williams KL, Fifita JA, Maragakis NJ, Nicholson GA,King OD, Reed R, Crabtree GR, Blair IP, Glass JD, Gitler AD.Source
Department of Genetics, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA.
Abstract
Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) is a devastating neurodegenerative disease whose causes are still poorly understood. To identify additional genetic risk factors, we assessed the role of de novo mutations in ALS by sequencing the exomes of 47 ALS patients and both of their unaffected parents (n = 141 exomes). We found that amino acid-altering de novo mutations were enriched in genes encoding chromatin regulators, including the neuronal chromatin remodeling complex (nBAF) component SS18L1 (also known as CREST). CREST mutations inhibited activity-dependent neurite outgrowth in primary neurons, and CREST associated with the ALS protein FUS. These findings expand our understanding of the ALS genetic landscape and provide a resource for future studies into the pathogenic mechanisms contributing to sporadic ALS.
まず抄読会での配布資料 (PDF file) を下にアップします。
抄読会 ALS
内容を簡単に要約すると、「孤発性 ALSで de novo mutationを起こした遺伝子を調べるため、47 人の患者とその健常な両親の遺伝子解析をした結果、SS18L1 (CREST) を同定した。CRESTは、FUSとも関係がありそうだ」ということになります。Figure 2dの免沈の結果の解釈など、少し理解が難しいところはありますが、大筋としては納得できる内容でした。
今回の解析では、SRCAPにも de novo mutationがみられました。SRCAPも CREST同様 CBP-interaction transcriptional co-activatorであり、考察では ALSにおけるヒストンアセチル化蛋白 CBPを介した転写制御の重要性が指摘されています。実際、FUSも CBPを介して転写制御を行なっているそうです。
ちなみに FUSは BAF複合体 (CRESTはこの複合体を形成するサブユニットの一つ) の表面と結合していることが推測されていますが、BAF複合体 15のサブユニットのうち、8つの変異で Coffin-Sirisという先天性奇形 (発達障害、精神発達遅滞、小脳症、coarse facial features、てんかん、形態異常) が起こるそうです。
著者らは、今回のようなアプローチ法 (「健常な両親と病気の子供の組み合わせ=trio」 を解析することで、de novoの変異を探す方法) がパーキンソン病やアルツハイマー病でも応用出来るのでないかとしています。
最後に、本研究で私が特に興味深かった点を列挙しておきます。
①ALSの原因として今回見つかった遺伝子 CRESTが転写制御に関与していること
ALS原因遺伝子の多くが RNA代謝に関与していることが知られています。そのため、ALS研究のなかで現在最もアツく研究されている領域の一つが RNA代謝で、「RNA代謝」という概念には転写制御が含まれます。今回転写制御に関する遺伝子 CRESTが同定され、さらに別の ALS原因遺伝子 (※RNA代謝に関係することが知られている) である FUSと関係しているというのは、重要な意義があると思います。
②CRESTが prion-like domainを有すること
ALSの原因遺伝子のいくつかが prion-like domainを持ち、プリオンのように凝集しやすいことが指摘されています。どうやら CRESTも prion-like domainを持つようです。逆に考えると、prion-like domainを持つ遺伝子を網羅的に解析すれば、ALSを含む変性疾患の原因遺伝子がたくさん同定できるのかもしれない・・・という妄想が湧いてきます。
③trioを解析するという手法
著者らが指摘しているように、原因不明の様々な疾患で、この手法が応用できる可能性があります。
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(参考)