Sad music induces pleasant emotion
2013年6月13日の frontiers in psychology誌に、”Sad music induces pleasant emotion” という論文が掲載されました。無料公開されています。
Sad music induces pleasant emotion
著者は東京芸術大学、理化学研究所のグループです。責任著者は、鳥の歌研究で有名な岡ノ谷一夫先生です。
論文を読んで最初に驚いたのが、査読者の名前が公開されていることです。こうされると、査読される側もいい加減な査読は出来ませんね (^^;
内容は、理化学研究所のプレスリリースがあるので、そちらをご覧いただくのがよいと思います。
悲しい音楽はロマンチックな感情ももたらす
-なぜ私たちは悲しい音楽を聴くのかが明らかに-
プレスリリースで大体の内容はわかるのですが、折角論文を読んだので、プレスリリースの補足をしながら、簡単に内容を紹介します。
悲しみは一般に negativeな感情と考えられるのに、われわれは何故悲しい音楽を聴くのか?
最初に著者らが立てた仮説は以下の 2つでした。
①体験した感情 “felt emotion” は必ずしも判断された感情 “perceived emotion” と一致しないのではないか ?
②音楽的経験のある方が、悲しい音楽を聞いた時により悦びを感じるのではないか?
そんな問に答えるため、18歳~46歳の44人(男性19人、女性25人)の実験参加者に聞いてもらい、鑑賞後にどのような感情が生じたか、62の感情 (Table 1) とその強度を答えてもらいました (神経心理学の研究でよく用いられる手法です)。
その結果、悲しい音楽は悲しみを与えるものの、被験者は実際にはそこまで悲しい感情になっておらず、曲から受けとるよりもロマンチックな感情 (romantic) や、陽気な感情 (blithe emotion) が生じていることが明らかになりました (Figure 1)。
このことには、音楽経験は関係ないという結果でした。音楽経験が関係ないという結果は、Kawakamiらによる先行研究とは矛盾しますが、著者らは Kawakamiらが使用した評価尺度に問題があったのではないかと考えているようです。
著者らは、悲しい音楽で快の感情が生じるという「両価的感情 (ambivalent emotion)」が何故生じるのか、3つの可能性を考えました。
1) 聴き手が予期したことが当たると心地よいと感じる予測効果 (prediction effect) です。例えそれが悲しい音楽であったとしても生じます。
2) 芸術を愉しむという審美的なコンテクストでは、悲しい音楽でも快の感情が引き起こされるのかもしれません。
3) 日常では、判断された感情は周囲の状況にマッチしています。しかし、音楽が危険を表現していても、聴き手は安全です。そのため、われわれは代理的に感情を経験をすることができます (代理感情)。