Benztropine

By , 2013年11月9日 10:58 PM

2013年10月17日の Nature誌に、多発性硬化症の論文が掲載されていました。海外でパーキンソン病の治療薬として使用されている benztropineについてです。

A regenerative approach to the treatment of multiple sclerosis

Vishal A. Deshmukh, Virginie Tardif, Costas A. Lyssiotis, Chelsea C. Green, Bilal Kerman, Hyung Joon Kim, Krishnan Padmanabhan, Jonathan G. Swoboda, Insha Ahmad, Toru Kondo, Fred H. Gage, Argyrios N. Theofilopoulos, Brian R. Lawson, Peter G. Schultz & Luke L. Lairson

Abstract
Progressive phases of multiple sclerosis are associated with inhibited differentiation of the progenitor cell population that generates the mature oligodendrocytes required for remyelination and disease remission. To identify selective inducers of oligodendrocyte differentiation, we performed an image-based screen for myelin basic protein (MBP) expression using primary rat optic-nerve-derived progenitor cells. Here we show that among the most effective compounds identifed was benztropine, which significantly decreases clinical severity in the experimental autoimmune encephalomyelitis (EAE) model of relapsing-remitting multiple sclerosis when administered alone or in combination with approved immunosuppressive treatments for multiple sclerosis. Evidence from a cuprizone-induced model of demyelination, in vitro and in vivo T-cell assays and EAE adoptive transfer experiments indicated that the observed efficacy of this drug results directly from an enhancement of remyelination rather than immune suppression. Pharmacological studies indicate that benztropine functions by a mechanism that involves direct antagonism of M1 and/or M3 muscarinic receptors. These studies should facilitate the development of effective new therapies for the treatment of multiple sclerosis that complement established immunosuppressive approaches.

要旨:多発性硬化症の進行期では、再ミエリン化や疾患の寛解に必要な成熟 Oligodendrocyte (乏突起膠細胞) を産生する前駆細胞の分化が阻害されている。Oligodendrocyteの分化を選択的に誘導する物質を同定するために、ラットの視神経由来前駆細胞を用いてミエリン塩基性蛋白 (MBP) の image-based screenを行った。その結果、再発寛解型多発性硬化症の実験的自己免疫性脳脊髄炎 (experiment autoimmune encephalomyelitis; EAE) モデルにおいて、単独あるいは免疫抑制療法と併用で臨床的重症度を軽減させる benztropineを同定した。Cuprizone誘導脱髄モデル, in vitroおよび in vivo T-cell assay, EAE養子免疫伝達実験の知見は、この薬剤の有効性が免疫抑制よりも再ミエリン化を直接増強した結果であることを示していた。薬物学的な研究では、benztropineは M1 および/もしくは M3 ムスカリン受容体を直接阻害することによって働くことがわかった。これらの研究は、多発性硬化症の治療において、確立した免疫抑制療法を補完する新療法の開発を促進するだろう。

☆High-throughput OPC (oligodendrycyte precursor cell) differentiation screen

OPCの分化を選択的に誘導する小分子のスクリーニングを行った。初代ラット視神経由来OPCを 6日間培養し、MBPの発現をhigh content imaging assayで評価した。

・PDGF (platelet derived growth factor) -AAを減らしていくと OPCsは分化しなくなるが、T3 (triiodothyronine) を添加すると分化する。
→しかし T3では治療に望ましくない。
・10000種類の分子をスクリーニングした結果、最も治療に使えそうで、かつ分化を誘導したのがbenztropineだった。この分子は経口で使用可能であり、血液脳関門も通過できる。
・OPCsの培養期間を変えて調べると、benztropineは未成熟A2B5発現OPCには作用するが pre-oligodendrocyte stageには作用しない。
・benztropineは OPCsの分化と myelin化促進両方の作用がある。

☆M1/3 muscarinic receptor antagonism

Benztropineの作用
①抗コリン作用
②ドパミン再取込阻害作用
③抗ヒスタミン作用

・ドパミン受容体拮抗薬 haloperidol, ドパミン受容体作動薬 quinpirole,ヒスタミン受容体作動薬 histamine trifloromethyl-toluidine (HTMT) は benztropine依存的 OPCsの分化に影響を与えなかった。
→benztropineによる OPCsの分化には、ドパミン再取込阻害作用や抗ヒスタミン作用は関係していない
・コリン作動薬にはムスカリン作用とニコチン作用がある。選択的ムスカリン型アセチルコリン受容体作動薬 carbachol, 選択的ニコチン型アセチルコリン受容体作動薬 nicotineでは、carbachol存在下でのみ benztropine OPCsの分化が阻害された。
→ムスカリン型アセチルコリン受容体が関係している。
・ドパミン受容体作動薬 quinpirole、ニコチン型アセチルコリン受容体拮抗薬 tubocuraine, mivacurium, mecamylamine, pancuronium, atracurium, trimethophan)ではOPCsは分化しなかった。
→ドパミン受容体やニコチン型アセチルコリン受容体は OPCsの分化に関係ない
・ムスカリン型アセチルコリン受容体拮抗薬 atropine, oxybutynin, scopolamine, ipratropium, propiverineは全て用量依存的にOPCsの分化を誘導した。
→OPCsの分化はムスカリン受容体の阻害に依存しているようだ。

・ムスカリン受容体のシグナル経路をいくつか調べると、OPCsは M1/M3ムスカリン受容体の直接阻害によって分化が促進するようだ。

☆Efficacy in the PLP-induced EAE model

PLP (proteolipid protein) で誘導される、再発寛解型多発性硬化症の実験的自己免疫性脳脊髄炎 (experiment autoimmune encephalomyelitis; EAE) モデルを用いた実験を行った。

・Benztropineは急性期の重症度を著明に改善する。
・Benztropineにより成熟 oligodendrocyteが有意に増加した。毒性も見られなかった。
・Benztropineを用いても、急性期に脱髄 (“g-ratio=神経直径/神経外径, 高いと髄鞘が菲薄化” で評価) はみられるが、再髄鞘化が有意に優れる。

☆Effecacy of benztropine in the cuprizone model

C57BL/6 miceに cuprizonew投与して脱髄を起こさせた in vivoの実験では、第 2週の時点で benztropine群で再髄鞘化が優れていた。Benztropineは直接 OPCを分化させて、in vivoにおける再髄鞘化を促進しているようだ。

☆Benztropine is dose-sparing with FTY720

EAEモデルにおいて、インターフェロンβや FTY720単剤に比べ、それぞれ benztropineを加えた方が臨床的重症度は軽かった。FTY720に Benztropineを併用したときに、FTY720単剤に比べて免疫細胞の浸潤は減らず、benztropineに FTY720を加えたときに benztropine単独に加えて oligodendrocyteは増えない。このことから、両薬剤の併用による効果は、免疫メカニズムと、再髄鞘化メカニズムの相加作用に由来すると考えられる。

  多発性硬化症の治療選択肢は年々増えていますが、ほとんどが免疫抑制作用を中心とするものです。そして、いくつかの薬剤では進行性多巣性白質脳症など、免疫抑制作用に起因する副作用が問題となっています。

このように、別のメカニズムの薬剤を組み合わせることで、免疫抑制作用を持つ薬剤の投与量を減らしたり、相加作用により治療効果を高めたりできると面白いですね。

ただ、著者らが考察で指摘しているように、抗ムスカリン作用を持つ薬剤には用量依存的な神経・精神的副作用が生じるので、臨床応用までにはいくつかの課題をクリアしなければならなさそうです。でも、多発性硬化症の患者はパーキンソン病よりも若年であることが殆どなので、パーキンソン病で使用する場合よりは副作用が問題になりにくい気もします。

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楽天優勝

By , 2013年11月5日 6:24 AM

2013年11月3日に楽天が日本シリーズ優勝を決めました。

祖父が熱烈な巨人ファンだった影響で、セ・リーグではなんとなく巨人ファンです。パ・リーグではどこというのはありませんが、震災後、心情的には楽天を応援しています。

今回は、応援する両者の対決ということで、第7戦まで好ゲームが見られればよいなと思っていました。

第 6戦で田中将大投手の連勝記録が途切れたのは残念でしたが、どうせ記録が途切れるのならこういう舞台の方が納得できます。

田中投手は前日 160球を最後まで投げ抜いたにも関わらず、翌日は最終回に登場して胴上げ投手となり、まるでスポーツ漫画を見ているようでした。

第 7戦まで素晴らしい試合を見せてくれた両チームに感謝です。

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ISABELLE FAUST

By , 2013年11月2日 11:19 PM

2013年10月29日、フィリアホールでイザベル・ファウストの演奏を聴いてきました。”JUST ONE WORLD SERIES (ただ一つの世界)” と銘打たれた企画の一つで、全て無伴奏ヴァイオリン曲です。私がファウストの演奏を聴くのは、2000年10月7日にサントリーホールでバッハの無伴奏パルティータ第2&3番、バルトークの無伴奏ヴァイオリンソナタを聴いて以来です。フィリアホールは狭いホールで、まさに無伴奏曲を聴くにはうってつけでした。

(余談ですが、コンサート開始前に飲んだ、ハチミツを発酵させたハニーワインも美味しかったです。Wikipediaで見ると、ハネムーンは、ハニーワインが語源なんですね)

ISABELLE FAUST VIOLIN

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番

ヤニス・クセナキス ミッカ (1972)

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番

シャチント・シェルシ 開かれた魂 (1973)

J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番

2013.10.29 (火) 19:00

(インタビュー)

一曲目のパルティータ第3番は、それが舞曲であることが強く伝わってきました。音の一つ一つに意図がはっきりしていたし、繰り返しの部分では弾き方をガラリと変えるなど、配慮が行き届いていました。素晴らしい演奏で、一気に引きこまれました。ボウイングや、装飾の付け方を見ると、古楽器での演奏をかなり意識していることがわかりました。

三曲目のソナタ第3番は、一転して重厚な演奏。舞曲であるパルティータとの対比が際立っていました。第2楽章フーガの主題を呈示する最も大事な部分で、近くの聴衆が音を立てて現実に引き戻された時以外は、世俗的なことから完全に離れて楽しむことができました。第3楽章は Largoで、私が失恋直後に好んで弾いていた曲です (^^; 私は感情を込めてベッタリと演奏していたのですが、ヴァイオリンの師から「重い」と言われました。前の楽章フーガは、バッハの3つの無伴奏ヴァイオリンソナタのなかでも最も長大なものです。そのため、Largoはフーガの余韻の中で演奏されることが意識されなければいけません。壮大な曲の後に胃もたれを起こすような演奏ではいけないのです。ファウストの演奏は、フーガの余韻を楽しませてくれるものでした。

・Isabelle Faust Plays Bach’s Sonata No. 3 in C Major, BWV 1005, Largo

コンサート後半ではパルティータ第2番が演奏されました。第1楽章はかなりゆっくりとしたテンポ。私自身が演奏するよりもかなりテンポが遅かったことについて、コンサート中にはファウストの意図がわからなかったのですが、後日、増田良介氏が書いたファウストの CDのライナーノーツを見て、その理由がわかりました。

この曲が、緩-急-緩-急-緩という対称的な構成を持つ楽曲であったことを、ファウストの演奏は思い出させてくれる。

パルティータ第2番の最終楽章のシャコンヌはあまりにも有名です。素晴らしい出来栄えで、ファウスト自身も満足だったのか、演奏後に会心の表情を浮かべていました。

ここまでバッハの感想ばかりを書きましたが、「ミッカ」「開かれた魂」も完璧な演奏でした。どちらもグリッサンドが多用された曲で、音の周波数変化と独特の音色が印象的でした。10月にブリュッセルで作曲家の酒井健治氏と飲んだ時に、「最近の現代音楽ではグリッサンドという技法がかなり高く評価されている」と聞いたのを思い出しました。

アンコールはバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタの第1番の第1楽章と第3楽章。どちらも素晴らしかったのですが、第1楽章の最初の方では音を外したのかと思ってドキッとしました。ミの音にフラットを付け忘れたように聞こえたのです。帰宅してファウストの CDで確認すると、やはりミの音にフラットをつけていません (下図赤丸部分)。何かファウストなりの意図があるのでしょう。よくわかりませんが、ひょっとすると、バッハ以前の時代にしばしば用いられた旋法の影響を解釈に加えた結果なのかもしれません (この曲は綺麗な自筆譜が残っているので、楽譜の版が違うとは考えにくい)。

Sonata No.1 1st movement

Sonata No.1 1st movement

(※楽譜は IMSLPより加工。http://imslp.org/wiki/6_Violin_Sonatas_and_Partitas,_BWV_1001-1006_(Bach,_Johann_Sebastian))

最後に、コンサートホールで購入したファウストの CDを紹介しておきます。全て聴きましたが、どれも御薦めです。

J.S. バッハ:無伴奏ソナタ&パルティータ集 [輸入盤・日本語解説書付] (J.S.Bach: Sonatas & Partitas BWV 1004-1006 / Isabelle Faust (Vn))

J.S.バッハ: 無伴奏ソナタ&パルティータ集 VOL.2 (J.S.Bach : Sonatas & Partitas BWV 1001-1003 / Isabelle Faust)

ベルク&ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 (Berg & Beethoven : Violin Concertos / Orchestra Mozart, Isabelle Faust, Claudio Abbado)

ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ集(全曲) (Beethoven: Complete Sonatas for Piano & Violin) (4CD) 

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