脳卒中と偽痛風

By , 2014年8月10日 10:25 AM

少し前の経験から。

症例は心原性脳塞栓症の 80歳代男性です。突然発症の右上肢の運動・感覚障害で来院しました。MRIがとれない理由があり、頭部CTは来院時正常、翌日左中大脳動脈領域に脳梗塞巣が確認されました。

入院 2日後から夕方の発熱が続くようになり、入院 5日後から頸部痛を訴えました。入院 1週間後の採血では白血球 8000 /μl, CRP 19 mg/dl, 赤沈 (60分) 123 mmでした。症状から crowned dens syndromeを疑い、頸椎CTを施行したところ、軸椎歯突起周囲にはっきりと石灰化が見られ、すぐに診断となりました。NSAIDsを開始し、速やかに症状は改善しました。

Crowned dens syndromeは、軸椎歯突起周囲にピロリン酸カルシウムが沈着する偽痛風の一種です。そういえば、脳卒中患者は偽痛風が多い気がするなと思って、少し調べてみたら、2008年の臨床神経学に報告が出ていました。

脳卒中急性期に合併する偽痛風の検討

これを見ると、脳卒中 181例中 10例で偽痛風を発症し、2例が crowned dens syndromeだったそうです。自分が市中病院にいた頃は、病棟で担当していた脳卒中患者は年間 70人くらいだったので、そう考えると結構な数字ですね。NSAIDsが効くので、診断がつかないまま発熱や疼痛に処方されて、気付かれずに良くなってしまう症例も結構あるのではないかと思いました。ちなみに、この症例では、研修医が診断をつけられなくて困っていて、私がひと目で診断つけたので、「ひょっとして惚れるかな」と思って鼻の下を伸ばしていたら、何事もなかったかのように流されました orz

話は逸れますが、赤沈が 100 mmを超える疾患は結構限られていて、確か Cunha BAの論文だったと思いますが、10疾患ほど挙げられています。列挙すると、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛章/側頭動脈炎、腎細胞癌、亜急性感染性心内膜炎 (SBE)、薬剤熱、リンパ腫、Carcinoma、骨髄増殖性疾患 (MPD), 膿瘍、骨髄炎です。Crowned dens syndromeでも赤沈 100 mmを超えるのにはびっくりしました。

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反射の検査

By , 2014年8月1日 7:58 PM

反射の検査 (ロバート・ワルテンベルグ著、佐野圭司訳、医学書院)」を読み終えました。古い症候学の本ですが、内容に圧倒されました。

腱反射の検査は、神経症候学の初学者たちにとって高いハードルとなっています。覚えなければならない反射がたくさんあり、かつ判定が難しく、さらに解釈に頭を悩ませることも少なくありません。ワルテンベルグは、(深部) 腱反射を「筋肉が急激な伸展に反応して収縮すること」という原則で捉え、様々な研究者がまちまちに名付けた膨大な数の反射を整理しました。引用文献数 465 (英語、ドイツ語、フランス語などを含む) が示す通り、内容は極めて網羅的ですが、読みやすくまとめられています。神経内科医は一度は読んでおきたい本です。

佐野圭司先生は同じ本で、さらにワルテンベルグの論文 2本を訳出しています。その一本が、”Babinski反射の 50年” で、ワルテンベルグが 1947年の JAMAに “The Babinski reflex after fifty years” というタイトルで書いた論文です。ワルテンベルグは Babinskiの弟子でした。もう一本が、”Brudzinski徴候と Kernig徴候” です。どちらも素晴らしい論文でした。

本書を読んで、ワルテンベルグの才能は、「本質を見抜くこと」にあると思いました。(深部) 腱反射は、「筋肉が急激な伸展に反応して収縮すること」という原則で全てを整理しました (腱を打腱器で叩くと筋肉は伸展する)。Babinski反射は「同側集団屈曲反射の一部で、よじ登る運動の過程の痕跡的な表れ」であり、Babinski変法も全てこれで説明できます。Brudzinski徴候や Kernig徴候は、「脊髄や神経根の伸展で生じる疼痛 (脊髄や神経根の自由な運動が炎症や疾病で妨げられると出現する) を逃れるため、伸展を最小にする姿勢をとる」ことが本質です。

神経症候学に関する本を読んだのは久しぶりでしたが、とても良い刺激を受けました。こういう本を読むと、診察が楽しくなります。

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