ALSの臨床試験の問題点
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の臨床試験で、なぜネガティブな結果が多いのか、どう改善すべきなのかを議論した論文が、Lancet Neurologyに掲載されました。
Clinical trials in amyotrophic lateral sclerosis: why so many negative trials and how can trials be improved?
なぜネガティブな結果が多いのかという理由の考察は、panel 1に纏められています。
・理論的根拠
例えば、ALSの治療薬開発時には SOD1変異マウスを用いて動物実験を行う。SOD1変異マウスは、仮にヒト SOD1変異の家族性 ALSではよくても、ヒト孤発性 ALSの代わりにはならないのではないか。また、動物実験は病初期から治療が始められるが、ヒトでは病気が進行してから治療が始められるという違いがある。
・薬理学
薬の投与量が少なすぎる、中枢神経に薬剤が到達していない、あるいは薬物動態や薬力学的解析がされていないのではないか。また、最近の臨床試験ではリルゾールを併用されていることが多いが、リルゾールと試験薬剤との相互作用はよくわかっていない。さらに、ヨーロッパの臨床試験ではリルゾールへの上乗せとなっているが、アメリカでは経済的な理由によりリルゾールを内服していない患者が多い。
・試験デザインと方法論的問題
高い治療効果を求めすぎるため、小さな効果を見落としている可能性がある。 疾患の多様性や進行した患者の登録、短い試験期間が問題になっている可能性がある (昔より生存期間は伸びているので、観察期間も延長する必要がある)。また、臨床的効果のみをアウトカムとしていて、バイオマーカーを測定していないので、治療ターゲットに効果があるのかどうかわからない。
これらの問題点を解決することが重要だと著者らは考えているようです。具体的にどうするべきかも論文に書いてありました。
この総説では、幹細胞治療に触れた部分があり、興味深かったので簡単に紹介しておきます。幹細胞治療はとても期待されてはいますが、いくつかクリアしなければならない壁があります。広く宣伝されてしまっているため、金銭的にも、健康面でも高くつくことがあります。例えば中国に行って嗅神経鞘を用いた幹細胞を用いた患者らが、深刻な副作用を受けたことが報告されました (①, ②)。幹細胞治療では、神経保護及び変性した運動神経の置換という 2つのメカニズムが想定されており、下記のような臨床試験が行なわれているそうです。結果を期待したいと思います。
・Mesenchymal stem cell transplantation in amyotrophic lateral sclerosis: A Phase I clinical trial.
・Amyotrophic lateral sclerosis: applications of stem cells – an update. (臨床試験ではないが、この論文中に 運動ニューロンもしくはグリア細胞由来の iPS細胞による治療の進歩が紹介されている)