OPA1変異とパーキンソニズム
Annals of Neurologyの “accepted article” の欄に、興味深い論文が掲載されていました。
Syndromic parkinsonism and dementia associated with OPA1 missense mutations
OPA1や Mfn2はミトコンドリア外膜に存在しミトコンドリアの融合に関係する蛋白質で、これが分解されると膜電位の維持できない不良なミトコンドリアが健常なミトコンドリアと融合しなくてすむメリットがあります。ミトコンドリアの膜電位が低下すると、これらの蛋白質は parkinによってユビキチン化を受け、プロテアソームやオートファジーによって分解されます。parkinを活性型にするのが PINK1という蛋白質です。
PINK1→(リン酸化) →parkin→ (ユビキチン化) →OPA1, Mfn2・・・・
この中で、PINK1, parkinはパーキンソン病の原因蛋白質として知られていますが、OPA1変異では常染色体優性視神経萎縮となり、Mfn2変異では視神経萎縮を合併した Charcot-Marie-Tooth 病 (CMT2A) となります。OPA1の GTPase domain 変異は視神経萎縮に加えて重度の感音性難聴、小脳失調、軸索性運動感覚ニューロパチー、慢性進行性外眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症を含む DOA-plus 症候群を合併することは過去に報告されていましたが、何故 parkinの下流にある蛋白質の変異でパーキンソン病にならないのだろう・・・とこれまで疑問に思っていました。
ところが、OPA1変異でパーキンソニズムを呈した 2家系が、ボローニャとメッシーナから報告されました。両家系の発症した患者は、20 ~ 30 歳代で若年性高血圧、パニック発作を伴う不安症、30 ~40 歳代で緩徐進行性の眼瞼下垂と眼筋麻痺、ミトコンドリア筋症、末梢神経障害、小脳萎縮、失調、感音性難聴を来しました。そして、高齢になるとパーキンソニズムや認知症を合併した患者が 6 人おり、MRI でびまん性皮質萎縮 、DAT scan での異常を伴っていました。いずれの家系でも、著明な視力低下や視神経萎縮を来したのは 1 名ずつに過ぎませんでした。
このように、通常 OPA1変異でみられるはずの常染色体優性視神経萎縮がほとんどみられず、パーキンソニズムが高率に見られたというのは、非常に興味深いことと思います。患者由来の線維芽細胞の解析では、オートファジー (mitophagyを含む) の亢進が示されていましたが、これが発症にどう影響を与えているのかはこれからの問題だと思います。ひょっとすると、GTPase domain近傍の変異という部位も意味を持っているのかもしれませんね。なお、今回の症例では、parkin, PINK1遺伝子に変異がないことは確認されています。また、その他のミトコンドリア遺伝子に変異がないことも確認されています。
ということで、私にとってこの論文のツボは下記の点でした。
・ミトコンドリア異常症が多彩な表現型を示すこと
・parkin-PINK1 の下流に存在する OPA1 の変異でパーキンソニズムが出現したこと
・ミトコンドリア異常と変性疾患の関連が示唆されること