これだけは知っておいて欲しい筋疾患
2016年5月13日、郡山ビューホテルで行われた第9回福島末梢神経研究会に参加しました。西野一三先生の「これだけは知っておいて欲しい筋疾患」という講演が面白かったので備忘録としてメモしておきます。
①Sporadic late-onset nemaline myopathy (SLOMN):ネマリンミオパチー
・成人発症で、亜急性・進行性である。運動ニューロン疾患に似た経過をたどる。治療できる場合があるので、見逃してはならない。
・SLOMN with MGUSは予後不良で、5/7例が呼吸不全で死亡 (予後 1-5年)。
・SLOMN without MGUSは 5/5例生存
→治療として、高用量メルファラン+自家幹細胞移植 7/8例で生存、改善している。・SLOMN with MGUSは治療として、高用量メルファラン+自家幹細胞移植 7/8例で生存、改善している。(記事末尾の追記およびコメント欄参照)
・狭高口蓋は先天性ミオパチーを示唆する。Nemaline myopathyが鑑別となる。ミオパチーを疑ったら、口腔内の上側をきちんと評価すること。
・四肢筋力が保たれるにも関わらず、呼吸筋麻痺が目立つミオパチーとして、nemaline myopathy, Pompe病がある。歩けているのに呼吸不全をきたし、患者自身が自分でアンビューを押す事例もあるらしい。
②Inclusion body myositis (IBM): 封入体筋炎
・深指屈筋が侵されやすい (前腕の筋萎縮が目立つ) +大腿四頭筋萎縮が目立つ
・深指屈筋が侵されると、ペットボトルの蓋が開けにくい。深指屈筋の筋力低下のみだと、握力計は役に立たないことがある。
・疫学としては、米国、オーストラリアに多い。タイ、インド、イスラエルにはほとんど存在せず、報告があったとしても全部外国人。食生活が影響?
・IBM患者では HCV感染症が多く、28.8%というデータがある。非IBM患者だと 3.4%とされている。米国の IBM患者は HIVの合併が多いと言われている。
・筋病理は、autophagyを反映して rimmed vacuoleがみられる。Endomysiumにリンパ球がみられ、炎症を示している。壊死・再生がないのにリンパ球がみられるというのが特徴。
・高齢者にしか起こらない筋疾患として、眼咽頭筋型筋ジストロフィー (OPMD), IBMがある。
③Immune mediated necrotizing myopathy (iNM): 免疫介在性壊死性ミオパチー
・筋病理としては、筋の壊死・再生がみられるが、リンパ球浸潤はほとんどない。
・様々な自己抗体が見られる。SRP>HMGCR>ARS>M2>others (抗SS-A抗体など)。SRP, HMGCR, ARS, M2については routineにチェックすべき。
・SRPは signal recognition particleで、ERに入る分泌型の蛋白質についているシグナルを認識している。ELISA法だと抗原認識部位により抗体を検出できないことがあるので注意。
・抗HMGCR抗体は最初スタチン内服患者での myopathyで検出された。しかし、その後スタチンを内服していない患者でも報告されている。
④Limb-girdle muscular dystrophy (LGMD) 2B:肢帯型筋ジストロフィー2B
・筋病理は、壊死・再生線維がみられ、血管周囲にリンパ球がみられる。perimysiumにもリンパ球がみられるが、これは反応性であり、診断的意義はない。
⑤Polymiositis (PM):多発筋炎
・皮膚科やリウマチ膠原病科では多発性筋炎と呼ぶが、神経内科では多発筋炎が正しい。
・筋病理では、endomysiumにリンパ球 (cytotoxic T cell) 浸潤 (=筋を攻撃している) がないと、多発筋炎とは診断できない。
・2012年に国立精神神経センターに送られてきた 732例の検体の臨床診断は、多発筋炎 35%, 皮膚筋炎 18%, 封入体筋炎 17%, その他 30%だった。ところが病理診断を行うと、実際には壊死性ミオパチー 44%, 多発筋炎 6%, 皮膚筋炎14%, 封入体筋炎 22%, その他 14%だった。いかに壊死性ミオパチーが多いか、いかに多発筋炎が稀かということ。実は多発筋炎はとてもめずらしいのだ。
・1975年の Bohan-Peter基準 (Polymyositis and dermatomyositis (part 1, part 2)) は非常に緩い基準だったので、これを用いて多発筋炎と診断される患者は多かった。しかし、2015年の ENMC分類 (筋炎患者を皮膚筋炎、多発筋炎、封入体筋炎、壊死性ミオパチー、抗synthetase症候群、非特異的筋炎に分類) を厳格に適用すると、多発筋炎患者は極めて少なくなる。
⑥Anti-Aminoacyl-tRNA Synthetase (ARS) antibodies: 抗ARS症候群
・myositis (筋炎), interstitial pneumonia (間質性肺炎), Mechanic’s hand (機械工の手: カサカサ) が重要
・筋病理では perifascicular necrotizing myopathyである。
・Jo-1, PL-7, PL12, EJ, OJ, KS, YRS, Zoなどたくさんの抗体が見つかってきている。Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, OJは抗ARS抗体としてスクリーニングすべきである。抗ARS抗体の一つ Jo-1のみでスクリーニングをかけると、7割を見逃すことになる (抗Jo-1抗体は、抗ARS症候群の中で 30%くらいにしか検出されない)。
⑦皮膚筋炎
・MDA5, TIF-1γ, Mi-2, NXP2, SAEなどさまざまな抗体が見つかってきている。
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(2016.7.16追記)
なんと、演者の先生から修正を頂きました。コメント欄から転載します。
神経センターの西野です。ウェブを検索していて偶然ブログを見つけ拝見させて頂きました。講演をまとめて頂き大変光栄です。
一点だけ、先生の記録を修正させて下さい。メルファランで治療可能なのは、SLOMN with MGUSです。この疾患は生命予後不良なのに、見つけてちゃんと治療すれば救命でき、筋力も改善するという点がミソです。without MGUSの方は、治療法はないものの生命予後良好はです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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(参考)