ACP(米国内科学会)日本支部年次総会2016に参加してきました。
6月3日(金) は前日入りして、昨年同様祇園の「なか原」で methyl先生と食事をしました。ここは、妹と methyl先生の馴れ初めの店なのです。
6月4日(土) は次の講義を聴きました。
10:00~11:30 第1会場 Shockのトリセツ (林寛之)
・心タンポナーデは、心嚢液の量は関係ない。ゆっくり溜まれば量が多くても心タンポナーデにならない。心臓超音波検査で右房の虚脱は感度が高く、右室の虚脱は特異度が高い。
・血性心嚢液は大動脈解離、左室自由壁破裂、癌の心膜転移を考える。
・肺エコーについて。基本的にアーチファクトを見たいので、THIボタンを押して、アーチファクトを減弱させるための設定を外す。肺水腫では B line (縦方向にはいるアーチファクト) がたくさんみえる。ポータブルエコーを持参しての往診で consolidationを探すことで、肺炎を見つけられることもある。
・英語でエコーとは心臓超音波検査のことを指す。それ以外の超音波検査はすべて ultrasoundという。
・元気な心臓は、僧帽弁が良く動くので中隔に近づく。正常での EPSS <7 mm
・IVCを測定するとき、プローベを腹部の軟らかいところから上に向けても当たりにくい。心窩部右側の骨に当てて、斜めに見る。IVCは肝静脈 1 cm尾側で測定。
・E line, EF<40%, IVC虚脱率<20%の組み合わせで心不全の診断精度が極めて高くなる。
・心不全の原因、A (ACS), B (BP/HTN), C (cardiomypathy), D (damaged valve) で、ショックならほとんど AMIである。
・敗血症性ショックでは、IVCで volumeを評価し、呼吸性変動 ≧50%なら 5~6 Lを 5~6時間で輸液。平均血圧 65~90 mmHgになるようにノルアドレナリン、バゾプレッシンなど使用。酸素利用は Lactateで評価。Lactate > 4 mmol/lが目安。適宜ドブタミンや輸血を検討。
・肺エコーで、sliding sign (肋間の肋骨レベルより少し下にはいる横方向のアーチファクト) があれば正常、なければ気胸。Lung point (気胸と肺との境目) があれば気胸。
・意識清明の緊張性気胸で致死的なのは 0.3%なので、それほど焦らなくても良い。呼吸音左右差はかなりわかりにくい。脇の下で比較するとよい。穿刺は第 5肋間腋窩前線がお勧め。4.5 cm以上必要。
・腹部大動脈の径≧ 5 cmで破れやすい。径だけで破れているかどうかはわからないが、血腫の検出でわかることがある。
・自分が読めない心電図を見たら、高K血症を考える。
・治療は、カルチコール/CaCl2の効果出現は 1-3分で効果出現 (Kは下げないが心臓を保護してくれる)、グルコース・インスリン (レギュラーインスリン 10単位+ 50%ブドウ糖 50 mlを静注) は 30分で出現し効果最強、β刺激薬吸入は 1-3分で効果出現 (喘息だと 0.3 mlくらいだが、β刺激薬 2~4 ml+生食 4 mlを吸入する)、アシドーシスあるときのみメイロンを使用するが効果出現は 5-10分、ケイキサレートの効果出現は遅い。その他透析など。治療は CABG (カルシウム、β刺激薬、グルコース ) と覚える。
肺エコーなど、最近のトピックスを押さえることができました。エコーについては、経験を積んで覚えていかないといけませんね。神経エコーや頸動脈エコーというのはありますが、多くの神経内科医にとって苦手な分野です。
11:45~12:30 第1会場 急性気道感染症診療の原則を再考する (山本舜悟)
最近、扁桃炎の起炎菌として A群溶連菌だけではなく、B群あるいは G群溶連菌、Fusobacteriumなどがかなりあるのではないかと言われている。これらは、迅速キットでは検出できない。Centor criteriaで点数が高ければこれらの起炎菌も想定して治療を開始すべきなのかどうか?
とても興味深い講演でした。「かぜ診療マニュアル」の改訂版 (今後発売予定) で扱うようなので、ネタバレにならないよう、これ以上は書かずにおきます。皆さん買ってください。
12:45~14:15 第1会場 Snap Diagnosis ver.4 日常診療でどのように身体所見を学びつづけるか (須藤博)
これまでの米国内科学会日本支部総会で須藤先生が話されてきたことの纏め。この記事の末尾にリンクを張っておくので、それを参照。新しく知ったのは、「眼瞼結膜での貧血 (conjuctival rim pallon) は、眼瞼結膜のコントラストの消失で判断する。感度 10%, 特異度 90%, LR + 16.7」「座位だと鎖骨は右房より 10 cm以上高いところにあるので、鎖骨より上で外頸静脈の拍動が見られれば CVP>10 cmである。座位ではっきり見えたら異常。心不全による中心静脈圧上昇の他、心タンポナーデ、SVC syndrome, 緊張性気胸など考える。仰臥位でまったく見えないのも異常である」「肝濁音界は検者によって個人差があるので、正常人で 300人打診して自分なりの正常の高さを覚えておく」「心音の S4は聴診よりも触診の方がわかりやすく、心尖部で触れることがある (palpable S4)」「前胸部に手を当てれば右室圧>50 mmHgの時はわかる。傍胸骨拍動でググッとくる」「pelvic appendictisでは唯一の圧痛が直腸にあることがある」「先端巨大症ではグーをして爪が隠れない」「エビデンスは他人の経験である。自分の経験も大事」など。
講演が終わってから、この学会の講師達数名とまんざら亭で飲み会をしました。名前は明かしませんが、全国の有名病院の指導医たちで、毎年刺激を受けます。
6月5日 (日) は次の講義を聴きました。
9:30~11:00 第2会場 臨床研究はじめの 2歩目、統計の基本シリーズ ~あなたの研究に必要な対象者は何人?~ (福原俊一)
予め配られた資料を元にパワー計算を行い、パラメーターを動かすとどのくらい必要な対象者が増えるかを学習しました。
前回このシリーズに参加していた人としていなかった人をターゲットにしていたので、レベルの設定が難しい講演だったと思います。事前学習は、福原先生の本を読んでいたり昨年のシリーズに参加していた人間にとっては時間の無駄と思えるくらい初歩的な内容でしたが、動画がスキップできなくてイライラしました。私は「医学研究のデザイン」という本でパワー計算の例題をいくつか解いており、そのレベルでの学習をしたいと思っていたのですが、初学者向けだったので、やや物足りなさが残りました。
12:15~13:00 第5会場 ホスピタリストのための人工呼吸器セミナー in ACP Japan (則末泰博)
・人工呼吸器を使用する上で体格の把握は大事
・気管挿管の適応は MOVESである。すなわち、M (mental status, maintain airway; 気道閉塞、意識障害 (GCS 8点以下)), O (oxygenation; 低酸素), V (ventilation; 低換気), E (expectoration, expected course; 排痰負荷, 想定される臨床経過 (この後悪くなる)), S (shock; ショック) である。
・人工呼吸器管理はあくまで対症療法である。人工呼吸器管理で患者を悪くしないのが大事。絶対に優れているモードがあるわけではない。
・AC: Assist (補助)=患者の自発呼吸があれば患者の呼吸をアシストする、Control (調節換気)=患者の自発呼吸がなければ設定呼吸回数の強制換気で患者の呼吸をコントロールする。
・従量式 (VC) では、サギング (Sagging) に気をつける。これは患者の望んでいる吸気速度に流速が追いつかないもの。Volume controlのみでおこる。設定流速が低すぎるのが原因。モニターでは圧曲線が垂れ下がる。
・従量式で圧が上がりすぎた場合、プラトー圧を 30 cmH2O以下にする。気道抵抗パターン (挿管チューブが痰で詰まる、回路の問題など) では peakと plateauの差が大きくなる。コンプライアンス低下パターンでは、plateau圧が大きくなる。
・AC-VCの初期設定のまとめ:FiO2=SpO2を見ながら, 1回換気量=6-8 ml/kg (理想体重を用いる, 理想体重は、男性だと 50 + 0.9 x (身長 (cm) – 152), 女性だと 45 + 0.9 x (身長 (cm) – 152)), 呼吸回数=10-14回 (PaCO2をみながら), PEEP=SpO2みながら, 流速=40-60 L/min (流速↑だと吸気時間短い, 流速↓だと吸気時間長い, 吸気時間を設定する機種もある), 波形=漸減波 (患者の呼吸パターンに近い), 患者次第で変動するパラメーター=ピーク圧, プラトー圧
・AC-PCの初期設定のまとめ:FiO2=SpO2を見ながら, 吸気圧 5-15 cmH2Oで開始 (1回換気量が 6-8 ml/kg (理想体重) となるように調整, 吸気圧+PEEP≦ 30 cmH2Oになるように設定), 吸気時間=0.8-1.5秒で開始 (吸気のフロー波形が基線に戻ってきたら送気終了するよう調整), 呼吸回数=10-14回 (PaCO2みながら), PEEP=SpO2+ Ppeakみながら, 患者次第で変動するパラメーター=1回換気量, 吸気流速
・ARDSにおける呼吸器管理では、過伸展防止→low tidal stratetgy (院内死亡率減少 NNT 11 (NEJM 2000;342:1301-8)), 虚脱の防止→PEEPが大事。初期モードは AC-VCか AC-PC, 1回換気量を 6 ml/kg以下にする, プラトー圧を 30 cmH2O以下にする (PCの場合は Pi+PEEPが 30 cmH2O以下になるように), これらに伴う高二酸化炭素血症は許容する (pH 7.15以下になるまで), 肺を虚脱させないように適切な PEEPをかける
・二段トリガー (Double trigger) は、呼気が始まる前に次の吸気がトリガーされるもの。原因は一回換気量や吸気時間のミスマッチ。具体的には、設定換気量<<<患者の望む換気量, 設定吸気時間<<患者の望む吸気時間。
・1回換気量を制限したいが患者の自発呼吸がある場合、AC-VCでの非同調, AC-PCでの換気量の増量が問題となりやすい。まず鎮静、無理なら筋弛緩薬。
・COPDでは呼気に時間がかかり、吐ききる前に次の呼吸が始まってしまう。肺の中に空気が残っているのに呼吸が始まることで auto PEEPがかかる。Auto PEEPを測定するには、吸気ポーズボタンを押す。
・Auto PEEPの解決方法としては、気管支拡張薬による治療、吸気時間を短くすることで相対的に呼気時間を長くするなど。ミストリガーを改善するのであれば、人工呼吸器の感度をあげる、Counter PEEPなど。
・喘息発作の場合は、AC-VCが betterである。気道抵抗↑↑のため、AC-PCは圧設定が難しく換気量が入りにくい、AC-VCでプラトー圧をモニターしつつ換気量を確保。
・Take Home Message:患者が最も楽でかつ安全な設定にしよう。一回換気量は 6~8 ml/kg (理想体重) に。プラトー圧を 30 cmH2O以下に。COPD/喘息では呼気時間を長く保ち、auto PEEPを防ぐ。
私はこれまで従圧式ばかり使用してきたので、従量式についてとても勉強になりました。この講演の後、講堂を出たら、某伊豆地域の病院の先生から、講演依頼をされたのでした。「神経内科医も歩けば仕事が増える」という感じですが、光栄なことなので、精一杯準備させて頂きます。
13:15~14:45 第2会場 診断戦略カンファレンス (志水太郎)
アルコール多飲歴のある中年男性が 1週間前に一時的に左胸痛を自覚した。呼吸苦あり来院。何を考えるか?病歴と身体所見を元にグループで診断推論をする。肺塞栓症、気胸などオーソドックスなものから、特発性食道破裂など鑑別が上がった。解答は、慢性膵炎→仮性膵嚢胞 (圧が高まり左胸痛出現)→左胸腔内に瘻孔形成 (圧が逃げて胸痛消失)→左胸水貯留。だった。胸水穿刺では black pleural effusionが得られた。胸水 AMYが高値だった。Clinical pearlとしては、”左胸水をみたら膵性胸水も考える”。
須藤先生が、「酒飲みが酒を飲まなくなったら、重大な疾患が隠れている」とおっしゃっていて、私はるろうに剣心の「春は夜桜 夏には星 秋には満月 冬には雪 それで十分酒は美味い それでも不味いんなら それは自分自身の何かが 病んでる証拠だ」という台詞を思い出したのでした。
新幹線待ちの間、葵茶屋で一杯飲んでから帰りました。十分酒は美味かったので、健康であることを確認しました。
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(参考)
・ACP日本支部年次総会 2013
・ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2014
・ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【1日目】
・ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【2日目】