最近の医学論文
12月中旬の講演、12月25日のガイドライン作成会議に向けた資料作りなどでバタバタしており、またもや纏めて論文チェックする羽目に。例によって備忘録です。チェックした論文はこうしてどこかに書いておかないと、「○○みたいな雰囲気の論文読んだ気がしたけれど、なんだっけ」と後日モヤモヤした気分を味わうことになります。他の同業者は、その辺どうしているんでしょうかねぇ・・・。
何とか年内に終わらせたくて、当直明けの睡魔と戦いながら 1日で読んで纏めたので、今回もちょっと雑です。
・Association of Albumin Levels With Outcome in Intravenous Immunoglobulin-Treated Guillain-Barré Syndrome. (2016.12.27 published online)
Guillain-Barre症候群で免疫グロブリン大量療法 (IVIg) 後に低アルブミン血症である場合、重篤で機能予後も良くないのかもしれない。主な理由として、代謝の亢進、産生低下、血管低下性の亢進が挙げられる。免疫グロブリンによる直接作用も考えられるが、IVIgによる IgGの増加とアルブミン低下に相関はなく、どの程度の影響しているかは不明。
・Guillain-Barré syndrome after surgical procedures. (2016.11.23 published online)
Guillain-Barre症候群 208名のうち、外科手術後 8 週間以内に発症したのは 31名 (15%) であった。術後 Guillain-Barre症候群の初発症状の中央値は、術後 19日であった。手術は胃腸、心臓、整形外科手術が多かった。術後 Guillain-Barre症候群では、悪性腫瘍の合併 (61%)、自己免疫疾患 (29%) が多かった。
・Autoimmune choreas (2016.12.1 published online)
表1に後天性の舞踏病の原因一覧が纏まっている。個人的には、高血糖/低血糖、脳血管障害で多い印象だが、感染後の原因不明の舞踏病で困ったことがあり、その時にこういう手元にあったら良かったと思った。
・Autopsy validation of 123I-FP-CIT dopaminergic neuroimaging for the diagnosis of DLB. (2016.12.9 published online)
レビー小体型認知症 (DLB) において、ドパミン作動性ニューロンを SPECTで評価。Reference standardには剖検を用いた。SPECTの感度 80%, 特異度 92%だった (臨床診断の感度 87%, 特異度 72%)。DLBの 10%は SPECTで正常だった。
・Bortezomib for treatment of therapy-refractory anti-NMDA receptor encephalitis. (2016.12.21 published online)
2016年8月のブログ記事で、抗NMDA受容体抗体脳炎で bortezomibが奏功した 2例を報告した JAMA Neurology論文を紹介した。今回は、Neurology誌より、5例中 4例で臨床的効果があったとの報告。将来的に、有力な治療オプションとなるような予感。RCTが望まれる。
・Causes of progressive cerebellar ataxia: prospective evaluation of 1500 patients. (2016.12.13 published online)
進行性の小脳失調 1500例の内訳。かなり人種差があるように思うけれど、どのような疾患を考えなければいけないか参考になる。孤発性が 80%を占めた。孤発性のうちGluten ataxiaが 25%、特発性が 24%であった。
・Cerebellar Ataxia and Hearing Impairment. (2016.12.5 published online)
症例問題。解答はクロイツフェルト・ヤコブ病 (CJD)。診断のための検査精度 (感度/特異度) は髄液 14-3-3蛋白 92%/80%, 脳波での PSD 67%/86%, MRIでの拡散強調像 83~92%/87~95%とされている。ポイントは、古典型で特に特発性小脳失調が初発症状の場合、これらが陰性である場合があり、場合によっては全て陰性ということもあること。
・Study Suggests Alzheimer and Parkinson Disease Are Not Transmitted Through Blood Transfusion. (2016.12.21 published online)
アルツハイマー病やパーキンソン病の原因蛋白質が伝播するというプリオン仮説というのが知られているが、輸血で伝播することはどうやらないようだ。
・Chemoprevention of colorectal cancer in individuals with previous colorectal neoplasia: systematic review and network meta-analysis (2016.12.5 published online)
大腸癌 (colorectal neoplasia) 既往患者の再発予防についての systematic review & network meta-analysis。アスピリン以外の NSAIDsの効果が最も高いが、安全性と効果のバランスという意味では、アスピリンが良いようだ。
・Coagulation Testing in Acute Ischemic Stroke Patients Taking Non-Vitamin K Antagonist OralAnticoagulants. (2016.11.29 published online)
NOACsは、薬剤による凝固への影響を直接測定することが難しく、その結果として血栓溶解療法が回避されることが多いという論文。
・Direct comparison of dabigatran, rivaroxaban, and apixaban for effectiveness and safety in non-valvular atrial fibrillation. (2016.9.28 published online)
2016年11月23日のブログ記事で、高齢者を対象として、非弁膜症性心房細動にダビガトラン (150 mgを 1日 2回) を使用した場合とリバロキサバン (20 mgを 1日 1回) を使用した場合を比較したコホート研究について紹介した。Dabigatran, Rivaroxaban, and Apixabanの直接比較をしたコホート研究も出ていたようだ。
いずれも、非弁膜症性心房細動における脳卒中ないし全身性塞栓症に有意差はなし。重大な出血について、apixabanは dabigatran (HR 0.50), rivaroxaban (HR 0.39) より少なかった。Rivaroxabanは dabigatranより重大な出血 (HR 1.30) と頭蓋内出血 (HR 1.79) が多かった。
リバロキサバンにとって辛いデータが次々と出ているようだ。
・New perspectives on atrial fibrillation and stroke. (2016.8.24 published online)
2014年の NEJMに、心臓植え込み式レコーダーやイベントトリガー式記録装置による長期間記録で心房細動の検出頻度が高まるという論文が 2報同時に発表されたのは記憶に新しい。
こうしたモニタリングにより、脳塞栓症を発症したとき、必ずしも心房細動が先行していないことがわかってきた。
最近の研究では、どうやら左房の線維化が影響しているらしい。
・Stroke paradox with SGLT-2 inhibitors: play of chance or a viscosity-mediated reality? (2016.11.28 published online)
糖尿病治療薬 SGLT-2阻害薬で脳卒中のリスクが高まる可能性が指摘されている。SGLT-2阻害薬によるヘマトクリット上昇、ひいては血液の粘性亢進との関連が示唆される。
・Differentiating lower motor neuron syndromes. (2016.12.21 published online)
下位ニューロン症候群の鑑別。
・Ensuring Staff Safety When Treating Potentially Violent Patients. (2016.12.27 published online)
暴力を振るう可能性のある患者を治療する際、どのようにスタッフの安全性を確保するのかという総説。
・First-in-human assessment of PRX002, an anti-α-synuclein monoclonal antibody, in healthy volunteers. (2016.11.25 published online)
Parkinson病を代表として、さまざまな神経変性疾患の原因となる α-synucleinへのモノクローナル抗体 PRX002。健常人を対象とした第一相試験で、安全性、忍容性は良好だった。
・α-Synuclein binds to TOM20 and inhibits mitochondrial protein import in Parkinson’s disease. (2016.6.8 published online)
パーキンソン病の病因研究。α-synucleinはミトコンドリア外膜蛋白の TOM20と相互作用し、結果としてミトコンドリアの機能不全を起こすようだ。
・Hypothermia for Neuroprotection in Convulsive Status Epilepticus. (2016.12.22 published online)
てんかん痙攣重積で、脳保護効果を期待して低体温療法を追加してもメリットはないようだ。
・New-Onset Seizure in Adults and Adolescents (2016.12.27 published online)
新規発症のてんかん発作についての総説。基本的な事項がよく纏まっている。
・Incidence and Etiologies of Acquired Third Nerve Palsy Using a Population-Based Method. (2016.11.17 published online)
動眼神経麻痺の原因にどのような疾患があるか。微小循環障害が多いけれど、その他にも年齢によって様々な疾患を考える必要がある。
・Myasthenia Gravis (2016.12.29 published online)
NEJM誌に掲載された重症筋無力症の総説。特に真新しいことがあるわけではないけれど、網羅的でよく纏まっている。心筋炎は最近経験したので、とても参考になった。
“Myocarditis is rare but occurs with an increased frequency in patients with myasthenia gravis, as indicated by numerous single case series and reports. However, myasthenia-related clinical heart disease and heart dysfunction are very rare. In population-based studies, myasthenia gravis has not been associated with an increase in mortality related to heart disease. Functional imaging studies have shown minor and subclinical dysfunction. Myocarditis in myasthenia gravis is associated with Kv1.4 muscle antibodies. Antibodies against acetylcholine receptor, muscle-specific kinase, and LRP4 do not crossreact with heart muscle, in contrast to nonjunctional antibodies against Kv1.4, titin, and ryanodine receptor.”
神経内科医は知識の整理に読んでおくべき総説だと思う。
・Osteoporosis and Fracture Risk Evaluation and Management. (2016.12.12 published online)
骨粗鬆症と骨折予防についての総説。キモは “Adequate calcium, vitamin D, and exercise involving weight-bearing and resistance are important for bone health at any age and likely contribute to the effectiveness of medications to reduce fracture risk. The Institute of Medicine (now the National Academy of Medicine) recommends calcium intake of 1000 to 1200 mg/d, ideally from foods; calcium supplements may be needed for patients whose diets do not supply sufficient calcium. For vitamin D, 600 to 800 IU/d is recommended for public health purposes, but a supplement of 1000 to 2000 IU/d is reasonable for those at increased risk of osteoporosis; serum 25-hydroxyvitamin D levels higher than 30 ng/mL (to convert to nmol/L, multiply by 2.496) may be the appropriate target in such patients. Walking (or a weight-bearing “walking equivalent” such as treadmill or elliptical) for 30 to 40 minutes at least 3 times per week is ideal (5 sessions per week of aerobic activity is recommended for cardiovascular fitness; additional sessions, if needed could be non–weight bearing, such as swimming or cycling).” で、きちんとビタミンDとカルシウムの補充をし、運動と体重のコントロールをした上で、ハイリスク症例でビスホスホネートなどを考えましょうという点。
・Ring-enhancing spinal cord lesions in neuromyelitis optica spectrum disorders. (2016.12.2 published online)
視神経脊髄炎関連疾患 (NMOSD) の脊髄病変では、約1/3にリング状造影効果がみられ、多発性硬化症を除く、他の脊椎疾患との鑑別に有用である。Figure 4の画像所見が勉強になる。A:頸椎症、B:サルコイドーシス、C:dural AVF、D:脊髄梗塞、E:傍腫瘍性ミエロパチー、F:多発性硬化症 (NMOSDの ring enhancementは Fig.2)
・Safety and pain in electrodiagnostic studies. (2016.9.28 published online)
電気生理診断の安全性と疼痛について。針筋電図の疼痛緩和に局所麻酔薬の塗布はあまり意味がないそう。冷却スプレーは効果があるが筋電図所見に影響を与える可能性がある。
一時期、傍脊柱筋の針筋電図で出血を問題視した論文が話題になったが、追試では問題なかったそう。
神経伝導検査は、経皮ペーシングしているとき以外は問題ないとのこと。
ドイツの60以上の主要な研究機関は、2017年1月1日からエルゼビア社の出版する雑誌フルテキストへのアクセスができなくなるようだ。