無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ
バッハの無伴奏ヴァイオリンのためソナタ・パルティータはヴァイオリン音楽の旧約聖書とも呼ばれます。ヴァイオリンで多声音楽を演奏するテクニック的な難しさもありながら、和声と対位法を突き詰めて作られた楽曲を読み解いて演奏しなければいけない音楽的な難しさを内包しています。無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ・パルティータはチェロ組曲と違って、自筆譜が見つかっていますので、原典を無視出来ない点で、演奏上の制約は逆に多くなります (自筆譜のファクシミリは、ガラミアン版の最後についていて、簡単に手に入ります)。
この曲はある一定水準以上のヴァイオリニストは必ず練習するものの、若いうちは録音を避けることが多いように思います。演奏家として成熟してから、つまり音楽を深く理解してから取り組むものと考えられているからです。
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第 1番の第 1・2楽章の演奏を Youtubeからいくつか紹介します。
まずは、最古の録音の一つ。ヨアヒムによる演奏です。確か 1900年前後に録音されたものだったと思います。ヨアヒムはブラームスの親友でした。ブラームスのヴァイオリン協奏曲はヨアヒムに献呈されたものでした。この録音はヨアヒム晩年の演奏で、ボウイングの衰えが感じられますが、曲の魅力を十分に引き出しています。
・Joseph Joachim plays Bach Sonata #1
あのフリッツ・クライスラーもこの曲を避けて通りませんでした。
・Fritz Kreisler – Bach Son. #1 – Adagio
シェリングの演奏は古典的名演とされ、その後の多くの演奏家の規範となりました。
・Henryk Szeryng Bach Sonatas & Partitas Sonata 1 Adagio
・Henryk Szeryng Bach Sonatas & Partitas Sonata 1 Fuga
私はミルシテインの演奏も好きです。ミルシテインは非常に知的な方で、「ロシアから西欧へ」という名著を残しています。ホロビッツ、ピアティゴルスキーと共に三銃士と呼ばれました。
・Nathan Milstein plays Bach Sonata #1 (first 2 mov.)
昔の巨匠達の演奏は、非常に自由度が高いものでした。これは「オリジナルの楽曲」よりも「演奏家の感性」が優先されていた時代のためです。それぞれの巨匠がどのように考えて演奏したか非常にまちまちで、人間味があります。他にもメニューインやハイフェッツを始め多くの録音がありますので、興味を持った方は各自聴き比べてみてください。バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ聴き比べ2に多くの CDが紹介されています (CDの好みについては私と合いませんが・・・汗)。
最近では「若い頃の記録」として録音する若手ヴァイオリニストが出てきています。その中で素晴らしい出来なのがテツラフによる演奏です。時代の変化を感じさせる演奏です。機会があれば一度聴いてみてください。