第1回ニューロフォーラム東京
10月 1日にニューロフォーラム東京に参加してきました。特別講演は内容が私のツボで、とても面白かったです。私は変性疾患における小胞体ストレス、特にシャペロンやユビキチン・プロテアソーム、オートファジーに興味を持っていて、いくつかの本や論文を読んで勉強中です。p62なども、今年の春先に医局の抄読会で紹介したばかりでした。まさに、ドンピシャの内容でした。
特別講演
「オートファジーと神経変性疾患」
東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 田中啓二先生
田中先生らのグループは、Natureや Cellといった雑誌に多くの論文を投稿し、私が蛋白質についての教科書で読んだいくつかの重要な事柄は、彼らが発見したものでした。
細胞内に不良品の蛋白質が出来ると、それを分解するシステムがあります。また、良品であっても、細胞内飢餓に陥ると、蛋白質を分解してエネルギーを確保します。これらの蛋白質分解系には、大きくユビキチン・プロテアソーム系と、オートファジー・リソソームシステムがあります。
オートファジーはこれまで非選択的な分解システムとされてきましたが、オートーファジーの中でもユビキチン化された蛋白を選択的に分解するシステムがあることがわかってきました。それに重要な役割を果たしているのが、p62で、ユビキチン化した蛋白を選択的にオートファジーに取り込むのではないかと言われています。p62は、オートファジーの概念に大きな変化を与え、最近のトピックスになっています。
もう一つの話題は、Parkinson病に関するもので、これまで多くの遺伝子が同定されてきましたが、機能がわかっていませんでした。
Parkin (Park 2) はユビキチンリガーゼであり、PINK 1 (Park 6) はセリン・スレオニンキナーゼで、遺伝的にリンクしているのではないかということが言われ始め、これらはミトコンドリアの dynamicsに関係があると考えられています。
いくつかの実験を経た結論は、「Parkinは傷害されたミトコンドリアに選択的に運ばれ、オートファジーが誘導される。PINK 1は Parkinがミトコンドリアに移行するのに働く」というものです。そのため、Parkinに異常があっても、PINK 1に異常があってもミトコンドリア機能不全が生じ、パーキンソン病を発症するのではないかという仮説が立てられています。
ミトコンドリアは元々分裂と融合を繰り返していて、機能的でないものは排除されるメカニズムがあります。ミトコンドリアの 80%が異常でも大丈夫で、自分で回復できると言われています。したがって、ミトコンドリア機能をサポートする薬剤が開発できれば、パーキンソン病の有力な治療薬になるのではないかと考えられています。
講演で爆笑が起こったのは、週間少年ジャンプに連載中の「トリコ」という漫画の話。漫画の中で、「オートファジー(自食作用) 栄養飢餓状態に陥った生物が自らの細胞内のたんぱく質を アミノ酸に分解し一時的にエネルギーを得る仕組みである 」という表現がでてくるのですが、田中先生曰く、「100点満点の解答です。私がこんなに難しいことを言っているのに、この作者は1週間で250万人にオートファジーを広めることに成功しました」とユーモアたっぷりに話していました。
講演後の懇親会で、田中先生と話す機会があり、20分くらい語り合ってしまいました。田中先生は、他の先生達と話すときは距離を取って話していたのに、私と話すときは顔を密着させんばかりに近づかれ、非常に話も噛み合って盛り上がりました。例として、私が常々疑問に思っていた話で、「ユビキチン・プロテアソーム系というのは蛋白質の品質管理で重要な役割を果たしていると思いますが、多発性骨髄腫の治療薬でプロテアソーム阻害薬というのがありますね。プロテアソームが阻害されても変性疾患が増えた話を聞かないし、プロテアソームよりもそれらをバックアップする系、例えば p62などの方が重要と言えるのでしょうか?ユビキチン化された蛋白質は、プロテアソームで分解されないかわりに、p62を介してオートファジーされているのでしょうか?」と質問してみました。田中先生の答えは「あの薬剤の開発にも少し関与していますが、どうやらプロテアソームの 30%くらいしか阻害しないようなのです。多発性骨髄腫の細胞は IgGなどをたくさん産生していますから、小胞体に非常にストレスがかかっています。だから 30%程度プロテアソームが阻害されただけで細胞がバタバタ死んでいくんじゃないかと思ってるんですよ。色んな事を言っている先生はいますが・・・」というものでした。一事が万事こんな感じで、非常に話が面白く、今度研究室を見学させてくださいと御願いすると、快諾してくださいました。
非常に為になる研究会でした。