Der schwer gefasste Entschluss
さて、久しぶりに音楽の話題です。「ベートーヴェン(ジャン・ヴィトルト著)」の作品目録を見ると、ベートーヴェンがピアノソナタと弦楽四重奏曲を生涯を通じて書き続けたことがわかります(一方ヴァイオリンソナタはある時期以降書かなくなりました)。これらを聴いていくと、年齢と共に、徐々に彼の作曲の方向性が内面に向いていくのがわかります。
前回のドイツ旅行で、ボンのベートーヴェンハウスに行ったときに、ベートーヴェンの最後の弦楽四重奏曲(第16番)の最終楽章の自筆譜が展示されていました。
その冒頭には「Der schwer gefasste Entschluss (ようやくついた決心)」と書かれ、その右に二つの小さなスケッチがありました。一つは1小節のスケッチで、下に「Muss es sein?(=Must it be?=そうあらねばならぬのか?)」とあり、その右には4小節のスケッチの下に「Es must sein!(そうあらねばならぬ)」と書かれていました。
これは何を意味しているのでしょうか?上記のヴィトルトの本では、ベートーヴェンの手紙を引用して、説明していました。その手紙の内容は以下の通りです。
ごらんのとおりです。なんと私は不幸な人間でしょう!この弦楽四重奏曲を書くのが困難だったからというのではなく、私の考えていたものが何かもっと違った、もっと偉大なものであったのに、これしか書けなかったからです。その原因は、私があなたにそれを約束していたこと、そして私に金が必要だったこと、しかるにこれらのことが全部私にこのうえなく苦しく迫ってきたこと、にあります。以上が『Es muss sein』という言葉のもとにご理解願わねばならぬことなのです。
イマイチ良くわからないなぁ・・・と思っていたら、11月号の「String」という雑誌に面白いことが載っていました。
ホルツは、ベートーヴェンが、デンプシャーが先日のシュパンツィヒ弦楽四重奏団による音楽会に後援してくれなかったから、もう今後どんな曲も書かないといっていると話し、もし仲をとりもつとするならば、我々のクァルテットに50フローリン寄付してくださいと言った。するとデンプシャーは、どうしても必要ですか(Muss es sein?)と聞いたらしい。この日の出来事をあとでベートーヴェンに伝えると、ベートーヴェンは大いに笑って、そう、どうしても必要だ、と言いながら、即興で、『Muss es sein?』に曲を付けたという。このような冗談から作られた曲が、作品≪135≫のフィナーレに使われることとなったのである。すなわちお金の請求が、ベートーヴェンの最後の四重奏曲のテーマとなったわけだ。
この非常に曖昧な語句に振り回されましたが、結局は笑ってしまうような些細なエピソードが原因だったのですね。