神経内科のトレンド2011

By , 2011年12月16日 8:37 AM

消化器内科の先生が、ブログで 2011年の消化器領域での topicsを紹介していました。専門外の領域のトレンドはカバーしきれないので、こうしたサイトがあると非常に助かります。

消化器病のトレンド2011

ということで、私も独断と偏見に充ち満ちた神経内科領域のトレンド 2011を紹介したいと思います。

1) Dabigatran販売開始
経口抗トロンビン薬である Dabigatran (プラザキサ) が 2011年3月14日に発売されました。ワルファリンのような頻回の採血が不要で、薬物相互作用もほとんどない薬剤です(ワルファリンは一定の量で飲み続けても効果が変わることが多いので、定期的に採血をして量を調節しないといけない。また投与量も個人差が大きい)。ずっと期待されていた薬剤で、このブログでも 2006年に紹介したことがあります。この手の薬剤では、当初 Ximelagatranに注目が集まっていましたが、2006年2月14日に肝障害のため開発中止になったのでした。

ワルファリンのコントロール不良のため脳梗塞を発症する患者さんを日々診ていた我々にとって、1日 2錠で簡単にコントロールできる薬剤は夢のように思います。

2) ALSの原因遺伝子
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因はほとんどわかっていませんでした。約一割の患者さんは遺伝性であり、その一部には SODなどの遺伝子変異が知られていました。新規の遺伝子は、2010年12月に VCP, 2011年8月に ubiquilin2と立て続けに見つかりましたが、ごくわずかな患者さんの原因を説明するものでしかありませんでした。

ところが、2011年9月24日に発表された intron領域における GGGGCCの 6塩基リピートは、家族性 ALSの 46.4%, 孤発性 ALSの 21%を占め、ALSにおいて中心的な役割を担っているものと予想されます。ALS研究において、TDP-43以来の impactであると思います。

(補足)Intron領域における 6塩基 repeatというのは最近のトレンドらしく、脊髄小脳失調症 SCAの一型 SCA36において intron領域に GGCCTGの 6塩基リピートが見られることが、2011年6月に本邦より報告されています

3) MSAにおける CNVの報告
原因が全く分かっていなかった難病、多系統萎縮症 (MSA) において、19p13.3の Copy number variation (CNV) が報告されました。この領域にはいくつかの遺伝子があり、どの遺伝子が原因かは正確にはまだわかっていません(※論文中では SHC2と推測している)が、病態解明の上で大きな手がかりとなることは間違いありません。

4) パーキンソン病治療ガイドライン 2011
パーキンソン病治療ガイドライン 2002が改訂され、パーキンソン病治療ガイドライン 2011が公開されました。パーキンソン病の専門家以外の医師にとっても使いやすいものになっていると思います。

一点注意しないといけないのは、序文に「治療ガイドラインは、あくまで、医師が主体的に治療法を決定する局面において、ベストの治療法を決定する上での参考としていただけるように」とわざわざ断っているように、押しつけるものではありません。患者さんによって置かれた状況は違いますし、薬への相性も違うので、ケースバイケースで対応していくことが大切です。

5) 多発性硬化症治療薬フィンゴリモド承認
2011年11月28日、多発性硬化症治療薬に対する初の経口治療薬フィンゴリモド (イムセラ) が発売されました。私も FTY720というコード名で治験に関わった薬剤です。経口治療薬でありながら、注射薬であるインターフェロンと同等以上の効果が期待できるのがウリです。しかし、海外では重篤なヘルペスウイルス感染症、白人における melanomaのリスク増加などが報告されているので、症例を選んで使うことが大切です。

6) 筋無力症における LRP4抗体
筋無力症 (重症筋無力症; MG) は、神経筋接合部に対する自己抗体が原因で、脳からの命令が筋肉に伝えられなくなる疾患です。抗AChR抗体が原因としては最も多いのですが、抗AChR抗体が検出されない症例も多く、sero-negative MGと呼ばれます。sero-negative MGからは 抗MuSK抗体が検出されるケースがあることは有名でしたが、抗AChR抗体、抗MuSK抗体ともに検出されない、double sero-negative MGの原因は不明でした。

日本から、新たに LRP4抗体が報告され、double sero-negative MGの診断/治療に福音をもたらすことになりそうです。

7) Dexpramipexoleの衝撃
筋萎縮性側索硬化症 ALSは、有効とされる治療法がほとんどありません。唯一といってよい治療薬リルゾールは、若干の延命効果が指摘されていますが、効果が実感できるほどではありません。その中で、Dexpramipexoleが観察期間内での死亡率低下のみならず、運動機能低下を抑制するかもしれないことが報告されました。治療効果は限定的かもしれませんが、一歩前進といったところです。

8) Dabigatranで重篤な副作用
第一位で紹介した Dabigatranですが、5例の死亡例が報告されました。いずれも腎機能低下のあった症例です (筋肉量の乏しい 80歳代において、Cr 1.1は腎機能障害ありととらえるべき: 参考)。

新規に薬剤が承認されたとき、積極的に使う医師と、しばらく様子をみる医師がいますが。私は後者です。いくら良さそうな薬剤であっても、治験では見つからない副作用が明らかになる場合があるからです。Dabigatranも、どのような症例では危険なのか、当初わからなかったことが明らかになってきたのだと思います。

9) ガランタミン、メマンチン発売開始
2011年3月22日にガランタミン (レミニール)6月8日にメマンチン (メマリー)が相次いで発売されました (メマンチンは震災のため 3月18日から発売延期)。アルツハイマー病の新薬として期待を集めていますが、実際には治療効果は非常に小さいのではないかという意見もあります

10) 脳における直感の局在
全くの個人的趣味で申し訳ないのですが、私が被験者として協力させて頂いている研究の一部が、2011年1月21日サイエンス誌に載りました。高次脳機能なので、一応神経内科領域です (^^;

この将棋思考プロセス研究から、どうやら直感は尾状核を通る神経回路と関係がありそうだということがわかりました。また、熟練によって身につけたパターン認知には楔前部が重要であるということもわかりました。

※トレンドって書きましたけど、正確にはトレンドというより私にとっての十大ニュースと言えると思います (^^)

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