第 4回 Journal club
2月15日に第 4回 journal clubを開催しました。
兄やん先生は、細菌性髄膜炎におけるステロイドの投与について調べて来ました。
Dexamethasone and long-term survival in bacterial meningitis
301例の細菌性髄膜炎患者に対し、157例では抗菌薬投与前にデキサメタゾン 10 mg q6h (15-20分で drip) 4日間を開始し、144例ではデキサメタゾンの代わりにプラセボを使用しました。デキサメタゾン投与群では、8週間以内の死亡率が有意に低く、その後の生存曲線のスロープは両群間でほぼ同様でした。肺炎球菌による髄膜炎で、デキサメタゾンの効果はより明らかに見られました。
細菌性髄膜炎のステロイド投与については諸説あり、投与法も人によって様々ですが、今後参考になるスタディーなのではないかと思いました。
ホワイトロリータ先生は、バレンタインデーに因んで、チョコレートと頭痛について調べていました。
A Double-Blind Provocative Study of Chocolate As A Trigger of Headache
チョコレートが頭痛の誘発因子になるかどうか調べた論文です。チョコレートと同じ味でカフェイン等が含まれないキャロブという菓子をプラセボに用いました。その結果、片頭痛においても、緊張型頭痛においても、あるいは両者の混合した頭痛においても、頭痛の誘発因子にはならないことがわかりました。ちなみに、この研究は “Raymond and Elizabeth Bloch Educational and Charitable Foundation” と “American Cocoa Research Institute” から grantを得て行われています。
チョコレートは片頭痛の誘発因子になるとこれまで言われてきましたが、私は経験的に「チョコレートを食べると片頭痛が起こる」という患者さんを診たことがこれまでありませんでした。ひょっとするとあまり関係ないのかもしれませんね。
長友先生 (顔がサッカーの長友選手に似ているので勝手に命名) は、チョコレート摂取と脳卒中リスクについて調べてきました。
Chocolate consumption and risk of stroke: A prospective cohort of men and meta-analysis
スウェーデン人男性 37103名を 10.2年に渡り調査した研究です。チョコレート 62.9 g/week摂取している男性では、脳卒中が少なかった (相対リスク 0.83) そうです。ネットで調べたところ市販の板チョコは 1枚 70 gくらいらしいです。この研究ではメタアナリシスも行なっており、チョコレート摂取による脳卒中の相対リスクを 0.81としてます。その原因として、チョコレートに含まれるフラボノイドなどの成分を挙げています。
ということで、愛する男性にはチョコレートを贈りましょう。
続いて、下半身ネタ大好きな「ぶぶのすけ」先生は 巷で噂になっているアノ研究を読んできました。
Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.
難治性の偽膜性腸炎患者の消化管に鼻からチューブを入れて他人の便流し込むという治療はこれまで報告があり、そのインパクトにより多くの医者に知られてはいました。しかし、今回は天下の New England Journal of Medicineに論文が掲載され話題になりました。内容について、まとまったサイトがあるので紹介しておきます (というか、まとまったサイト多すぎwww みんなこういうネタ好きなんですね)。
ドナーの便の十二指腸注入による再発性C. difficile感染治療
バンコマイシン継続より効いたというのが凄いですね。そのうち、どんな便が良く効くかとか調べられるんでしょうか?より有効そうな便の持ち主のところに依頼が殺到して、本人もより効果的な便を出すための食生活とか考えちゃったりして・・・。
さて、最後に私が 2013年 1月 31日号のNatureから非常にインパクトのあった論文を紹介しました。
ミトコンドリア脳筋症は母系遺伝をする病気で、ミトコンドリア機能障害のために、特に脳や筋肉に異常を来たします。また糖尿病の原因になることも知られています。しかし、妊娠を諦める以外にこれらの遺伝を回避する方法はありません。私は、母親がこの疾患であることを知った娘が将来自分も発症する可能性があることを悲観して自殺を図った症例を知っています。子孫に疾患を伝えることなく子供を持てる方法はないものでしょうか?
この問いに答えるような画期的な論文を今回紹介しました。どうやら筆頭著者は日本人のようです。
Towards germline gene therapy of inherited mitochondrial diseases.
著者らは、紡錘体移植 (spindle transfer; ST) によって、卵母細胞のミトコンドリア DNA (mtDNA) を置換することを試みました。106個のヒト卵母細胞のうち、65個で相互に STを行い、33個は対照群としました。
Figure 1aには実験の方法が書いてあります。ドナー1の卵母細胞から紡錘体を取り出し、ドナー2の卵母細胞の紡錘体と入れ替えます (=紡錘体移植; ST)。その後、人工授精させると、前核形成を経て、胚盤胞となります。今回の実験ではそこから胚性幹細胞株を樹立しました。両群間で受精率は同等でした (Figure 1b)。
ところが、ST受精卵では、52%が前核の数の異常によって診断される異常受精を示しました (Figure 2a)。この原因は卵母細胞が Metaphase IIでとどまらないといけない時期に、Anaphase IIに移行してしまう “premature activation” という現象のせいではないかと推測されました。
Figure 3では、ドナー1の卵母細胞由来の胚性幹細胞は、ミトコンドリア DNAがドナー1の遺伝子で、核の DNAがドナー2の遺伝子であることが確認されました。
Table1では更に詳細な解析をしています。得られたそれぞれの胚性幹細胞の核型は 46XXないし 47 XYでしたが、唯一異常受精により前核形成が 1前核 3極体 (正常は 2前核 2極体) だった卵母細胞由来の胚性幹細胞では、69XXXという核型を示しました。また、紡錘体移植の際に、少量のミトコンドリアが紡錘体と一緒に移植されていないか (mtDNA carry over) を調べました。Restriction-fragment length polymorphism (RFLP) 法では、紡錘体と一緒に移植された mtDNAは検出されませんでしたが、より感度の高い ARMS-qPCRでは、少量検出されました (max 1.70%)。
紡錘体移植は技術的に可能であることがわかったのですが、臨床応用するにはまだ大きな問題があります。一つには、卵巣周期が異なる二人から、同日に卵子を得ることが困難なことです。よって、紡錘体移植するためにはどちらかの卵母細胞を凍結する必要が出てきます。著者らはサルの卵母細胞を用いてこの問題について実験しました。ミトコンドリアのドナーとなる卵母細胞を凍結し、新鮮な卵母細胞から紡錘体を取り出して移植しても胚盤胞はほとんど形成されなかったのに対し、紡錘体のドナーとなる卵母細胞を凍結し、新鮮な卵母細胞に移植すると問題なく胚盤胞が形成されることがわかりました。(Table 2)
最後に、紡錘体移植により出生したサルを 3年間観察しました。血算、生化学、血液ガス分析といった採血項目ではコントロール群とくらべて差がありませんでした。体重もコントロール群と差はありませんでした。皮膚線維芽細胞を採取して調べた ATPレベルやミトコンドリア膜電位といった評価項目も正常でした。また、紡錘体移植の際に一緒に移植されてしまった mtDNAについても変化はありませんでした。
この研究を臨床応用していくには倫理的な問題を含めていくつかクリアしなければならない問題がありますが、実用化されれば次のように移植が行われるようになるでしょう。
まず、ミトコンドリア病の Aさんの卵母細胞を凍結保存しておきます。次に健常者の Bさんから新鮮な卵母細胞を採取して紡錘体を除去した後、Aさんの卵母細胞から取り出した紡錘体を Bさんの卵母細胞に移植します。そして試験管内で受精させ、Aさんに戻します。生まれてくる子供は、Aさん (と夫) の核 DNAと、Bさんのミトコンドリア DNAを持つ筈です。Aさんのもつ病気のミトコンドリア DNAは子供に伝わらないことになります。ただし紡錘体移植にともなって、Aさん由来のミトコンドリアも少しは混入してしまいます。しかし、同じく 2013年 1月 31日号の Natureに掲載された “Nuclear genome transfer in human oocytes eliminates mitochondrial DNA variants.” という論文では、ゲノム移植によって別の卵母細胞に一緒に伝わってしまったミトコンドリア DNAは、最初 1%弱検出されるようですが、徐々に検出されなくなっていくということなので、実際にはおそらく問題にならないのではないかと想像されます。
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