ALSと陰性徴候
感覚障害、 膀胱・直腸障害、眼球運動障害、褥瘡は “ALSの陰性徴候” と呼ばれ、ALS患者では何故かこの症状がみられません。その理由はメジャーな症候学の教科書を読んでも書いておらず、私は知らなかったのですが、2014年10月16日付の Scientific Americanに凄く興味深い記事が載っていました。
Why Do Eye Muscles Function in ALS as Other Muscles Waste Away?
An important clue may lie in the wiring of the motor neurons. Those vulnerable to ALS connect to specialized sensory neurons and “receive continuous excitation from other neurons that release glutamate,” an important neurotransmitter that excites motor neurons and triggers muscle movement, explains neuroscientist George Mentis of the Center for Motor Neuron Biology and Disease at Columbia University.
Eye and sphincter motor neurons, however, do not receive synaptic connections from these specialized sensory neurons and instead get their signals from different neurons. They also “receive less glutamate from yet different sources, ultimately triggering muscle movement in a different way,” Mentis says. Specifically, the ALS-resistant neurons receive more discrete, specific bursts of the chemical instead of a continuous flow. Sustained exposure to glutamate may cause an over-accumulation of calcium, which harms cells.
つまり、ALSで膀胱直腸障害や眼球運動障害が起きないのは、眼筋や括約筋を支配する神経が、他の運動神経と異なった特徴を持つ神経回路を形成しており、グルタミン酸が関与した持続的な興奮入力を受けにくいことで説明できそうです。グルタミン酸が関与した持続的な興奮入力は、過剰なカルシウム流入を介して細胞毒性をきたす可能性があると考えられています。上記に書いてはありませんが、感覚神経が障害されないのも、運動神経のようにこのような持続的興奮入力を受けないことで説明できるのかもしれません。長年頭を悩ませてきた疑問が、少し解けた気になりました。
余談ですが、グルタミン酸受容体のなかで AMPA受容体と ALSの関係について最近多くの論文が発表されています。そんな中、2014年10月20日に、AMPA受容体拮抗薬 “Perampanel” が抗てんかん薬として FDAから承認されました。この薬が、ALSでの AMPA受容体が関与した細胞毒性を抑えてくれることはないのか・・・ふと思いました。論文検索してみても誰も研究していないみたいですし、何の根拠もない全くの妄想ですけれど・・・(^^; (開示すべき COIはありません)
全く話は変わりますが、ALSに対してセフトリアキソンは有効性を示せなかったという第三相試験の結果が、Lancet Neurologyに掲載されました (2014年10月6日 online published)。うーん、残念。