多発筋炎と皮膚筋炎
Muscle & Nerve誌の accepted articleを見ていると、多発筋炎および皮膚筋炎の総説が掲載されていました。2015年1月11日に受理された論文です。
An overview of polymyositis and dermatomyositis
まだ、正式に出版されたわけではないのできちんと段組されてはいませんが、いち早く読むことが可能です。 治療は膠原病科に御願いすることが多いので、最近知識のアップデートを怠っていた分野でしたが、素晴らしい内容でした。特に勉強になった部分を備忘録的に書いておきます。
・炎症性ミオパチーには、皮膚筋炎 (dermatomyositis; DM)、多発筋炎 (polymyositis; PM)、孤発性封入体筋炎 (sporadic inclusion body myositis; sIBM)、非特異的筋炎 (nonspecific myositis)、免疫介在性壊死性ミオパチー (immune mediated necrotizing myopathy; IMNM) がある。
・皮膚筋炎の 6%は皮膚病変を欠く。典型的な皮膚筋炎の筋病理を示す 20%は皮膚所見を呈するものの筋力低下を欠く (amyopathic dermatomyositis; ADM)。
・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎は、多発筋炎に合併する間質性肺炎より臨床的に重症である。MDA5 (anti-melanoma differentiation associated gene 5) 抗体の存在が関係しているのではないかと言われている。
・皮膚筋炎の筋病理には二つのタイプがある。一つは筋周膜病理を伴った免疫性ミオパチー(immune myopathy with perimysial pathology) で、成人に多く、間質性肺炎を合併しやすい。もう一つは筋血管障害 (myovasculopathy) である。
・孤発性封入体筋炎は封入体を欠くことがあるので、多発筋炎と病理学的に区別するのは困難なことがある。孤発性封入体筋炎は遠位筋筋力低下が見られやすいといった臨床的特徴が重要である。
・抗体は二つに分けられる。一つは筋炎関連自己抗体 (myositis-associated autoantibodies; MAAs) で、anti-Ro, anti-La, anti-PM-Scl, anti-nuclear ribonucleoproteins (snRNPs) U1, U2, U4/6, U5, U3, anti-Ku, anti-KJ, anti-Fer, anti-Mas, anti-hPMS1抗体などがある。もう一つは筋炎特異的自己抗体 (myositis-specific autoantibodies; MSAs) で、anti-EJ (antisynthetase syndrome), anti-Ha (antisynthetase syndrome), anti-HMGCR (IMNM (statin使用と関連)), anti-Jo-1 (antisynthetase syndrome), anti-K5 (antisynthetase syndrome), anti-MDA5 (DM/ADM), anti-Mi-2 (DM), anti-MJ/NXP2 (juvenile DM>adult DM), anti-NT5C1A (sIBM), anti-OJ (antisynthetase syndrome), anti-TIF-γ/α (adult/juvenile DM), anti-PL-12 (antisynthetase syndrome), anti-PL-7 (PM/DM), anti-SUMO-1 (DM), anti-SRP (IMNM), anti-Zo (antisynthetase syndrome) が知られている (antisynthetase syndromeは抗Jo-1抗体など抗antisynthetase抗体陽性を示す疾患群)。DM, PM, IMNMの成人患者の 60~80%でいずれかの MSAが陽性となる。
・2011年、炎症性筋疾患を 6つの新しいクラスに分類することが提唱された。(1) immune myopathies with perimysial pathology, (2) myovasculopathies, (3) immune polymyopathies, (4) immune myopathies with endomysial pathology, (5) histiocytis inflammatory myopathy, (6) inflammatory myopathies with vacuoles, aggregates, and mitochondrial pathologyである。ただし、評価は定まっていない。
・International Myositis Assessment and Clinical Studies (IMACS) などが、現在新しい分類基準の作成を開始した。
・虚血が皮膚筋炎や多発筋炎の筋力低下に関与しているかもしれない。
・接着因子である KAL-1が皮膚筋炎の病態生理に重要な関与をしているという考え方が出てきた。免疫グロブリン大量投与で改善した患者では、この分子が有意に減少している。
・炎症性ミオパチーの遺伝的要因として、HLA-DRB1*0301は抗Jo-1抗体に関与している。アフリカ系アメリカ人では、HLA-DRB1*11:011は抗HMGCRに関与している。Caucasianでは、HLA-DRB1*0301は孤発性封入体筋炎に関与している。HLA-DRB4は保護効果があり、HLA-DRB1*0301のリスクをゼロにする。その他、いくつかの遺伝子多型も指摘されている。
・治療の第一選択はステロイドで、治療抵抗性やステロイドが使えない時、減量が困難なときなどに他の治療を考慮する。第二選択として、アザチオプリン、メソトレキセート、免疫グロブリン大量投与が一般的に用いられる。他には、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、リツキシマブ、シクロスポリン、サイクロフォスファミドも用いる。ステロイド抵抗性の間質性肺炎では、ミコフェノール酸モフェチルやシクロスポリン、タクロリムスなどが有効である。アザチオプリンは効果発現に 4~8ヶ月かかり、1~2年でピークとなる。ミコフェノール酸モフェチルやシクロスポリンは 6ヶ月以内に効果があるが、毒性が強い。メソトレキセートは間質性肺炎の原因となるので、間質性肺炎を伴った筋炎や抗Jo-1抗体陽性患者では使用を避ける。重症の炎症性ミオパチーでは、アザチオプリンとメソトレキセートの併用が有効である。免疫グロブリン大量投与は前向きRCTを欠くが、単剤での治療で効果があり、ステロイドの使用を避けられることもある。リツキシマブは第三選択の扱いだが、エビデンスが蓄積しつつある。その他新薬として、アバタセプトは、第2相研究が行なわれている。アナキンラはパイロット研究が行なわれた。TNF阻害薬であるインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブは有効性が示せなかった。シファリムマブは第2相試験が行なわれている。 ・エクササイズは安全であり、有効である。
・昔の研究では 5年生存率は 50%以下であったが、2012年の研究では 10年生存率が 62%だった。死因は心疾患 22%, 肺疾患 22%, 感染症 15%, 癌 11%だった。皮膚筋炎と多発筋炎患者の 20%が寛解し、5年以内にステロイドを離脱できた。
この論文を読んで疑問に思った点を、2月4日に電気生理学の師匠「はりやこいしかわ」先生と酒を飲んだ時に聞いたら、次のように教えてくれました。 ①著者は “Paraspinal muscles show the most prominent features on EMG examination and should be included routinely.” って書いていて、針筋電図ではルーチンに傍脊柱筋を検査すべきであると書いてあるけれどそうなのですか?
はりやこいしかわ先生: 皮膚筋炎や多発筋炎では、感度の良い筋とそうではない筋があって、傍脊柱筋は感度が良い筋の一つなので、好んで検査する医師もいる。でも、加齢の影響を受けやすい (偽陽性となりやすい) ので、僕はやってない。
②14%の患者では、筋生検をしても異常が検出できないことがあるって本当ですか?
はりやこいしかわ先生: そうだよ。針筋電図 positive, 筋病理 negativeってのはたまにある。