最近の医学論文【中】

By , 2017年3月24日 9:26 PM

(最近の医学論文【上】より続く)

Assessment of Safety and Efficacy of Safinamide as a Levodopa Adjunct in Patients With Parkinson Disease and Motor Fluctuations: A Randomized Clinical Trial. (2017.2.1 published online)

MAO-B阻害薬である safinamideの第三相試験。Safinamideはジスキネジアのない on時間を 9.3時間から 1.42時間延長した。プラセボ群では 9.06時間から 0.57時間延長した。ジスキネジアは、safinamide群 14.6%, プラセボ群 5.5%だった。そして、FDAが 2017年3月21日承認

セレギリン、ラサギリンに続く薬剤。他の薬剤との直接比較がどうなのか知りたいところ。

Blood-based NfL: A biomarker for differential diagnosis of parkinsonian disorder. (2017.2.8 published online)

血液で、パーキンソン病とそれ以外のパーキンソン症候群 (atypical parkinsonian disorders; APD) を鑑別できないかという試み。パーキンソン病では neurofilament light chain (NfL) は上昇しないが、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症候群では上昇することを用いた。パーキンソン病を APDと鑑別する感度/特異度は、 Lund cohortで 82%/91%, London cohortで 80/90%, Early disease cohortで 70/80%だった。NfLは髄鞘化大径線維の変性のマーカーであり、脳卒中、頭部外傷、APD, 筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭葉変性症などで上昇することが知られている。パーキンソン病では上昇しない。軸索変性が重度でなく、また広範ではないことが原因ではないかと推測されている。

NfL

NfL

血液検査で、精度良く鑑別できるのは大きな利点だと思う。

Development of a Biochemical Diagnosis of Parkinson Disease by Detection of α-Synuclein Misfolded Aggregates in Cerebrospinal Fluid. (2017.2.1 published online)

パーキンソン病患者の髄液中の微量の α-synucleinを protein misfolding cyclic amplification (PMCA) で検出することで、感度 88.5% (95%CI 79.2-94.6%), 特異度 96.9% (95%CI 89.3-99.6%) の診断精度をえられるという報告。

PMCAは 2014年に報告された論文で尿中のプリオン蛋白を検出するのに用いられた方法で、これがパーキンソン病の髄液 α-synucleinで報告されたというのは、α-syculeinとプリオン蛋白との類似性の現れなのかもしれない。

Predictors of survival in progressive supranuclear palsy and multiple system atrophy: a systematic review and meta-analysis. (2017.3.1 published online)

進行性核上性麻痺や多系統萎縮症の予後予測についての systematic review & meta-analysis。進行性核上性麻痺では、予後不良因子として、Richardson型、初期の嚥下障害や認知機能障害が挙げられる。多系統萎縮症の予後不良因子は、重度の自律神経障害、初期から自律神経障害と運動症状の合併が挙げられる。そのほか、進行性核上性麻痺と多系統萎縮症で、早期からの転倒も予後予測因子だった。

この論文で勉強になったのは、予後予測因子そのものより、各研究での生存曲線。いずれの疾患も、約5~10年で半数、10~15年で大部分が亡くなるという結果が一目瞭然。

Predictors of survival in PSP and MSA

Predictors of survival in PSP and MSA

Safety and efficacy of ozanezumab in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. (2017.1.28 published online)

筋萎縮性側索硬化症に対する分子標的治療薬 ozanezumabの第二相試験。SOD1G93A mouseに効果を示した Neurite outgrowth inhibitor A (Nogo-A) に対するモノクローナル抗体 ozanezumabは ALS患者に対して、プラセボ比較で効果を示すことができなかった。

論文の考察でも少し触れられているけれど、SOD1をターゲットに薬剤を開発しても、SOD1変異がない大部分の ALS患者では効果がないということなのだろうか・・・。SOD1変異のあるヒトを対象とした臨床試験をおこなったらどうだろうかと、ふと思った。

Zika virus infection and Guillain-Barré syndrome: a review focused on clinical and electrophysiological subtypes. (2016.10.31 published online)

ジカウイルスによる Guillan-Barre症候群の総説。AIDPタイプが多い、顔面の麻痺を伴うことが多い、入院時に抗asialo-GM1抗体が 31%に検出されるがジカウイルス抗原と asialo-GM1の関連を示すエビデンスはない、などの点がポイント。

Genetic heterogeneity of motor neuropathies. (2017.3.1 published online)

運動ニューロパチーの遺伝的多様性を調べたイギリス北部の大規模コホート研究。105名の内訳は、distal hereditary motor neuropathy (dHMN) 64名、axonal motor neuropathy (Charcot-Marie-Tooth disease type 2) 16名、hereditary motor neuropathy plus 25名であった。原因遺伝子は 35.6%で同定された。遺伝子の内訳と、鑑別を考えるときの手がかりは下記。

Genetic heterogeneity of motor neuropathies

Genetic heterogeneity of motor neuropathies

Netrin-1 receptor antibodies in thymoma-associated neuromyotonia with myasthenia gravis. (2017.3.1 published online)

胸腺腫、neuromyotonia, 重症筋無力症のある 3名の患者の血清を用いて免疫沈降法をおこなった。沈降したタンパク質 182のうち、コントロール群の血清と反応したタンパク質などを除外した後、細胞表面タンパク質が 9種類残った。Neuromyotoniaの患者サンプルを用いて、cell-based assayをおこない、Contactin-associated protein 2 (Casper2), Deleted in colon cancer (DCC), Netrin uncoordinated-5A receptor (UNC5A) の 3つの抗体が同定された。抗Netrin抗体 (DCC, UNC5A) 陽性患者はいずれも胸腺腫があった。

Serum antibody-positive patients

Serum antibody-positive patients

Venn diagram

Venn diagram

胸腺腫合併の重症筋無力症や neuromyotoniaで、抗Netrin-1抗体が陽性になることがあるらしいという話。覚えなくてはいけない抗体がどんどん増える。

Long-term survival in paraneoplastic Lambert-Eaton myasthenic syndrome. (2017.3.1 published online)

肺小細胞癌患者は、Lambert-Eaton筋無力症候群 (LEMS) を合併した方が予後がよさそうという報告。Lead time biasでは説明できないらしい。原因はよくわかっていないけれど、LEMSで検出される抗VGCC抗体が腫瘍の増殖にとってマイナスに働いているのではないかと推測されている。

肺小細胞癌とLEMS

肺小細胞癌とLEMS

Cerebellar Ataxia and Hearing Impairment. (2017.2.1 published online)

51歳男性。マラソンをして 1ヶ月もしないうちに進行性の歩行障害が出現した。また難聴を訴えが、他人の話したことを解釈するのが難しいようだった。浮動性めまいや膀胱直腸障害はなかった。バランス障害をきたすような家族歴は無かった。弁護士としての勤務は可能だった。神経学的には軽度の小脳失調はあったが、ミオクローヌスやパーキンソニズムはなかった。MoCAは 28/30点だった。頭部MRIは異常がなかった。髄液は正常で、14-3-3蛋白も正常範囲内だった。傍腫瘍症候群の抗体は陰性で、脳波も正常だった。1ヶ月後、車椅子生活となり、正確変化がみられた。小脳失調が悪化し、姿勢反射障害もみられたが、ミオクローヌスはなかった。けいれんが出現して入院した。精神症状が悪化し、無言となった。脳波も徐波となった。頭部MRIでは拡散強調像を含めて異常なかった。

診断はクロイツフェルト・ヤコブ病。感覚性失語を伴う急速進行性の失調が診断の手がかりとなる。鑑別診断は、亜急性失調+末梢性難聴として、傍腫瘍症候群、そのほか成人発症 CAPOS (cerebellar ataxia, pes cavus, optic atrophy, and sensorineural hearing loss) 症候群など。しかし、末梢性難聴がないことや、けいれんがあったことから考えにくい。亜急性の失調としては、ビタミンB1欠乏やビタミンE欠乏が挙げられるが、これらは正常だった。頭部MRIでも Wernicke脳症を示唆する所見はない。ビタミンB1を補充しても改善はなかった。橋本脳症のようなステロイド反応性脳症も考えたが、抗TPO抗体は陰性であり、ステロイドパルスも無効であった。通常耳鳴りや回転性めまいを伴わない聴力低下や聴覚過敏は、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病の初期症状として報告されている。髄液14-3-3蛋白、脳波、拡散強調像の感度/特異度は高い (髄液14-3-3蛋白 92/80%, 脳波での周期性同期性放電 67/86%, 拡散強調像 83-92/87-95%) が、いずれも正常な場合があり、特に初期症状が小脳失調の場合に多い。これらは無言無動状態となってさえみられないことがある。この患者の剖検では、視床、海馬、小脳歯状回に海綿状変性があり、ウエスタンブロットで異常プリオンタンパクの存在が確認された。病理学的には thalamic CJD / sporadic familial insomniaに合致する所見であったが、このような表現型ではなかった。

主要検査所見が全て陰性である triple negative CJDは小脳失調で発症するタイプにみられやすいことを 2016年12月31日のブログで書いておきながら、すっかり忘れていた。復習が必要。

The prion model for progression and diversity of neurodegenerative diseases. (2017.2.23 published online)

神経変性疾患の原因タンパク質が個体内あるいは個体間で伝播するというプリオン仮説の総説。研究の現状や、治療 (免疫療法、RNA干渉)。

prion仮説

神経変性疾患のprion仮説

ラボで基礎実験をしていた時代、TDP-43のプリオン仮説を唱えている先生の講演を聞いて以来、注目している仮説。

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