取材
人から伝え聞いた話。読売新聞から、帝京大学の園生雅弘先生の所に取材が来て、ある記事が書かれました。園生先生は電気生理の大家です。園生先生が懇切丁寧に答えて、書かれたのが下記の記事。
謎のしびれに「神経伝導検査」
電気刺激反応で原因発見千葉県の会社員、樋口治さん(53)は昨年5月、左足がしびれ、足先が上がらなくなった。整形外科や大学病院で、腰のMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査を受けたが、原因ははっきりしなかった。「腰に小さな椎間板(ついかんばん)ヘルニアがあるのかもしれない」と、腰を伸ばす「けん引」治療を受けたものの、良くならない。4か月後、東京都板橋区の帝京大病院神経内科で「神経伝導検査」を受けたところ、腰ではなく、ひざ付近の神経に障害があることが原因と分かった。(高橋圭史)
手足がしびれたり、痛んだりする場合、痛みの感覚を伝える神経経路のどこかが傷んでいることが多い。そんな場合、診断に使われるのが、電気刺激に対する筋肉の反応を調べる神経伝導検査だ。
同科准教授の園生雅弘さんは「脳からの指令を伝えて筋肉を動かすのも、全身の感覚を脳に伝えるのも、すべて神経を通じた電気信号。だから電気刺激への反応で、神経経路のどこに問題があるか、確かめられる場合が多い」と、検査の仕組みを説明する。
まず、しびれなどがある手や足に、筋肉の反応を読み取る電極(記録電極)をつける。次に、電気刺激する電極(刺激電極)を、神経の通り道に沿って、腕や足に順次当てていく。
刺激に対する反応は、モニターに波形で示される。波形が表れれば、刺激電極から記録電極までの神経経路は正常だ。逆に反応がなければ、その途中で神経が障害を受け、信号が遮断されていることが分かる。
樋口さんの場合、ももの裏からひざの外側を通り、しびれている足先に向かう腓骨(ひこつ)神経の経路を調べた。まず足の甲の筋肉で反応を読み取るため、足首に刺激電極を当てた。モニターに山なりの波形が表れ、「正常」が確認された。刺激電極をひざ下に移しても、やはり「正常」だった。
しかし、ひざ上に刺激電極を移すと、波形は、ほとんど平らだった。このことから、園生さんは「ひざ下からひざ上の間で、腓骨神経が障害を受けている」と判断した。
ひざの外側は肉が薄く、圧力が加わると神経が傷みやすい。樋口さんは起床直後にしびれが始まったことから、就寝中に、横向きで両ひざが重なるなど、ひざの外側が押される体勢になったためとみられた。こうした腓骨神経障害は足を組んだ後にも起こり、しびれとまひが数か月続くことも少なくないが、多くは自然に治る。樋口さんも、昨年末には完治した。
だが、MRIなどの画像検査では、背骨のクッションの役割をする椎間板の一部が飛び出して神経を圧迫する椎間板ヘルニアなどと誤診されることも珍しくない。園生さんは「こうした誤診は、MRIが普及したことで、むしろ増えている。誤診や、それに伴う無駄な治療を減らすためにも、神経伝導検査は有効」と話す。
手や腕にしびれなどの症状が出た場合も、問題が起きているのが首なのか、腕や手なのか、同様の手順でこの検査を行う。
首や腰などの異常や、全身の神経や筋肉の異常を調べる際は、筋肉に針を刺し、電流を流して反応を見る「針筋電図検査」という方法も有効とされている。
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日本臨床神経生理学会は、筋電図、神経伝導検査を行う医師を認定している。認定医242人の一覧は、学会のホームページ(http://jscn.umin.ac.jp/)で閲覧できる。(2007年11月16日 読売新聞)
園生先生は、記事を読んで唖然としたそうです。「そんなこと一言も言っていない」ことが書かれていたからです。
> 首や腰などの異常や、全身の神経や筋肉の異常を調べる際は、筋肉に針を刺し、電流を流して反応を見る「針筋電図検査」という方法も有効とされている。
針筋電図は、電流を流して反応を見る検査じゃありません。おおざっぱに言うと、筋肉の微弱な電流を拾って評価する検査です。針の刺入時や安静時、筋収縮時の波形パターンで、神経原性、筋原性、中枢性、ヒステリーなどを鑑別します。また、障害された筋肉の組み合わせで、病変部位を推測することが可能な場合もあります。いずれにしても、針筋電図でこちらから電流は流しません。
他にも、ツッコミ処はあります。
> 波形が表れれば、刺激電極から記録電極までの神経経路は正常だ。
神経伝導検査では、波形が出現したとしても、潜時延長、振幅低下、伝導速度の遅延などは異常所見で、診断に有用です。むしろ、波形が出ないより、波形が出るけれども異常があるという場合の方が圧倒的に多いです。
取材をするのは良いのだけど、記者は原稿見せて、誤りを正してもらうべきだったかもしれませんね。あくまで記者は素人なんですから。いくら取材をしたとしても、誤解したままだったら、事実を記事にすることはできません。素人が取材して、理解不足のまま記事にするのは危険です。
マスコミの取材に関しては、学生時代、さる大学の皮膚科の先生の愚痴を聞いたのを思い出しました。今回のは記者の理解力不足、学生時代聞いたのは売り上げ偏重の意図的報道である点が違いますが。
「マスコミが取材にきてさ、ステロイド治療について40分喋ったの。少し副作用にも触れたら、記事に副作用のことしか書いてないの。俺への取材は何だったのかな。以前、ステロイドが恐いと書いた記事を読んだ患者が、頑なにステロイド使用を渋って、結局死んじゃったんだよね。でも、誰も責任とらないんだよ。」