多発性硬化症治療学寄附講座
11月 7日に埼玉 MS研究会に行ってきました。東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座の藤原一男教授の講演を聴きました。抗アクアポリン (AQP)-4抗体陽性の疾患概念を独立して捉えようという趣旨。
以前、報道で視神経脊髄型の多発性硬化症 (MS) に IFN-βは望ましくないと報道されたそうですが、実は抗 AQP-4抗体が陽性となる Neuromyelitis optica (NMO) では無効例が多かったり再発回数が増加する事例があったにしても、抗AQP-4抗体陰性の視神経脊髄型ではIFN-βが有効なのです。両者は分けて考える必要があります。この報道を見た患者の中に「多発性硬化症に IFN-βは有害なんだ」と誤解している方が少なからずいます。NMOと MSを別の病気として確立すれば、このような誤解は避けられるでしょう。NMOと MSでは治療法が異なるので、別の病気としてしまう方が、患者には理解しやすいのかもしれません。
また、病理学的にも髄鞘の障害が目立つ多発性硬化症に対して、Astrocyteの障害を主体とする NMOは別の概念と言えるのかもしれません。
更に学問的には、抗 AQP-4抗体陽性の脳病変も色々知られるようになってきており、延髄の線状の病変であったり、視床下部両側性の病変であったり意識障害を伴う広範な白質病変であったりします。これらは、AQP-4Ab associated CNS syndromeとして捉えるべきなのではないかと考えられています。
これらの知見から、NMOを独立した特定疾患として厚生労働省に認めさせ、治療法に免疫抑制剤などを保険適応で認めさせるというのが藤原教授の願望の一つです。NMOには免疫抑制剤が有効で治療ガイドラインにも定められているのですが、現状ではその免疫抑制剤が保険適応ですらないのです。高額な薬なのに・・・(保険は詳記を書けば通りますが、切られるリスクもあります)。
この分野のオピニオン・リーダーの講演で、わかりやすい講義でした。眼科では「視神経炎にはステロイドは必要ない」という考えがスタンダードです。しかし、視神経炎が NMOの初発症状であることも多く、眼科医もこのような知識が必要だと思います。今回は、眼科の先生を連れて行ったのですが、非常に感激してもらえました。視神経炎の段階で NMOと診断して治療を開始できれば、脳病変や脊髄病変、失明を防げるようになる可能性があります。眼科界でも一大センセーションが起こるかもしれませんね。ただ、眼科では視神経炎という分野は非常にマイナーで、研究者が少ないので、一般に認知されるようになるには少し時間がかかるかもしれません。
さて、講演の最後に藤原先生の教室の Web pageが紹介されました。特にブログは数日おきに更新するので是非見て欲しいということでした。実際に覗いてみると、私が聞いた講演の内容の多くが載っていました。抗 AQP-4抗体の検体の送り方なども書いてありますので、是非見てみてください。