細胞

By , 2009年1月10日 9:25 AM

雑誌「Newton」の 2009年 2月号の特集は、「細胞」でした。大学時代に習ったことをわかりやすく書いており、懐かしく読みました。

私が通っていた高校は、大学に進学する生徒がほとんどおらず、学校側も理科は「物理」「生物」「化学」を複数教えると落ちこぼれるとの配慮で、一科目だけしか履修できませんでした。私は「物理」を選択肢、「化学」を独学で勉強して医学部を受験しましたので、生物の知識はほとんどありませんでした(ついでに、社会も「地理」の担任と喧嘩して、独学で「日本史」を勉強して受験しました)。

医学部に入学して、「細胞生物学」や「分子生物学」が始まったとき、「何だ?これ?」と思いました。中学生レベルの生物学の知識しか持ち合わせず、DNAとか全然わからないのにどんどん専門的な話になっていって、最初の授業で落ちこぼれました。その後は友人の張る試験のヤマに進級を賭けたものでした。「The cell 細胞の分子生物学」などと有名な本もありますが、分量が多く、全体像を見えない人がいきなり読むには難しいと思います(ある程度わかってから読むと面白いんですけどね)。

本書は、非常にかみ砕いて細胞生物学の基本的な全体像が示されており、これを短時間で読んでおけば、もっとわかりやすかっただろうなと思いました。細胞説の成立(フックの法則で有名なロバート・フックがラテン語で小部屋を意味する「cella」にちなんで「cell」と著書「ミクログラフィア」に記載。アントニ・レーウェンフックが赤血球などを顕微鏡で発見して報告し、ブラウン運動で有名なロバート・ブラウンが核の存在に気付いた。1838年にシュライデンが植物について、1839年にテオドール・シュワンが細胞説を提唱)から細胞の全体像、個々の小器官の役割、DNAの複製、細胞の死まで簡単に解説されています。

その他に本書で面白かったのは、「プロ棋士の脳の活動から、直感のしくみがみえてきた」という項です。脳波の解析では、プロ棋士は定跡形を見ると 0.1秒後に前頭部に反応が出ます。一方、でたらめな配置だと側頭部に出現しますが、前頭部には出ません。アマチュアだと、駒の配置に関係なく、前頭部と側頭部にゆっくり (0.3秒) で反応が出るらしいです。また、MRI (記載はないが、おそらくfunctional MRI) で調べると、詰め将棋を解くときには大脳基底核の一部が活発に活動するようです。音楽と脳に関する実験で、被験者によって脳の活動部位にかなりばらつきがあるようですが、将棋のプロとアマチュアの違いのように、被験者の経験が非常に影響してくるのかもしれませんね。

本書には、「光をあやつる透明化技術」という特集もあります。透明人間になる方法です。

透明人間になるために、光学迷彩という方法があるのですが、いくつかの条件が満たされると可能になります。一つは、物質表面で光を乱反射させずに光が来た方向に返る(再帰性反射)ことと、投影した映像以外の部屋の中の光が観察者に反射しないことです。再帰性反射剤は既に実用化されていて、自動車用品や道路の看板などに用いられています。しかし、光学迷彩でわれわれが透明人間になるためには、背景の映像を撮像するビデオカメラ、カメラ映像を観測者の視点からのものに変換するコンピューター、背景のカメラ映像を対象物に投影する映写機、入射した光の半分を反射し半分を透過するハーフミラー、対象物に被せるための再帰性素材により作られた透明マントが必要です。これでは、女風呂に入れません (^^;

その他に試みられているのが、「メタマテリアル」の研究です。自分の背後から進んできた光をねじ曲げて前方に送ることが出来れば、周囲の人々からは背後からの光しか見えず、透明になれます。そのための条件は、屈折率が負になることなのだそうです。このことを予想したのが 1967年ソ連のビクター・ベセラゴです。1999年にジョン・ベンドリーは一種の電気回路で負の屈折が実現できると発表し、2001年アメリカのデビッド・スミスがマイクロ波で「負の屈折」をおこす構造物を実現しました。2008年 8月にアメリカのシン・チャンは可視光線で負の屈折を起こすメタマテリアルを誕生させました。こうした技術はこれからもどんどん進歩していきそうです。

「透明技術」の進歩に従って、エロい使い方しか思い浮かばない私と違って、真っ当な応用が提案されています。例えば、従来の顕微鏡では光の波長より細かい物質を見ることができないのですが、メタマテリアルを用いた「スーパーレンズ」を用いれば、この限界を超える可能性があるのだそうです。詳しいことはよくわかりませんが、分子生物学の発展に寄与するかもしれませんね。

さて、負の屈折率を得るための方程式が存在するそうなので、最後に紹介しておきます。

n (屈折率) = ±ルート{μ (透磁率) x ε (誘電率)}
ε, μが正の数 εxμは正の数となる 透明 正の屈折(普通の屈折)
ε, μのうち一方が正の数、一方が負の数 εxμは負の数となる 不透明 屈折はおきない
ε, μが負の数 εxμは正の数となる 透明 負の屈折

Post to Twitter


Leave a Reply

Panorama Theme by Themocracy