頭痛
頭痛患者が正確に診断されるまで、いくつかの病院を回らなければならない、正確な診断に年月がかかる現状があります。これは、医師患者ともに知識が不足しているからであり、何故不足するかと言えば、「我慢すればすむ頭痛」「進行しないし死なない疾患」に対する医師の認識が甘いからです。一般の方向けに、簡単に書きます。
基本的に、頭痛患者を見たとき、一次性頭痛と二次性頭痛に分けます。二次性頭痛というのは、わかりやすく言うと、脳出血とか、動脈瘤とか、髄膜炎とか、いわゆる医者が「やべーっ」と思う頭痛です。症候性頭痛とも呼ばれ、器質的異常が指摘できるものです。こういうものを見逃さないために、頭部CTやMRIなどで検査します(ドイツでは金がかかるので問診で二次性頭痛が否定できたら画像検査はやりません。日本は外れていたとき訴えられるし、希望する患者が多いし、病院の収入になるので検査します)。二次性頭痛の診断は、他国と比べて画像検査がやり放題の日本では、見逃すことは少ないと思います。二次性頭痛にどんな病気があるか知りたい奇特な・・じゃなくて勉強熱心な人は、下記のサイトを見てください。
問題は一次性頭痛です。一次性頭痛には、大きく片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、その他と分けられます。基本的には画像検査で異常がでないので、問診で診断するしかありません。ところが、問診というのは知識もいるし、診察にも時間かかるし、そんなに時間かけていたら外来終わらないし、とりあえず痛み止め使っておけばある程度効くし、どうせ命には関わらないし、いずれ痛み取れるだろうし・・・といった理由で敬遠されがちです。で、不幸な頭痛患者は病院を転々とし、不幸にも正しく診断されなければ、諦めて市販薬を乱用したり始める訳です。ひどい話でしょうが、オブラートにくるんだ表現をしなければそんなものかもしれません。
で、一次性頭痛についてです。群発頭痛は非常に頻度が少ないのですが、かなり特徴的で医師にも印象ぶかいものです。特徴が医師国家試験にも出ますので、見逃されにくいかもしれません。特徴というのは、七転八倒暴れ回るくらいの頭痛が発作期の明け方連日に続くことです(厳密には例外もあります)。私が勤務していた病院の先生は、この群発頭痛で、あまりの痛さに柱を蹴飛ばし、骨折したそうです。
緊張型頭痛はメカニズムはよくわかっていないものの、肩こりと関連していることが多いため、かなりの医師は「肩こり=緊張型頭痛」と思いこんでいて、片頭痛でも半数前後は肩こりを持つことを知らず、誤診します。「肩こりがあるの?はい、緊張型頭痛、ロキソニン出しとくね。」で、診察終わりです。でも、片頭痛を見逃さないためには、頭痛患者を診たら二次性頭痛を否定して、一次性頭痛と思ったら、片頭痛と群発頭痛を除外して、残ったらやっと緊張型頭痛というくらい慎重であった方が良いと思います。
で、緊張型頭痛と診断されたとき、頭痛の頻度が月に10回くらいまでの人は頓用の頭痛薬で対応して良いのですが、それ以上になってくると、薬剤性頭痛(MOH)という治療の難しい頭痛を誘発しかねないので、注意が必要です。一般的には、筋肉の緊張をとると改善することが多く、ミオナール、テルネリン、アロフトといった、筋弛緩薬を内服します。これらの薬は、薬にあわなくてふらつく人が若干いますが、基本的には副作用はほとんどなく、飲み始めるとやめたくないという人が多いです。緊張型頭痛ではしばしばめまいを合併します。
多くの人が、正しく診断されていないのが、片頭痛です。片頭痛の原因については諸説あります。大きく3つくらいの説が有名です。血管説、神経説、三叉神経血管説とありますが、興味のある人は、教科書かネットで調べてください。
片頭痛を診断するキーワードは、
・拍動性頭痛(ズキンズキンする)
・若年発症(遅くても30歳くらいまでには発症する)
・3日以上頭痛発作が続かない
・発作中光・音・臭い過敏がある(発作中は電気を消した音のない部屋で横になっていたい)
・家族歴があることが多い、生理前にひどくなることが多い
・前兆(光るものが見えたり、肩こりがするなど)が頭痛前にすることがある
・吐き気を伴うことが多い
・こめかみを押さえると頭痛が軽くなる場合がある
などといったものです。軽症の発作はロキソニンなどの消炎鎮痛剤で治りますが、中等症以上の発作では、トリプタン系の薬剤でないとなかなか痛みがとれません。本当にひどい発作だと、寝込んで動けなくなってしまうのですが、このことを理解出来ない人たちは、「頭痛くらいでおおげさな」と、軟弱もののレッテルを貼ってしまいます。このサイトを見て、上のキーワードに当てはまる人は、頭痛専門外来の受診を勧めます。
発作が少ない人は、トリプタン系薬剤(イミグラン、ゾーミック、マクサルト、レルパックス)の頓服で良いでしょう。約90%の人はそれが良く効く筈です。発作の多い人は、ミグシスなどの予防薬の内服を行い、発作を減らします。とても強い発作の時は、イミグランの皮下注射を行ったりします。トリプタン系の薬剤は、広がった血管を収縮させて痛みをとることを目的にしているので、脳の血管が細くなっている人(脳梗塞や脳虚血発作の既往)や、冠動脈の血管が細くなっている人(心筋梗塞や狭心症の既往)は禁忌です。
特殊なタイプの頭痛として、脳底型片頭痛には「不思議の国のアリス症候群」という病気を合併することがあり、歪視や、自分の体が長く見えたり短く見えたりする感覚、時間の先送り感、身体浮遊感などを伴います。時に統合失調症と間違えられることがあり、大学病院でも誤診されて精神科に入院させられてりします。この疾患を知っている医師があまりいないというのも問題です。一過性全健忘という病気を合併することもあり、これは行動していたことの記憶が抜けてというものです(酔っぱらった時は除きますよー!)。読んでみてあてはまる気がした人は、頭痛専門外来を受診することを勧めます。
こうした頭痛で悩んでいる若い女性が多く、飲み会で頭痛の話題にすれば、話題が発展します。いやいや、不純な動機じゃなくてさ。
(参考)
・国際頭痛分類第2版
・頭痛大学
・慢性頭痛の先生