認知症の脳科学
「臨床医が語る 認知症の脳科学 (岩田誠著, 日本評論社)」を読み終えました。
脳科学というのはエセがはびこる分野ですが、この本は真っ当な本です。神経内科、特に高次脳機能の大御所が、記者にわかりやすく語ったものを纏めていますので、一般の方が十分楽しむことができます。
本書が他の本と違うのは、認知症の方の症状が何によって出ているのかを理解しようとし、それによって対処法を考えていることです。認知症の方と接したとき「何でそんなことをするの?」と思うことも多いのですが、これまでその答えを示した本は少なかったように思います。理解しようとするプロセスには科学的な方法が用いられますし、そうした理解から応用の利く対処法が示されます。また、著者の深い臨床経験に根ざしていて、具体例も出てきますので、難しい話でもイメージが湧きやすくなっています。
医師にとってもハッと思わされるところがあります。最近では患者さんの病気を点数化して診断基準を満たしたとか、治療効果がどうだったとか考えるのが一般的です。一見科学的に見えるし、医療過誤を問われにくいとも言えます。しかし個々の場合にケース・バイ・ケースで対応しようとする考え方が希薄になっていると言えます。臨床とは個々の患者さんを相手にするものであることを本書は思い出させてくれます。
こうした意味で、医療関係者にも非医療関係者にも是非勧めたい本です。認知症の方を介護している人は絶対読んでおいた方が良いと思います。
(追記) ちなみに、私はこの本を自分が主治医であった認知症の患者さんに教えて貰いました。患者さんはこの本に出会って随分救われたそうです。
またしても岩田誠先生の尊名をmigunosukeのHPで接しました。(追記)はstoryですね。
今夕のTVでは10年後に認知症の患者が400万人、と伝えていました。「検証を伴わない予測」が多いので聞き流しました。
しかし、「個々の場合にケース・バイ・ケースで対応しようとする考え方」からは、私も私の連れ合いも認知症になる可能性はあるということになります(少しこじつけ?)。
下肢のcrampという症状、病を得ている者、一般にも、激励的な内容の著本のように思われました。
「認知症」に慣れ親しんでおくことで、スムーズな対応・受容ひいては、厚かましいことかもしれませんが、その抑止の効果も期待したい。ぜひ、この本を熟読したいと思います。