第1回ALSフォーラム

By , 2010年8月31日 7:15 AM

8月 28日に第 1回 ALSフォーラムに行ってきました。14時~19時までみっちり ALSの話。でも興味深い演題の目白押しで全然長さを感じさせませんでした。どうやら筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のみを扱ったこうしたフォーラムってこれが初めてらしいですね。ただ、同じ日に別の場所で「J-CAN 2010 What Amyloid tells us?」が開かれていたのは残念でした。体が二つあれば良かったのですが・・・。

備忘録的に簡単に聞いた内容を纏めてみました。聞き間違いがあるかもしれませんので、論文などでチェックしておくことをお薦めします。

第1回 ALS フォーラム【Session 1 ALS研究 Update】
1-1 「TDP-43とALS/FTLD -細胞内 TDP-43蓄積モデルの構築とその応用-」
東京都精神医学総合研究所 分子神経生物学研究チーム 首席研究員 野中隆先生
1-2 「FUS/TLSと ALS」 指定発言
東北大学大学院 医学系研究科 神経内科学分野 講師 青木正志先生
1-3 「OPTN変異を伴う ALS」
広島大学 原爆放射線医科学研究所 分子疫学研究分野 教授 川上秀史先生
1-4 「iPS細胞作製技術を用いた神経変性疾患の研究」
京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門 准教授 川上治久先生

【Session 2 診断】
2-1 「ALS」の早期診断
帝京大学医学部 神経内科 准教授 園生雅弘先生
2-2 「ALSの診断 -診断に迷う症例から-」
東京都立神経病院 脳神経内科 医長 清水俊夫先生

【Session 3 治療とケア】
3-1 「QOLの改善を目指したALSの治療:No cure does’t hope no hope.」
札幌山の上病院 神経総合医療センター 神経内科 部長 野中道夫先生
3-2 「医療連携と看取りの問題」
北里大学医学部 神経内科学 講師 荻野美恵子先生

1-1 「TDP-43とALS/FTLD -細胞内 TDP-43蓄積モデルの構築とその応用-」
TDP-43は数年前からの topicsです。FTLDや ALS患者の脳にみられる封入体は不溶性であり、電気泳動で不溶性分画を回収したところ、TDP-43という蛋白質が見つかりました。これは FTLDや ALSで見られる封入体を構成する主要蛋白質の一つと考えられています。TDP-43は Ser 379, Ser 403, Ser 404, Ser 409, Ser 410などの部位でリン酸化を受けて蓄積しています。元々核に存在する蛋白質なのですが、Δ78-84変異では細胞質内に蓄積し、この部位が核移行シグナルだと考えられます。

さらに研究を進め、患者脳の電気泳動で、全長TDP-43より C末端断片の方が多く検出されることから、全長 TDP-43より C末端の方が細胞内において凝集しやすいことがわかりました。また、FTLDや ALS脳において、TDP-43凝集体が存在する細胞の核から TDP-43の染色が消失することもわかりました。これから、「細胞質で合成された全長 TDP-43が核に移行する前に C末端断片の凝集体に巻き込まれるのではないか?」とする仮説が提唱されました。

MTC (methyl thioninium chloride: in vitroで Aβやタウの凝集を抑制) や dimebon (ロシアの抗アレルギー薬) は TDP-43の C末端断片による凝集体形成抑制に効果があり、実験系では両者を併用すると 70%もの抑制効果がみられました。これらは治療薬としての応用が期待されています。TDP-43異常による神経変性は、「TDP-43の異常蓄積」「TDP-43の生理機能消失 (核からの TDP-43消失)」両者が考えられ、今後の研究が期待されます。

1-2 「FUS/TLSと ALS」 指定発現
とある、日本の SOD1異常を伴わない家族性 ALSの家系について調べました。4世代 46人のうち半数 23人が各世代にわたり発症しています。浸透率の高い常染色体優性遺伝と考えられます。

近年 Brownらが FUS/TLS遺伝子変異による家族性 ALS (ALS 6) を報告しましたが、その家系の剖検脳では FUS陽性封入体が観察されました。FUD/TLSと TDP-43の構造類似性なども指摘されています。

1-3 「OPTN変異を伴う ALS」
Optineurin遺伝子 (OPTN) 変異による家族性 ALSは川上先生らのグループが世界で初めて同定し、nature誌に発表しました。OPTNは 16 exonsからなり、原発性開放隅角緑内障 (Primary open angle glaucoma; POAG) の原因遺伝子でもあります。遺伝子異常は次の 3つがわかっています。

①Mutation type 1: Exon 5消失による loss of function
②Mutation type 2: Nonsense Mutation (Q398X)
③Mutation type 3: Missense Mutation (E478G)

孤発性、遺伝性を問わず、ALS患者の脊髄運動ニューロンにおける封入体は OPTNで染色されることも指摘されています。ALSの病因解明に大きな役割を果たす可能性が示唆されます。

1-4 「iPS細胞作製技術を用いた神経変性疾患の研究」
ヒト iPS細胞から運動ニューロンに分化させると、神経系にみられるべき様々なマーカーが発現し、シナプスも形成していました。変異 SOD1関連 ALS iPS細胞を樹立し、新薬の開発に応用する試みが行われています。

2-1 「ALS」の早期診断
ALSの診断に重要なものについて下記の内容を講演しました。

①Upper motor neuron (UMN) sign
ただし、観察者によって UMN signがあるかどうか意見が分かれる場合があり、客観的なマーカー (MRI, 磁気刺激) が必要とされる場合があります。また、UMN signを欠く ALSもあり、注意が必要です。

②Lower motor neuron (LMN) sign

③LMN signが広範にある
頚椎症では広範な障害は少なく、Deltoid (C5) から APB (Th1) まで傷害されていれば ALSが疑わしくなります (頚椎症では、最も傷害されたレベルに所見が強いという、髄節性が見られることが多いです)。
また、 IOD, APBが傷害されるにもかかわらず ADMが保たれる症候を Split handと呼び、ALSを示唆します。

※補則ALSではIOD>APB>>ADMの強さで筋萎縮がみられると言われています。ちなみに、IODは背側骨間筋 (interossei dorsalis) のことで尺骨神経支配、APBは短母指外転筋 (abductor pollicis brevis) のことで正中神経支配、ADMは小指外転筋 (abductor digiti minimi) のことで尺骨神経支配です。いずれも C8-Th1由来です。

④Conduction block (CB) がない
ある場合は、MMNや CIDPなどを考えないといけません。

⑤ALSに specificであるとされる fasciculation
fasciculationと contraction fasciculationは針を刺さないと鑑別出来ないことがあります。Contraction fasciculationは motor unit lossで神経再支配が進むと出ますので、頚椎症などでもみられます。園生先生は「I don’t trust in clinically-observed fasciculations at all! I only trust fasciculation potentials in EMG」と述べています。
元々、fasciculationは末梢神経障害の患者で見られることがあり、場合によっては正常人でもみられるので、ALSの診断にどの程度役立てるかは議論がありました。しかし、frequent fasciculation potentialは ALSの 65%に見られ、他の疾患での出現頻度が低い (Cervical stenosis 0%, Lumber stenosis 4%, SBMA 0%, post polio 0%, CIDP/MMN 22%, Radiation plexopathy 25%, miscellaneous 6%) ことから、最近では denervationと同等の価値があると考えられています。
ALSとしばしば誤診される封入体筋炎 (IBM) では、nEMGで denervation + high amplitude MUPsが出現しますが、MMTと比較して recruitmentが保たれることや fasciculationが見られないことが鑑別点になります。
また、最近の研究でわかったことですが、舌の安静は 6%くらいしかとれませんが、Trapeziusの安静は 85%位の方でとることができます。針筋電図での fasciculationの検出率が tongue 1%, Trapezius 39%という結果を見ても、舌の針筋電図はあまり意義がないかもしれません。最近では、脳神経系に病変があるかは、tongueより Trapeziusで見るのが主流となっています。

⑥criteria: El Escorial criteria, Awaji診断基準
El Escorial criteriaで、初診時 Definite, Probable, Possible・・・いずれであっても予後には関係ないとされています。

2-2 ALSの診断 -診断に迷う症例から-
①atypical ALS
・Progressive Bulbar Palsy (PBP)
進行性の球麻痺は、両側性の場合はほとんど ALSか Kennedy-Alter-Sung病です。稀に post radiation bulbar palsy, tongue cancer, Involvement of bilateral hypoglossal canals (原発巣は前立腺癌が多いらしい) などがあるようです。
ALSで侵されやすい脳神経は、病理学的研究では XII>IX>X>XI>VII>Vm>III, IV, VIと言われています。

・Respiratory onset type
呼吸筋症状で発症し、ALSの 3%未満で男性に多いとされています。予後は通常の ALSと同等かやや早く、30.6ヶ月程度のようです。横隔膜の電気生理学的検査が診断に有用とされていて、n-EMGでは安静時に denervation potentialが見られたり、呼吸時に recruitment低下がみられるようです。NCSでは CMAP amplitude低下がみられ、これらは呼吸機能に相関するようです。

・Progressive muscular atrophy (PMA) type
上位ニューロン徴候を欠くので、診断がしばしば困難です。PMA type ALSの鑑別としては lower motor neuron syndromeとして、Pure PMA (ALSとは考えない), Segmental distal atrophy, Segmental proximal atrophy, SBMA, SMA, CMTなどが挙げられます。

・Primary lateral sclerosis (PLS) type

②その他診断に苦慮するとき
ALS with conduction blockという報告があり、ALSにも関わらず CBがあり、MCV 20~25 m/sくらいだったとされています。また、DADS-M (MAG) や fasciculationを伴う IBMもしばしば診断に苦慮します。

3-1 QOLの改善を目指したALSの治療:No cure does’t mean no hope.
「Evidenceがないからといって、なんの手段も無いということではない」をモットーに、QOL改善を考えました。
NIV (non-invasive ventilation) は生存期間中央値 205日の延長があったとの報告もありますが、球麻痺が強い例では延長できなかったとも言われています。
上気道分泌物の除去には mechanical in-exsufflator (MIE) や Intrapulmonary percussive ventilator, 体外式陰陽圧人工呼吸器などの報告があり、挿管・気切をしなくてもこれらを組み合わせて誤嚥性肺炎を治療できる場合があります。
その他、喉頭摘出術も QOLを改善する場合があります。
栄養の投与は PEGといった方法があります。FVCが予測値の 50%を切っている場合は、NIVを行いながらや、細径経鼻内視鏡で direct PEGを行うなどの PEG造設法があるようです。

3-3 医療連携と看取りの問題
WHOの勧告では NSAIDs→弱オピオイド→強オピオイドとなっていますが、弱オピオイドは呼吸抑制が強いので、ALSでは skipすることもあるようです。
モルヒネは本邦では 1990年代から用いる人が出てきました。保険適応ではないので、使用した場合は病院が患者の代わりに薬代を払っているのが現状です。
モルヒネ 2.5 mgを 3~4時間毎に頓用で上限を設定せず開始→呼吸苦の緩和が得られるまで 1回量 2.5 mgずつ増量→長時間型モルヒネへ (モルペス 1日2回) とする方法があるようで、状況により塩酸モルヒネの静注を行います。

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