カップリング
Newton誌の 2010年 12月号に今年のノーベル化学賞が扱われており、根岸英一氏と鈴木章氏が何故受賞したかわかりやすく解説されていたので紹介します。
20世紀後半に入り、金属の触媒を用いて 有機化合物を合成する研究が盛んになりました。しかしほかの炭素と 2重結合を作っている炭素同士を繋ぐことは出来ないなどの制約がありました。そこで 1972年に、今回のノーベル化学賞受賞者の一人リチャード・ヘックがパラジウムという金属を触媒に用いて、下記の性質を持つ物質を反応させることに成功しました。
1.炭素が鎖状につながった骨格の中に1カ所だけ二重結合を持つ分子である「オレフィン系炭化水素」
2.ハロゲン(フッ素、塩素、臭素など第17族元素)が端についている有機化合物
これをヘック反応と呼びます。余談ですが、パラジウム触媒を世界で初めて応用したのは辻二郎東京工業大学名誉教授で、ヘック博士がヘック反応を完成させる 1年前に同じ内容の反応法を東京工業大学の溝呂木勉博士(故人)が発見しています。溝呂木博士は生きていればノーベル化学賞を受賞していたかもしれません (残念ながら、ノーベル賞は故人には与えられないことになっています)。
しかし、ヘック反応では反応する化合物の一方がオレフィン系炭化水素でなければいけないという制約がありました。そこで様々な炭素ー炭素結合を作る方法として開発されたのが「クロスカップリング」という反応でした。ヘック反応は二重結合とハロゲンを目印として繋ぎ換えをしましたが、クロスカップリングはこの目印を代わりに金属にしています。
初期は金属としてマグネシウムが使われていましたが、正確性に難がありました。そこで根岸英一博士は、触媒にパラジウム、つなぎ換えの目印に亜鉛を用いて正確にクロスカップリング出来るようにしました。これは「根岸反応」とか「根岸カップリング」と呼ばれました。
ところが、つなぎ換えの目印に金属を結合させると、空気や水と反応しやすく、長期保存ができなかったので、鈴木章博士は亜鉛などの金属の代わりに非金属であるホウ素を用いました。これが「鈴木カップリング」です。1979年の発見でしたから、私が 3歳のときですね。今後は、パラジウムより安価で入手しやすい触媒を探す方法、カップリングの副生成物(根岸カップリングでは亜鉛、鈴木カップリングではホウ素)を水にする試みなどが研究されているようです。
2011年 1月号ではノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生と鈴木章先生のインタビューが掲載されています。ホウ素を用いる意義、メカニズムなどもう少し詳しい話も載っていますので、興味のある方は是非御覧ください。
ちなみに、ちょっとしたネタですが、報道ステーションでお馴染みの古舘さんの理論は、ノーベル賞を取れるくらい凄いらしいです。なんか、炭素の手の数も合っていないし、ベンゼン環の途中から手が伸びるし、あまりに凄い理論に笑ってしまいました。
さて、おいらがカップリングするためには何の触媒と目印を用いるのが良いのでしょうか?