J-CAN2011
8月27日、J-CAN 2011「α-synucleinopathy: update」という研究会に行ってきました。10:00-18:30までみっちりでした。
個人的には、[11C]BF-227 PETや iPS細胞、バイオマーカーとしての脳脊髄液のα-synucleinの話が面白かったです。
一点気になったのは、多系統萎縮症 (MSA) の原因遺伝子の話。数週間前に北海道大学から、重要な論文が出ていたのですが、多くの研究者が「遺伝子さえわかれば・・・」と発言しており、その論文を知らない感じでした (誰も言及した研究者がいなかったので、質疑応答でこの論文について質問しようかと思ったのですが、大御所達のオーラに負けた私は小さくなって黙っていたのでした)。
読んだのが少し前なので若干忘れた部分もありますが、この論文の要旨は、
①一卵性双生児で、片方が発症して片方が発症していない兄弟の whole genomeを調べた。
②3カ所の Copy number lossを認めた。
③そのうちで、subtelomereにある 19p13.3に注目した。なぜなら、subtelomereは欠失や重複の起きやすい部位だからである。
④孤発性 MSA患者 (MSA-p11名, MSA-c 22名) で、19p13.3を調べたら、33名中10名で Copy number lossを認めた (MSA-p, MSA-cなど、表現形に統計学的な有意差はなかった)。正常コントロールでは異常を認めなかった。
⑤Copy number lossのあった部位には SHC2, HCN2, MADCAM1, FGF22といった遺伝子が含まれるが、その中でもモデルマウスで神経系の異常を引き起こすとされる SHC2が原因であると考えた。しかし、SHC2以外の遺伝子も神経系への関与が疑われている。
というものでした。今の時代、GWASとか盛んに行われていますが、Copy number variationは塩基配列の異常を伴わないので、盲点になりやすいのですね。
MSAの発症メカニズムは良くわかっていませんが、この論文が示したように遺伝子異常が明らかとなり、候補となる蛋白質がわかれば、研究がずっとしやすくなります。
MSAでは病理学的に oligodendrogliaに異常が見られることが有名ですが、SHC2が oligodendrogliaでどのような役割をしているかとか、oligodendrogliaの蛋白とどのような相互作用をするかとか、或いは MSAで出現する glial cytoplasmic inclusion (GCI) の主要構成蛋白である α-synucleinとどう関係しているかと考えると、ワクワクしてきます。