救命
「救命 東日本大震災、医師達の奮闘 (海堂尊監修, 新潮社)」を読み終えました。被災した、或いは震災直後から現地に乗り込みボランティアをした九名の医師が体験を綴っています。先日紹介した「石巻赤十字病院、気仙沼市立病院、東北大学病院が救った命」という本が病院に所属する医師としての目線だったのに対し、こちらは個々の医師としての目線で書かれています。津波で病院の屋上まで避難しそこで患者さん達と一晩を過ごした医師、「(酸素)ボンベの切れ目が命の切れ目」という現実、その中でそれぞれが震災を必死で生き、職務を全うしている姿が伝わってきました。
歯科医江澤庸博先生の章での「(身元確認の資料として)デンタルデータベースを作ってはどうか」、川越一男先生の章での「(震災後に無線が混乱して情報伝達が出来なかったので)テレビのアナログの周波数帯に医療の専用チャンネルを作ってはどうか」といった提言は、次に起こりうる関東、南海での大震災に備える上で重要だと思います。
震災以外にも、興味を引く話がありました。震災前既に平成24年3月31日での退職が決まっていた田老診療所の黒田仁先生の、退職が決まるまでの市とのゴタゴタです。黒田先生は外来60人/日、入院患者10名、訪問診療、老人ホームを担当し、休日は第三土曜日の28時間のみ。7時過ぎ~23時頃までの勤務に加え、夜間の呼び出しもある職場で身を粉にして働いていました。医師二人体制を目指して作られた診療所だったのに、黒田先生が一人で何とか支えていたのです。なのに宮古市議会では「現在、市の診療所の医師数は充足しておりますが・・・」とした市長の答弁があり、一方市の医師募集サイトではこの診療所への募集をしていなかった、こうした市の姿勢に心が折れたのだそうです。医師が去る地域がどういう地域なのか垣間見た気がしました。そしてこうした地域で働く医師がどんな気持ちで働いているかも少しわかりました。
色々な意味で、読んでみて頂きたい一冊です。