認知症の診断と治療の進歩

By , 2012年2月28日 9:46 PM

ラボでの実験が早く終わったので、久々に大学に遊びに行きました。たまたま研究会をやっていたのでふらりと参加したら、滅茶苦茶面白い講演でした。講演は「認知症の診断と治療の進歩」で、演者は東京医科大学老年病科の羽生春夫教授でした。教科書に書いていない、最先端が多かったです。以下、備忘録代わりに、内容の抜粋を書いておきます。

・Mini-Mental State Examination (MMSE) は、元々の認知機能が高い人、つまり学歴が高かったり社会的に高い立場の人に対しては感度が低い。Cut offを通常の 23/24に置くと、感度 0.66, 特異度 0.99, 通常より高い 27/28に置くと感度 0.89. 特異度 0.91になる。

・認知症スクリーニング検査での計算課題は注意力の低下を見ているので Diffuse Lewy body disease  (DLB) で落ちやすい、遅延再生は Alzheimer病 (AD) で落ちやすい。

・MMSEが 10-12分かかるのが大変なので、1分間スクリーニングというのがある。Category fluencyは 1分間で動物の課題を出来るだけたくさん答えてもらうもので、頭頂葉内側機能を見ている。海外の studyでは得手不得手に考慮して、動物、フルーツ、スポーツなどいくつかの分野を出題することもある。Letter fluencyは「カ」で始まる言葉などを列挙してもらうもので、前頭葉機能を見ている。Category fluencyも Letter fluencyも  Mild cognitive impairment (MCI) や ADで低下する。

・Test your memoryという検査法は、自己評価で行うことができる。ADや MCIでは病識がないので、他者からの評価より自己評価の方が高い。うつや神経症では逆になる。

・ADだと全脳の容積は 18%, 海馬は 45%低下する。海馬容積を評価する VSRADは、次期 Versionが開発され、より感度が高くなった。VSRADは Z-scoreの数字だけを見るのだけではなくて、元画像で正しい部位を評価しているか確認することが大事。また、海馬の atrophyは sensitiveだが ADにspecificではない。

・ADはアミロイドアンギオパチーを合併するなど、血管障害を合併することが多い。ADと Vascular dementia (VaD) は同じ spectrumで mixed-dementiaと呼ぶことがある。

・VaDと思われる症例で、MRIでの白質病変が同じくらいでも認知機能が異なることがある。Diffusion tensor image (DTI) で走行線維を見ると、認知症のある患者は脳室周囲の前後方向の線維がかなり落ちている。従って、同じ白質病変でも病理学的に違うのだろう。”cell/synaptic density” を反映する 123I-iomazenil (IMZ) で見ると、VaDでは前頭葉が、VaD+ADでは前頭葉+頭頂側頭葉で取り込みが低下している。

・MRI T2*も VaDと ADの鑑別に有用で、VaDでは 77%, ADでは 32%に micro-bleedingがある。

・REM sleep behavior disorder (RBD) は Parkinson disease (PD) / DLBに先行する。 MCIから ADを発症するのは 3~5年だが、RBDから PD/DLBになるには 10~20年以上かかるので追跡が難しい。さらに、PD/DLBを発症すると、RBDが軽くなることがある。

・idiopathic RBD (iRBD) では、84例中 82例で MIBGシンチで取り込みが低下している。 また、iRBD患者の MRIで Voxel-based morphometryを行うと、小脳・中脳橋被蓋部で容積低下がある。SPECTでは、DLB, iRBDともに後頭葉で血流低下がある。経過中画像が悪化しても、必ずしも症状は悪化しない。

・Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD) には、メマンチン、抗てんかん薬、漢方薬などを使用する。漢方薬について、太っている患者には、抑肝散より柴胡加竜骨牡蛎湯の方が良く効く。

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