第5回上肢の機能回復セミナー

By , 2012年7月26日 7:55 AM

第5回上肢の神経機能回復セミナーに参加してきました。

6月29日は前夜祭で、Evening seminarが行われました。京都大学の福山秀直教授による SPECTを用いた歩行中枢の検討では、立位で小脳虫部が、歩行に運動野と補足運動野が、パーキンソン病での Kinesie paradoxaleに前頭前野が重要な働きを働きをしていることが示されました。Larry B. Goldstein先生は米国脳卒中学会理事で、米国の脳卒中ガイドラインを作った方ですが、アメリカ東海岸の stroke beltと呼ばれる地域の話をしてくださいました。Primary Stroke Center (PSC) を作って専門的な管理をするようにしてみたものの、劇的な改善には至らなかったそうです。質疑応答で、「米国での脳卒中専門施設の数は限られ、そこにアクセスするには時間がかかると思うけれど、t-PAは間に合うのか?」と問われ、Goldstein先生は「Drip and ship」と答えていました。最初の医療機関で t-PAを注射してから搬送する方法がとられるらしいです。

夜のレセプションでは、Everlyの演奏を聴くことが出来ました。Everlyのブログでもこの日の演奏に少し触れられていますね。なかなか素晴らしかったです。

6月30日は 10時30分~20時10分までみっちりと講演がありました。特に印象に残っている話をいくつか抜粋して紹介します。

・岡山大学阿部康二教授「脳梗塞の脳保護療法と再生医療」では、基礎医学の話を色々聞くことができました。脳卒中後の rat脳に iPS細胞を入れると腫瘍化するらしいのですが、ratの骨髄をとっておいて脳梗塞の ratに投与すると効果があることから G-CSFを用いた脳梗塞治療が研究されていて、現在第3相試験が行われているそうです。

・Brain Motor Control Assessment (BMCA) では、multi-channelの表面筋電図を用いて運動制御の障害を評価します。現在行われている臨床試験を検索するサイトで複数登録されることからもわかるように、注目を集めてきているようです。

・国立精神・神経医療研究センター神経内科の坂本崇先生の「ジストニア・痙縮のボツリヌス治療」では、「適切な量を 適切な間隔で 適切な筋に」をモットーに、ボツリヌス注射についての実践的な話を聞くことができました。興味深かったのは、ジストニアでの sensory trickについて。ジストニアのある患者さんが患部を触ると症状が改善する現象ですが、触れる前から効くし、他人の手を使ったり逆の手を使うと効かないらしいのです。このことから、どうやら肩の位置覚が関与しているのではないかと推察されていました。

・前日にも講演された Goldstein先生が、「Current Guideline-Based treatment of Acute  Ischemic Stroke in the United States」 という演題で講演されました。アメリカの脳卒中ガイドラインについての話でした。例えば、AHAのガイドラインでは、発症3時間以内の t-PA療法は class I, LOE A, 発症4.5時間以内の t-PA療法は class I, LOE Bとされています (80歳以上やワルファリン内服は除外基準)。発症4.5時間以内での t-PAの NNH or NNTは Mortality 143, ICH 29, good outcome 11となります。その他、抗凝固療法について、アスピリンについて、開頭減圧術についてガイドラインの根拠となった論文が示されました。また、Goldstein先生が教授を務める Duke大学に脳卒中疑いで搬送されてきた患者のうち 21%が脳卒中ではなく、脳卒中患者のうち出血性脳卒中が 15-20%, 虚血性脳卒中が 80-85%であったデータが示されました。t-PAの meta analysis脳卒中の初期対応についても触れられました。興味深かったのは、篠原先生からのコメントで、「アメリカでは Class I, IIa, IIb, III (Benefit/Risk). Level A~C (Evidence) で分けているけれど、それだと systematic reviewっぽくなってしまうので、日本では C1, C2といったクラスを設定して、提言的な意味を持たせている」ということでした。

・篠原幸人先生は、「私の Serendipity」というタイトルで講演されました。優れた臨床家であり、かつ研究者でもあった篠原先生の Serendipityについての話です。抄録がよくまとまっていますので是非御覧ください。抄録には論文名しか書いていませんが、Routed protein migrationは実験中に病棟に呼ばれ、タイムスケジュールが狂ってしまったので、いっそのことと思って 24時間置いておいてからネズミを解剖してみたら、タンパクが広がって流れていたことで発見されたそうです。また、排便失神の患者さんにValsalva手技をしてみたら血圧が下がったことで閃きを得て、Shy-Drager症候群の 3例に Tilt試験をして脳血流を検査してみたそうです。そうしたら脳血管の自動調節能が失われていることがわかりました。つまり自動調節能には自律神経が関係しているということです。一方、Shy-Drager症候群でも二酸化炭素への反応性 (血中二酸化炭素濃度が上がると血管が開く) は保たれており、自律神経とは別のメカニズムによることがわかりました。こうした発見のエピソードを興味深く聞きました。

・桑山直也先生はサテライトシンポジウムで頸動脈狭窄症への血管内治療の話をされました。動画を使ってのビジュアル的な講演で、とてもインパクトがありました。ステント設置の際に血管を拡張しすぎるとフィルターが機能しないことがあるので注意しなければいけないとか、術者からの生きた話が聞けました。また狭窄部位を解除した後の過還流での出血はしばしば問題になり、CEAだと血圧コントロールである程度防げますが、CASだと血圧コントロールしてもダメなのだそうです。しかし、最近 staged CASという方法が開発され、PTAで (2 mmのバルーンを用いて) 予め少し拡張しておき、2週間~2ヶ月後に CASを行うと予防出来る場合があるのだそうです。

講演が終わってからは、打ち上げがあり、地元の伝統芸能保存会の方が、歌と踊りを披露してくださいました。なぜか、私が指名され、即興で締めの挨拶をさせられましたが、やっぱりこういうのは経験がないと、とっさに良い挨拶は出来ませんね。思い出すと赤面モノです。

最後に、角館にこれだけの名士が集まったのは、ひとえに主催された西野院長の人徳だと思います。この会が素晴らしいのは、分野が全く違った人たちがアットホームな雰囲気の中勉強できることだと思います。神経内科、脳神経外科、リハビリ、基礎医学、様々な分野の専門家が集い、多面的に見ることで、知的な刺激を受けます。医学生や医学部を志望する高校生まで参加していたそうで、若者たちにとっても得がたい経験になったのではないかと思います。このセミナーがこれからも続くことを願います。

(参考)

上肢の機能回復セミナー1

上肢の機能回復セミナー2

上肢の機能回復セミナー3

第3回上肢の機能回復セミナー1

第3回上肢の機能回復セミナー2

第4回上肢の機能回復セミナー

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