MUSICOPHILIA
「音楽嗜好症 (オリヴァー・サックス著、大田直子訳、早川書房)」を読み終えました。
オリヴァー・サックスの書いた本を読むのは初めてでしたが、彼は独特の研究スタイルを持っていると感じました。多くの科学者は、間違いないと確認されたことを足がかりに次のステップに進んでいきますが、彼の場合はとりあえず正確かどうかは二の次にして手に入る限りの情報を集めて、その中からエッセンスを抽出する方法を取っているようでした。そのため、所々「本当にそう言い切れるのかな?」と感じさせる部分はありましたが、独自の視点で音楽について論じることが出来ていました。
本書は、音楽に対して医学的にあらゆる角度からアプローチしています。症例が豊富ですし、論理を裏づけるために引用した科学論文も膨大な量です (末尾に文献集があります)。
特に印象に残ったのはパーキンソン病と音楽療法についてです。日本では林明人先生が「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」を出されていますが、L-Dopa登場前に既に行われていて、大きな効果を上げていたことは初めて知りました。
また「誘惑と無関心」と題された、失音楽に関する章でイザベル・ペレッツの名前を見た時は驚きました。メールのやり取りをしたことがある研究者だったからです。この業界では有名人なので、登場してもおかしくはないのですが。
それと、ウイリアムズ症候群の患者達がバンドを組んでデビューしている話も興味深かったです。Youtubeで動画が見られます。
・The Williams Five
5足す 3が出来ないくらいの mental retardationがありながら、プロの音楽家として立派に活躍しているというのは、音楽がそういうことは別に存在していることを示しています。
このように興味深い話題が豊富なのですが、内容をすべては紹介できないので、代わりに目次を紹介しておきます。本書がどれだけ広範な角度から音楽にアプローチしているか、伝われば幸いです。
序章
第1部 音楽に憑かれて
第1章 青天の霹靂―突発性音楽嗜好症
第2章 妙に憶えがある感覚―音楽発作
第3章 音楽への恐怖―音楽誘発性癲癇
第4章 脳のなかの音楽―心象と想像
第5章 脳の虫、しつこい音楽、耳に残るメロディー
第6章 音楽幻聴
第2部 さまざまな音楽の才能
第7章 感覚と感性―さまざまな音楽の才能
第8章 ばらばらの世界―失音楽症と不調和
第9章 パパはソの音ではなをかむ―絶対音感
第10章 不完全な音感―蝸牛失音楽症
第11章 生きたステレオ装置―なぜ耳は二つあるのか
第12章 二〇〇〇曲のオペラ―音楽サヴァン症候群
第13章 聴覚の世界―音楽と視覚障害
第14章 鮮やかなグリーンの調―共感覚と音楽
第3部 記憶、行動、そして音楽
第15章 瞬間を生きる―音楽と記憶喪失
第16章 話すことと、歌うこと―失語症と音楽療法
第17章 偶然の祈り―運動障害と朗唱
第18章 団結―音楽とトゥレット症候群
第19章 拍子をとる―リズムと動き
第20章 運動メロディー―パーキンソン病と音楽療法
第21章 幻の指―片腕のピアニストの場合
第22章 小筋肉のアスリート―音楽家のジストニー
第4部 感情、アイデンティティ、そして音楽
第23章 目覚めと眠り―音楽の夢
第24章 誘惑と無関心
第25章 哀歌―音楽と狂喜と憂鬱
第26章 ハリー・Sの場合―音楽と感情
第27章 抑制不能―音楽と側頭葉
第28章 病的に音楽好きな人々―ウィリアムズ症候群
第29章 音楽とアイデンティティ―認知症と音楽療法
謝辞
訳者あとがき
参考文献